件のifパロシリーズです。
前回の続きちっくで科学者道化師コラボと、大佐殿とぺルの話です。
*attention*
件のifパロシリーズです
シリアスなお話です
科学者道化師コラボと大佐殿とぺルの話です
みんなが笑えない空間が苦痛なムッソリーニさんと、ぺルを守りたい大佐殿
この状況じゃ励ましの言葉ひとつまともに浮かばないだろうな、と
とりあえず色々すみませんなシリアスなお話です
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
ムッソリーニとカルセは病棟にむかった。
その一室にフィアを寝かせて、一息つく。
椅子を持ってきたカルセの姿を改めて見たムッソリーニははっとして目を見開いた。
彼の白衣には点々と血が散っていた。
それは、そうだろう。
城に近づけば近づくほど、人々と騎士団の争いは激化している訳で、そこを抜けてここに来る途中で傷を負ってもなんら不思議はない。
しかしムッソリーニの視線に気がついたのだろう、カルセは彼が口を開くより先に、いった。
「大丈夫ですよ、私は殆ど怪我をしていませんから」
ほとんど、という発言も気になりはしたが、それより先。
ムッソリーニはこわごわと、彼に問うた。
「……返り血、とか」
あり得ない、とは言い切れなかった。
今は違うとはいえカルセもかつては騎士団に所属していた。
騎士団から抜けたとはいえ、王女への忠誠が消える訳ではあるまい。
しかしムッソリーニが想定した"最悪の事態"は、外れだったようだ。
彼は苦笑を漏らして、いった。
「私が殺めた訳ではありません。こちらに向かってくる途中で怪我人を何人か、手当てしてきたので」
その痕なのですよ。
そういいながら彼は白衣を脱ぐ。
確かに、彼のシャツには血のあとはなかった。
少し腕が怠そうなのは、痛めたのか……フィアを抱くのを代わってあげればよかった。
ムッソリーニがそう思うのと同時、彼はぎゅっと、ムッソリーニの体を抱き締めた。
「貴方も無事なようで、安心しましたよ、ムッソリーニ」
そういいながら、彼は優しく柔らかい金髪を撫で付ける。
彼の体の温もりを、優しさを、慣れた香りを感じながら、ムッソリーニはこくりと頷いた。
「……うん」
無事だよ。
大丈夫だよ。
そういうムッソリーニ。
カルセはそんな彼の体を離して……眉を下げた。
「そんなに悲しそうな顔をしないで下さい」
そういいながらカルセはそっと、ムッソリーニの頬を撫でる。
柔らかい頬をふにふにとさわってやれば、彼の目から涙が溢れ出した。
「っ……誰も、笑ってない……」
震える声で、彼は言う。
カルセはそんな彼を抱き締めてやりながら、いった。
「そう、ですね」
「皆、疲れた顔してる……
いつも笑ってたアネットだって、あの調子で……っ」
いつも明るく笑っていたアネットも、恋人を亡くして笑顔を失った。
ただただ眠り、目を覚ましては泣いて、を繰り返しているらしい。
いつも自分の冗談に呆れながらも笑ってくれた男装騎士も、あの調子。
誰一人として、笑ってはくれない。
誰も、誰も……――
そういって、ムッソリーニは泣き出した。
カルセは優しく彼を抱き締めてやる。
涙をこぼして震える彼の背を撫でる彼も、悲痛の表情を浮かべていた。
ムッソリーニは誰よりも、他人の笑顔を喜ぶ子だから。
皆の笑顔が消えているこの状況は、あまりに苦しいのだろう。
「っ、わらえ、なんて言えないけど……でもっ」
「わかっていますよ。……辛いですよね」
カルセにとっても辛い。
きっとムッソリーニはずっと笑っていたのだろう。
誰も笑わないこの状況で、少しでも皆を明るくしようとして。
時に能天気、恥知らずと罵られようとも。
「……大丈夫ですよ、ムッソリーニ」
こんなにも頼りない声での"大丈夫"は、初めて聞いた。
そう思いながら、ムッソリーニはカルセに縋りついた。
***
うとうとと、寝入っていた。
そんな隻眼の騎士の傍に近づく、小さな影。
彼はそうっと、彼の体に毛布をかけようとした。
しかし、気配に敏い彼。
しかも、この状況だ。
彼ははっと、目を覚ました。
「ん……ぺルか」
「ごめんなさい……大丈夫?」
