アズルのお話です。
コラボCP意識ですが、アズル単独で。
強いて言うならほぼモブキャラの教育係に名前がついていたり。
アズルは決して周囲に嫌われる子ではありませんが、屡々呆れられたりしてそうだなぁと。
それを知りつつどうしようもない環境にずっと生きてきた子だと思います。
割りと思考はダーク。
ディナの明るさを見習ってほしい。
…当人も見習いたいと思ってます←
ともあれ、追記からお話です!
秋の日差しが降り注ぐ中庭。
そこに響くのは金属がぶつかり合う音。
高い金属音の連続。
振り下ろされる、鋼の剣。
銀色に輝くそれが幾度も振るわれ、それを受ける紫の髪の青年……アズルは必死にそれを防いでいた。
振り下ろされる剣。
それを防ぐアズルの剣は非常に弱い。
振り回され、大きく振りかぶった隙に、わき腹を強く打たれた。
「う、あ……っ」
痛い、と声を上げるアズル。
そうしている間にもう一撃、と剣の柄が入った。
切れるわけではないが痛い攻撃にアズルは小さく悲鳴を上げた。
「アズル様、そんなことでは実戦など出来ません」
そういう、教育係の男。
呆れたような声色。
アズルを虐めようと思ってしている事でないのは分かるが戦闘が苦手な彼にとっては軽く虐待の域である。
「うぅ、わかってるよ、ルドラス……でももう少し、手加減してほしいな」
アズルは体勢を立て直しつつ、そういった。
そんな彼をみて、ルドラスと呼ばれた男は少し呆れた顔をした。
そして"何を甘いことを"と呟く。
「アズル様はもうお一人ではなく、王女と共に国を治めていく国王なのですよ。
それなのに戦闘が苦手等と……」
「うう、わかった、わかってるよ」
もう耳にタコだ、と言わんばかりにアズルは言う。
そして小さく溜め息を吐き出した。
「王女……ネリエを守らないといけないこともわかってる、戦いも、できなきゃいけないのも……」
「ならばお立ちくださいませ」
もう一度、と容赦ない声。
アズルは必死に立ち上がって、剣を握り直す。
しかしその腰はやはり、引けたままだった。
***
ルドラスの容赦ないしごきに耐えきった後、アズルはやっとの想いで城のなかに戻った。
そこでは数人の家臣が話をしていた。
その断片に自分の名前が聞こえて、アズルは思わず身を隠した。
「あの方は国王の器ではないな」
「そうだな、アズル様は……先王はどうしてこうも早く退位なさったのか」
聞きなれた言葉。
聞きなれた、悪口だった。
アズルは身を隠して、目を閉じ、気配を消す。
「……知っている、よ。僕が、国王の器でないことくらい」
話をしていた二人の家臣が居なくなったのを確認すると彼は小さく呟くようにいった。
その表情は悔しそうというよりは、苦しそうなものだった。
知っている。
自分が国王の器でないことは。
国民の支持は決して悪くない。
先王……アズルの父が相当荒い性格をしていたため、周辺の国との戦も絶えなかった。
しかし、アズルが王位を継いでからはそんなこともなく、穏やかな日々が続いている。
貴族は貴族らしく、平民は平民らしく、それなりに平和に暮らしていた。
貴族からしてみれば気が弱く世間知らずな国王は御しやすいと思っていたのだろう。
剣術も攻撃魔術も出来ないアズルの即位を純粋に喜んでいた。
……もっとも、その性格と弱さ故に要らないちょっかいを仕掛けられたことも数え切れはしないけれど。
貴族から下の階級の者も決してアズルを悪くは思わなかった。
戦いになれば真っ先に前線に送られるのは彼らである。
そんな彼らにとっては、戦争嫌いで平和主義な彼は好ましい存在であった。
しかし、彼の直属の家臣からしてみればそれはなんとも情けない話。
貴族にはなめられ、平民には親しまれ過ぎる。
そんな彼に仕えると言うのは、なんともしまらない。
情けないと陰口を叩く者がいた。
腰抜けと嗤う者がいた。
アズルはそれに気づいて、それでも穏やかに笑っていた。
内心では、震えていたけれど。
誰も望んで王家に生まれた訳ではない。
望んで、国王になった訳ではない。
そう叫びたいのを、いつも堪えてきた。
剣なんて、学びたくはなかった。
昔から彼が親しんできたのは固く重たい剣ではなく、柔らかく暖かな紙の感触。
体で覚えるより頭で覚えるのが得意な彼である。
剣術等よりは、よほど医術を学びたいと思っていた。
医者になりたい。
医者になって、様々な人々の病を、怪我を治して、出来うることならば様々な世界をみてみたい。
そう願ったことも遠い昔にあったけれど……それが叶わぬことと言うのは、遠い昔に学んだ。
王家に生まれたからには王族らしく。
威厳ある父には従って。
そうしていれば、国は安泰と、アズルはそう言われ続けていた。
思わないではなかった。
自分はただの人形なのか、と。
しかし国王であるということをとったら自分にはもうなにも残らないのではないかと言う恐れから、父に逆らうことさえできずにいた。
同年代の友人などいない。
騎士たちは自分によくなついて、仕えてくれているけれどそれは恐らく自分が国王であるからで。
それを除かれてしまえば、きっと自分の周囲には誰もいなくなる。
それがアズルにとっては、寂しく、心細く、何より恐ろしいことだった。
孤独な王とは、よくいったものだ。
自分の父は、そうではなかったのだろうか。
そうふと考えて……やめた。
根っからの軍人、武人である父の考えは、軟弱な自分にわかりはしない、と。
―― もしも、生まれ変われたら。
ふと、そんなことを考えた。
自分は、生まれ変わったら何になるだろうか、と。
王族に生まれるのだけは嫌だなぁ、と苦笑したことは昔から何度もあった。
しかし死ぬことは特別怖いとは思わなかった。
彼の性格で、体質で、強さだ。
拐われ、殺されかけたこともないとは言えない。
今まで生きてきたのは、運が良かったからだった。
死んでもいい。
そう思わなくなったのは……――
そんなことをつらつら考えつつ歩いていたら、ずきりと脇腹が痛んだ。
あぁ、ルドラスに突かれた場所か、と苦笑しつつ、アズルはそこをそっと擦った。
ばれたらまた説教をくらいそうだ。
"彼"が"彼女"として仕事をしている間に部屋に戻ってシャワーを浴びてしまおうか。
それで、こんな暗い思考も先程の陰口も頭から洗い流してしまえばいい。
アズルはそう思いながら、自室に向かって歩き出したのだった。
―― 僕が"王"である意味 ――
(僕が国王である意味。僕が生きている意味。
そのどちらも酷く曖昧で、僕自身生きていることが不安になる)
(父様の傀儡であり続けることに不満を抱けど、それを吐き出すことは出来なくて。
それを吐き出してしまえば、この繊細なバランスの上成り立っている僕の存在が壊れて消えてしまう気がした
僕は、今の僕は…それを恐れている)