ザイス=インクヴァルトさんとリトのお話です。
ちょっとシリアスなやり取りも書きたくなったので…(^q^)
ザイスさんがリトを少しずつでも信頼してくれてたらいいなぁ、と思ったりして←
*attention*
ザイス=インクヴァルトさんとリトのお話です
本家Laurentia!設定のお話です
シリアスなお話です
たまにちょっと情緒不安定な美人さん素敵だと思うのです←
その不安定さ故にちょっとぶっ飛んでるのも萌える(おい)
リトはかなり心配症です(笑)
そしてそんなリトといる時は少し穏やかなザイスさんならいいなって
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
講義を終えて、家に帰る。
今日は家庭教師の仕事もある。
少し急いで帰らなくては……そう思いながら、ザイス=インクヴァルトは路地を歩いていた。
夕方になり始めた路地。
もう秋になりかけのこの季節、だいぶ日が暮れるのも早くなり始めている。
夕暮れになり始めている空を見上げながら、彼は小さく息を吐き出した。
今は、何だかひどく気分が沈んでいた。
秋という季節がらなのか、何なのか……
そう思いながら彼は息を吐き出す。
首筋を、そっとなぞる。
微かに、痛みを感じた。
その理由……
それは、彼自身が自分で、自分の首を絞めていたから。
目に見えぬ、自傷。
大人になって覚えたのは、そんなことだった。
"アルトゥール・ザイス=インクヴァルトのフラグメント"である彼。
それ故にか、夢を見る。
当時の、夢を。
その度彼は、自分自身を酷く嫌悪した。
自分自身を傷つけ、追い詰めるような行動に出るほどに……――
その結果が、今の首の痛みだった。
「どうせ、死ねもしないのに……」
そう呟いて、彼は自重めいた笑みを浮かべる。
自分で首を絞めたところで、それがどうなるというわけでもない。
命を脅かすような痛みも苦痛も、与えることは出来なかった。
意識が揺らげば、手の力も緩む。
その結果に、いつも中途半端な息苦しさを残すだけとなるのだった。
死ぬことも出来ない癖に自分自身を傷つけるため、追い詰めるために繰り返す自傷行為。
そんな行動に出てしまう自分自身に、さらに嫌悪感がつのった。
つくづく自分が嫌になる。
そう想いながら彼が溜息を吐き出した、その時……
微かにだが、路地裏から声が聞こえた。
やめてください、という弱い女性の声。
それを聞いて、ザイス=インクヴァルトは足を止める。
それは、偶然だった。
裏路地の方から。
そう思いながら彼は視線を彼の方へ向けて……驚いたように、目を見開いた。
そこでは、数人の男性に女性が絡まれていた。
困った顔をしている女性の腕を、男が掴んでいる。
何か如何わしいことを考えているのか、はたまた金銭を強請っているのか……
いずれにせよ、放っておけない。
そう思いながら、彼はその声がする方へ向かっていった。
近づいていっても、男性の腕は緩まない。
女性は困ったようにもがいていた。
そんな彼女の表情が、泣き出しそうな教え子の姿に重なって、一層放っておくことが出来なくなる。
元から見てみぬフリをするつもりはなかったけれど。
「何をしているんですか」
冷静に声をかければ、男たちの視線が一斉にザイス=インクヴァルトの方へ向く。
"何だテメェ"と凄みながら、一人の男が歩いてきた。
そんな彼を見て、ザイス=インクヴァルトは言う。
「恐喝は犯罪ですよ。何をする気か知りませんが」
「おーおぉ、いい子ぶって……何のつもりだ?」
んなひょろい体つきしてよ、といって男たちは笑う。
しかしザイス=インクヴァルトが少しも怯んだ様子を見せないものだから、苛立ってきたのだろう。
三人いた男たちの注意が皆ザイス=インクヴァルトの方へ向いた。
「逃げなさい」
ザイスはその隙に、腕を掴まれていた女性に声をかける。
すると彼女は一瞬戸惑った表情を浮かべた。
「いいから、いってください」
彼が少し強い口調でそういうと彼女は戸惑いつつ頷いて、慌てて逃げていった。
"あーあ、逃げちゃったよ"といいながら男たちは嫌な笑みを浮かべる。
「よぉ、にーさんが責任とってくれるんだろうなぁ?」
「……っ、離しなさい」
無理矢理壁に押し付けられて、ザイス=インクヴァルトはもがく。
女性を助けたくてこうして飛び込んではきたが、勝てる算段があったわけではない。
彼は喧嘩に強いわけでもないし、この手の人間が理詰めで改心するようなタイプでないことも知っている。
けれど、彼は冷静な声で言った。
「やめなさい。こうして居ても貴方たちに得はないですよ」
「俺たちは損得で動いてるわけじゃねぇわけだ……
さっきの女もなかなか上物だったが、にーさんもなかなか綺麗な顔してるしなぁ」
そういいながら男はにやり、と笑う。
ザイス=インクヴァルトはそんな視線を向けられる嫌悪感から盛大に顔を顰める。
そして、小さくもがいて、言う。
「私にそういう趣味はありません。警察を呼びますよ……」
そういいながら携帯を取ろうともがく。
そんな冷静で、かつ生意気な態度に苛立ったのだろう。
彼を壁に押し付けていた男が"あんまり生意気な口きくなよ、ガキ"といった。
「私と然して年齢が違うようにも見えませんが」
そういうと同時。
彼の首に、男の手がかかった。
「っぐ……」
「少しその生意気な口塞いでやるよ……」
こうしてりゃ、喋れねぇだろ?
