食事を終えてから、二人は一緒に街に出掛けた。
カルセが買ってやった服を着て嬉しそうに歩くシュタウフェンベルク。
こうして街を散歩するのは好きなのだと彼は嬉しそうにいった。
「あんまりはしゃぐなよ、離れても探してやんないぞ」
エビルは少し意地悪のつもりでそういった。
勿論、彼を離すつもりなんてないし、万が一にも離れようものなら、血眼になって探すだろう。
しかし。
それを聞いたシュタウフェンベルクはこれ以上にないくらい大きく目を見開いてから、ぎゅううっとエビルの腕にしがみついた。
彼の行動に、エビルは驚いて目を見開く。
「な……っ、ど、どうした?」
「離れない……だから、おいていかないで」
泣き出しそうな顔をしてそういうシュタウフェンベルク。
エビルはそれを見てまばたきを繰り返してから、ふうっと息を吐き出した。
そして目を細めながら、わしゃわしゃと彼の頭を撫でてやる。
「……だったら、ちゃんと俺と一緒にいろよ?」
約束だ。
エビルはそういう。
するとシュタウフェンベルクは何度も何度も頷いて、しっかりとエビルにくっつく。
子供独特の温もりを感じながら、エビルは街のなかを歩いていったのだった。
色々な、店がある。
エビルよりも、シュタウフェンベルクの方が街の中には詳しかった。
此処がおもちゃ屋さん。
こっちはお菓子屋さん。
お洋服は此処で買ったんだよ。
そう説明していく、幼い少年。
エビルはそうか、と返事をしつつ、街の中を見渡していた。
と、一軒の店が目にはいる。
そしてくい、とシュタウフェンベルクの手を引っ張って、いった。
「俺も服を買ってやるよ。
最近寒くなってきたし、冬の服もいるだろう?」
カルセが買ってやった服は秋の服だ。
もう少し暖かい冬用の服がいるだろう、とエビルは言う。
それを聞いて、シュタウフェンベルクは嬉しそうな顔をして、何度も頷いた。
エビルはそんな彼の手を引いて、目に留まった店に入っていったのだった。
彼が見つけた店は、ゴシック系の服が多くおいている店だった。
黒い服が並ぶその光景に、エビルは惹かれたのだ。
元々彼自身が黒い服を着ている。
だから黒が好きだと言うのがひとつなのだけれど……
もうひとつの理由としては、シュタウフェンベルクに、自分と揃いの黒い服を着せたいと言う思いがあるのだった。
シュタウフェンベルクはわぁあ、と声をあげている。
たくさんレースやリボンがついた黒い服。
男性ものもあるようだが、女性ものが多いだろうか。
子供服もあるのを確認しながら、エビルは彼に問いかけた。
「こういう服は嫌いか?」
着せたいところだが、彼が嫌がるようなら、無理に着せる必要はない。
そう思いながらエビルが言うと、シュタウフェンベルクは彼の方を見た。
そしてじぃっとエビルを見ながら、首をかしげる。
「エヴィとお揃い?」
そう問いかけるシュタウフェンベルク。
エビルはその言葉にぱちぱちとまばたきをして、小さく頷いた。
「お、おぅ。黒い服、お揃いだな」
自分の思考を読まれたのかと思って、少しどきりとした。
しかし彼はただただ無邪気に微笑んで、言った。
「嫌じゃないよ、嬉しい」
そういって、彼は笑う。
エビルはそれを聞いて少し嬉しそうにしながら、手近にあった服を手に取った。
「そ、そうか!じゃあ、ほら!これなんかどうだ?」
彼は様々な服を選んでは、シュタウフェンベルクの体に当てる。
……ヒラヒラしたレースやリボンがついたものが多いのは、ご愛敬と言うやつだ。
***
「すごく買っちゃったけど……大丈夫?」
シュタウフェンベルクはエビルが手にもった紙袋を見て、そう呟く。
結局、エビルが気に入った服を山のように買ったのだ。
かなり大量になっている荷物。
こんなに勝手も大丈夫なのかとシュタウフェンベルクは問いかける。
しかしエビルはにっと笑った。
そして"んなこと気にすんなよ"という。
「ちゃんと金は払ってるんだから。
それに、俺からお前へのプレゼントだよ、ミクローシュ」
これからよろしくなって意味の。
そう言って笑うエビル。
シュタウフェンベルクはそんな彼を見てぱちぱちとまばたきをしてから、嬉しそうに笑った。
「ありがと、エヴィ」
「ん、いいぜ。……さ、こい」
エビルはそういいながら、シュタウフェンベルクに向かって空いている腕を伸ばす。
彼の行動にきょとんとしつつ、シュタウフェンベルクはエビルに歩み寄った。
それと、同時。
「せぇのっと!」
そう声をあげて、エビルは片腕でシュタウフェンベルクを抱き上げた。
きゃあっと声をあげつつ、シュタウフェンベルクは彼にしがみつく。