彼に毛布をかけようとしていたのは、彼の弟である少年……ぺル。
申し訳なさそうな顔をする彼にゆっくりと首を振ってシュタウフェンベルクはいった。
「あぁ、大丈夫だ……」
すまない、と彼は言う。
眠るつもりはなかったのだけれど、やはり疲れていた訳で……
ぺルは謝る彼に首を振った。
そして、持ってきた毛布をそっと彼の体にかけながら、いう。
「ヘフテンも、疲れて寝てた……だから、毛布かけてきたの」
だから、クラウス兄さんにも。
ぺルはそういう。
それを聞いて、シュタウフェンベルクは表情を緩めた。
「そうか。ありがとう」
彼はそういいながら、そっとぺルの頭を撫でてやる。
ぺルは彼の手を受けながら、嬉しそうに微笑む。
それから……表情を暗くした。
シュタウフェンベルクを始め、自分が好きな人たちが疲弊しているのは知っていた。
だから、と彼は口を開く。
「僕も、なにかお手伝い……」
出来たら、いいんだけど。
ぺルはそういいながら、俯く。
できることがあまりないことはわかっているものだから、それ以上言葉を伝える事はできなかったけれど……――
「なぁ、ぺル」
シュタウフェンベルクが静かな声で、彼を呼んだ。
ぺルはぱちぱちとまばたきをする。
そして小さく首をかしげた。
「……?なぁに、クラウス兄さん」
どうしたの?
そう問いかけるぺルの漆黒の瞳を、シュタウフェンベルクは見つめる。
真っ黒い、瞳。
雲のない夜の空のような、瞳。
それに少し怯みつつ、彼は息を吐き出して、いった。
「ハンスさん……ヘフテンのお兄さん、覚えているか」
そう問いかけるシュタウフェンベルク。
それを聞いて、ぺルはぱちぱちとまばたきをした。
「?ん、覚えてる、けど」
それが、どうしたの?
ぺルは話の展開が読めなくて、不思議そうに首をかしげている。
シュタウフェンベルクは彼を見つめた後、視線をはずして……いった。
「彼に、ついていけ」
そういう、シュタウフェンベルク。
彼の言葉にぺルは黒い瞳を大きく見開いた。
「え?」
「此処は危ないから。
彼なら、安全なところに連れていってくれるだろう」
田舎の城ならきっと安全だ。
ヘフテンの兄……ハンスは国際法で守られている大使館員だから、安全につれていってくれるはず。
ヘフテンもそうした方がいいといっていたから、そうするつもりだった。
しかし。
「や、嫌だよ、だって、クラウス兄さんは……?」
ぺルはそういいながら、シュタウフェンベルクにすがり付く。
やっぱりか、と思いつつ、彼はいった。
「私は、この城に残る。本当は、ヘフテンにも帰れといったんだが……」
―― 何いってるんですか、大佐。僕は大佐の腕であり目なんですよ!
そう、怒られた。
どんな決断をしたとしても最後まで一緒だ、と。
「離脱何てできない、と言われてしまった」
そういって、彼は苦笑する。
ぺルは彼の言葉に眉を寄せた。
そして、きゅっと彼の服を掴みながら、いった。
「それなら、僕だって……」
「駄目だ」
きっぱりとシュタウフェンベルクはぺルにいう。
ぺルが戦える事は知っている。
かつて、あの堕天使の下で働いていたことも。
人を殺めることにだって慣れている彼は、その気になれば戦力にもなるだろう。
けれど……
シュタウフェンベルクにとっては、可愛くて非力な弟なのだ。
「…………」
「私の言うことが、聞けるな?」
黙り込むぺルに、シュタウフェンベルクはいう。
暫し沈黙を守っていたぺルだったが、シュタウフェンベルクに見つめられると根負けしたようにこくりと頷いた。
「……うん」
「良い子で、待っていられるな」
念を押すように、言う。
するとぺルは嫌々ながら、と言うように頷いた。
「……待って、る」
「よし。……良い子だな」
シュタウフェンベルクはそういって、ぺルの頭を撫でてやる。
その優しい手を受けながら、ぺルは泣き出しそうな顔をしていたのだった。
―― 確証のない… ――
("大丈夫"という言葉も、約束も、不確かなもので。
けれど、きっと大丈夫だと、約束をしようと私は告げるのです)
(終わりの見えない戦いから、愛しいものを遠ざけた。
自分のエゴと知っている、けれど……)