それにこうしていれば、ちったぁ動く気力も失せるだろう。
そうしてから、好きにすりゃあいい。
男たちがそういっているのが、聞こえた。
―― あぁ、苦しい……
ザイス=インクヴァルトは冷静にそんなことを考えていた。
息苦しい。
どんどん、空気が体から抜けていく。
もがく気力さえ起きなかった。
いつも、自分で絞めているよりずっと強い力。
苦しくて意識が飛びそうになっても、その手は緩まない。
あぁ、これが本気か。
もしかしたら、このまま死ぬのかもしれない……
若干冷静に、ザイス=インクヴァルトはそう思った。
思い出す、過去の記憶。
オリジナルの頃の、記憶。
麻縄で首を絞められ、処刑された時の記憶が、重なった。
こんな状況で、冷静にそんなことを考えられる。
自分は大概、可笑しいのだろう。
そう思えば、笑みが浮かんだ。
「な……なんだ、こいつ……笑ってる……?!」
彼の首を絞め上げていた男の手が、緩んだ。
ずるっとザイス=インクヴァルトはその場に座り込む。
げほげほと咳き込めば、視界が涙に滲んだ。
しかし彼は相変わらず笑みを浮かべたまま、顔を上げた。
「流石に私とは力加減がぜんぜん違いますね……
でもこれぐらいでは駄目ですよ、麻縄の絞首刑はこんなものではありませんからね」
そういって、笑う彼。
その姿は、さぞかし男たちには不気味に映ったのだろう。
「おいこいつ、おかしいんじゃねぇの?!」
「っ、もう行こうぜ!」
そういって男たちは逃げていく。
ザイス=インクヴァルトはそんな彼らの背を見つめながら、ふ、と笑みを零した。
「けほ……っ」
小さく咳をする。
首を軽くさすると、痛みがあった。
男に締め上げられている間に、首が切れでもしたのだろう。
冷静にそう考えていると、視界が眩んだ。
あぁ、酸欠状態か……
そう思っている間に、一瞬意識が途切れた。
***
「んぅ……遅いなぁ……」
リトは時計を見上げながら、そう呟く。
その表情は心配そのもの、だった。
というのも……
今日は、家庭教師であるザイス=インクヴァルトがきてくれる日なのに、彼の姿がまだ見えない。
いつもは、時間通りに来てくれるのに……
そう思っていれば、ちょうど玄関のチャイムが鳴った。
リトは弾かれたように立ち上がって、玄関に向かう。
いつも怒られるのを忘れて、リトはドアを開けた。
「遅くなってすみません」
聞こえたのはやはり、彼の声。
それにほっとしてリトは顔を上げて、彼の顔を見た。
「いらっしゃ……って、なにそれ?!」
笑顔はすぐに驚きの表情に変わる。
というのも、彼の首には白い包帯が巻きつけられていたから。
その姿に、リトは驚いたのだ。
そう。
あのあと、彼は近くの病院で手当てをしてもらった。
意識を失いかけていた彼を見つけた通行人に付き添ってもらう形になったのは感心できないが、傷や手の痕がついた首のままでリトの家に行くより良かったな、と思いながら。
しかし、結果的にリトを心配させたらしい。
そう思いながら、ザイス=インクヴァルトは平然と言った。
「平気ですよ、もう手当てしてもらいましたから」
「ちがっ、そういう問題じゃ……いい、あがって!」
そういってリトはザイス=インクヴァルトの手を引いて、部屋に戻る。
そして勉強机に向かうこともなく彼をベッドに座らせると、心配そうに彼に問いかけた。
「何があったの……?」
そんな彼の問いかけに、ザイス=インクヴァルトは瞬きをする。
それから、事情を説明する。
……自分が見た夢や、男たちが逃げた原因は伏せながら。
その話を聞いていたリトは盛大に顔を顰めた。l
それから、溜息まじりに彼にいう。
「っ……先生は優しいし正義感あるからわかるけど……あんま危ないことしないでよ」
もう、という彼は少し怒っているようだった。
自分のために怒ってくれているのか、とザイス=インクヴァルトはリトを見つめる。
彼は、優しい。
それに……本当に自分を大切にしてくれているんだな、と思いながら。
「……悔しいな」
不意に聞こえた声。
それはリトのもので、ザイス=インクヴァルトは顔を上げる。
そして、小さく首を傾げながら、彼に言った。
「?何がですか?」
「俺の方が早く生まれてて、警官になれてたら、先生を助けられたのにな」
リトはそういいながら小さく息を吐き出す。
それを聞いて、ザイス=インクヴァルトは幾度も瞬きをする。
それから、ふっと笑みを零した。
そして心配そうに俯いているリトの頭を撫でてやりながら、言った。
「……そうしたら私は先生になれませんよ」
貴方の方が年上になってしまったら、とザイス=インクヴァルトは言う。
それを聞いて、リトは驚いたように目を丸くした。
それから、"そりゃそっか"といって、笑う。
ザイス=インクヴァルトの表情が少し明るくなったこと。
それが幾分、彼の表情も明るくしたようだった。
―― あぁ、彼はこうして笑ってくれるのか。
そう思いながら、ザイス=インクヴァルトは目を閉じる。
そしてそっと、自分の首にそっと触れたのだった。
―― Smile and…? ――
(私が浮かべる、笑顔。
それと貴方が浮かべる笑顔とは、違うけれど)
(貴方と一緒に居れば、貴方と同じ笑顔が浮かべられる…
そう思わせてくれる貴方は本当に不思議ですね…)