そして大きく目を見開いた。
「わぁあ……高いぃ」
そう声をあげる彼は、目を輝かせている。
エビルはそれを見て、目を細めた。
本来のお前は同じくらいの身長なんだぞ。
そう思いながら、エビルはシュタウフェンベルクを抱き上げてやっていた。
「ほら、このまま帰るぞー」
「え、重たくない?」
少し心配そうに、シュタウフェンベルクは言う。
エビルは彼を見て笑いながら、言った。
「余裕余裕。ほい、いくぞー!」
そういいながら、エビルは足を進めていく。
シュタウフェンベルクは彼の腕に抱かれ、揺られながら、はしゃいだ声をあげていたのだった。
***
家に戻ると、エビルは荷物を片付けて一息ついた。
それからぐっと伸びをして、呟くように言う。
「よし、夕飯の準備するか」
そうエビルが言うと、ソファに座って休憩していたシュタウフェンベルクが立ち上がった。
そしてさっきの買い物の袋の中から、小さな袋を取り出す。
「お手伝いするよ」
シュタウフェンベルクがそういいながら袋から取り出したのは、白いエプロン。
それも、先程彼に買ってもらったものだった。
エビルの手伝いがしたいというシュタウフェンベルク。
そんな彼の気持ちが嬉しくて、エビルはついつい、揃いのエプロンを買ったのだった。
「おー、そっかそっか、じゃあ手伝ってくれ、怪我しないようにな」
そういいながら、エビルは彼の背中でエプロンの紐を結んでやった。
はいリボン結び、というとシュタウフェンベルクは嬉しそうな顔をする。
エビルも少し自分の趣味とは違う可愛らしいエプロンを身に付けながら、言った。
「今日の夕飯はどうするか……ハンバーグでも作るかね」
「ハンバーグ、好きだよ」
嬉しそうに笑いながら、シュタウフェンベルクは言う。
エビルはそうか、と言いつつエプロンを揺らす彼の頭を撫でた。
「じゃあ、手伝ってくれな。一緒に美味しいハンバーグ作ろう」
「うん」
頷く彼と一緒に、食事を作る。
料理慣れしていないエビルよりは、ずっとカルセの近くで料理の様子を見ていたシュタウフェンベルクの方が上手だったりして。
エビルは不甲斐ないと思いつつ、少年を誉めて、一緒に夕飯を作っていった。
「美味しくできたねー」
出来上がった食事を二人でとりながら、シュタウフェンベルクは嬉しそうに言う。
最初こそカルセに会いたいと愚図っていた彼だったが、すぐにこうして慣れてくれた。
それが、純粋に嬉しい。
そう思いながら、エビルは彼と一緒に過ごしていたのだった。
***
風呂に入って、一緒にベッドにはいる。
生憎ベッドはひとつしかなかったが、シュタウフェンベルクは今は小柄な子供。
二人で寝ても、何ら問題はない。
「狭くないか?」
エビルが気にしたように言えば、シュタウフェンベルクはこくりと頷く。
そして少し嬉しそうな表情を浮かべて、彼は言った。
「エヴィと一緒に寝られて、嬉しい」
子供らしく無邪気で可愛らしい表情で彼はそういう。
エビルはそれを見て笑みを浮かべると、彼の頭をわしゃわしゃっと撫でながら、言った。
「このやろー、あんまりかわいいこと言うなよぉお」
うりうり、と彼を擽る。
シュタウフェンベルクは少し照れたように笑う。
「きゃー、やめてよぉ」
「やめねぇよぉ、うりうりー!」
こちょこちょと擽れば、彼は笑い声をたてる。
元々のシュタウフェンベルクを知っているエビルからしたら新鮮な姿だった。
「ふあぁ……」
ひとしきりはしゃいだのち、シュタウフェンベルクは小さくあくびをした。
エビルはそれを見て目を細める。
それから優しく彼の頭を撫でて、言った。
「眠くなったか、寝ていいぜ」
「んー……」
シュタウフェンベルクは小さく頷きながら、エビルの服をきゅっと掴んだ。
どうやら、彼が離れていなくなるのではないか、と不安らしい。
エビルはそんな子供の姿に目を細めた。
それから、ぎゅっと彼を抱き締めてやる。
「ちゃーんと傍にいてやるから、安心して寝ろよ」
そういうと少年は薄く目を開けた。
それから、幸せそうにへにゃりと笑う。
「……エヴィ、ありがと」
彼の表情と幸せそうな声に、エビルは思わず固まった。
……なんとかわいいんだろう、彼は。
そうして彼が固まっている間にくぅくぅと寝息をたてて眠ってしまう、幼子。
その愛らしさに表情を綻ばせつつ、エビルも目を閉じたのだった。
―― か弱い幼子の… ――
(子供をかわいいなんて思ったのははじめてで。
こんな小さな温もりを俺が守るのだと改めて感じた)
(優しくて、暖かい彼の体。
安心して眠れる場所を、俺は与えられているだろうか)