大佐殿とフォルのお話です。
メインは大佐殿かな、と。
どんどん疲弊していく大佐殿が書きたくて…←
*attention*
大佐殿とフォルのお話です
シリアスなお話です
「歪められた真実」の続きです
ぬるくですが嘔吐描写あるので注意
精神的に参ってる美人さん好きです
にげたいと思っても自分の正義感ゆえに逃げられないんじゃないかなとか
フォルは利己的にしか動きません←
とりあえず大佐殿ごめんなさい←
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
一体何度同じ夢を見ただろう。
夢というか、過去の景色というか。
過去といっても数日前なのに、遠い昔であるような気がしていた。
酷い、酷い景色。
強い衝撃。
爆音。
倒れた人々。
赤く染まった景色。
瓦礫の山。
そこを踏む黒いブーツ。
愉しそうな笑み。
見せられた死体の凄惨さ。
一人取り残されたその場所で、彼は獣のように吠えた。
薄暗い森に響いた慟哭。
崩れ去った瓦礫の中の物言わぬ躯は、静かな森に横たわっているだけだった。
嗚呼、この光景。
この凄惨さ。
万が一、"あのクーデタ"が成功していたら。
この景色になっていたのだろうか。
少年はひとり、そんなことを考えた。
しかし……
聞こえるのだ。
"声"が。
痛いと叫ぶ声。
一体何が起きたんだという悲鳴。
助けてくれと叫ぶ声。
それを聞きたくなくて、耳を塞ごうとする。
けれど、片方しか腕がない彼にはそれさえかなわなくて……――
自分が犯した罪。
二十四もの命を奪ったという罪。
それを否が応でも感じさせられる。
自ら進んで行ったわけではない。
堕天使の命令。
それも、弟を守るための……――
けれど。
自分が人を殺めたことに何ら違いはない。
知らない人間だったのが、まだ救いだった?
そう思おうとしたけれど……
―― 否、むしろ。
自分が知らない人間を殺した。
そもそも何故彼らの暗殺を命じられたのかもわからないままに殺した。
もしかしたら……
もしかしたら、罪なんてなかったのかもしれない。
ただの、堕天使の気まぐれ。
だとしたら、自分は……
"ただの暗殺者……否、ただの殺人者だね"
そんな堕天使の声が、耳元で聞こえた気がした……――
***
ふ、と意識が浮上した。
降り注ぐ、朝日。
―― 嗚呼、もう朝が来たのか
そう思いながら彼は目を瞬かせる。
そして体を起こした。
寝付いたのはほんの、数十分前。
空が白み始めたころだった。
身体が疲れていても眠ることが出来ない日々が続いていて、今日もまた意識を失うかのように眠りについたのである。
ゆっくりと、体を起こす。
硬い床。
そこで丸くなって眠るのにも、慣れてきてしまった自分が悲しい。
否、悲しい、なんて思える立場ではない。
そう思い返しながら、彼は溜息を吐き出した。
割れたステンドグラス。
そこから吹き込む冷たい風。
それを感じながら、隻眼の少年は目を閉じる。
彼……クラウスの首には、銀色の十字架が下がっていた。
此処は、ディアロ城の城下から遠く離れた、教会。
教会とはいってももう使われてはいないようで、すっかり寂れていた。
あの日。
堕天使、フォルに命じられるままに一つの建物を爆破し、人々を殺めたクラウスは、あの場から逃げ出し此処に逃れた。
自身の国に帰ることは、出来なかった。
"罪人"である自分に帰る場所はないと、そう知っていたから。
かといって何処に行くという宛もなく。
状況が状況だけに頼れる相手もなく。
ふらふらとたどりついた先が、この場所だった。
一人で此処に来てから、一体何日経った?
あの日から、一体何日経った?
既に時間の感覚も麻痺してしまっていて、わからなくなっていた。
クラウスはぼんやりと、ステンドグラスを見上げる。
粉々に砕けた、ステンドグラス。
日々の風化の中で壊れたのか、外から人為的に壊されたのか。
それは分からないけれど、"咎人"である自分には似合いの場所だと、そう思っていた。
とはいえ、だ。
此処に隠れ住んだとはいえ、やることはない。
騎士としての仕事もないし、誰かに会うことも出来ない。
ただぼんやりと、時間を消費するのみだ。
朝が来て、昼が来て、夜が来る。
それを繰り返すだけの毎日。
ぼんやりとした意識の中で、自分が犯した罪を反芻する。
ただそれだけの、日々。
思い出すたび、狂乱しそうになる。
いっそ、発狂でもしてしまえば楽になれるだろうかと思いはしたけれど、彼は思いの外冷静で、そうする事さえ出来なかった。
「ふ……っうぅ……」
時々漏れる、泣き声。
苦し気な、悲し気な、"ごめんなさい"という謝罪。
懺悔の言葉に重なる、嗚咽……――
自分の泣き声で、あの時の光景を思い出して、さらに激しく泣く。
泣き疲れると、ふっと意識を失って、倒れるように眠る。
眠った夢で再び"あの光景"を見て、そうして目を覚ませばまた夕方、という繰り返しだった。
そうして過ごした後……
また、今日も夕方が来た。
赤色に染まる空。
それがあの光景を思い出させて、クラウスはそっと視線を逸らした。
「やぁ、暗殺者様?」
不意に聞こえた声に、クラウスは体を強張らせる。
視線をそちらに向けば、楽しそうに笑う亜麻色の髪の堕天使が立っていた。
手にはパンとスープ、飲み物が入っていると思しきトレーを持っている。
それを彼が持ってくるのも、最近いつもの事だった。
「……フォル」
掠れた声で、堕天使の名を呼ぶ。
フォルはそんな彼に歩み寄ると、持ってきたトレーを彼の傍に置いた。
「そろそろ食べないと……本気で死んじゃうよ?」
そういうフォル。
彼はそっとクラウスの体に触れた。
その体は自分が知っているそれよりも幾分痩せたように感じる。
別に心配しているわけではないが、フォルにとってクラウスは大事な"玩具"。
まだ壊れられるわけにはいかないからと、こうして食事や飲み物を運んでくるのだった。
しかし、だ。
「……おーい、食べてったら。
本気で、死んじゃうよ?」
フォルはそういいながら、クラウスにちぎったパンを差し出す。
クラウスはそれから顔をそむけた。
食べたく、ない。
食べなければならないことは分かるけれど……食べられない。
クラウスはフォルにそう訴えた。
しかしそういうわけにも、いかない。
食べなよ、というフォルの声。
彼は半ば無理矢理クラウスの口にちぎったパンを突っ込むと、姿を消した。
口に入れられたパンを、咀嚼する。
食べなければ死んでしまうことくらいは、彼自身も理解していた。
だから、どうにかそのパンを飲み込もうとしたのだけれど……――
「っ、ぅ……」
吐き気が、こみ上げる。
ふらつく足で教会の裏のトイレに向かい、結局吐き出してしまった。
ずっとこんな調子で何も食べられていない。
食べようとしても、食べたとしても、結局すべて吐き出してしまう。
もうすでに、彼の体はボロボロだった。
体だけでなく、心も。
「っは、……はぁ……」
荒い呼吸を繰り返し、ずるずると教会の外壁に寄りかかる。
もう、室内に戻る気力さえ、湧かなかった。
助けて。
そう言葉を紡ぎたくても、彼の正義感がそれを阻む。
助けて?
誰に?
否、そんな言葉を紡ぐ権利があると思うのか?
苦しい。
辛い。
助けてほしい。
そう願えど、それを口に出すことさえできぬままに、彼は衰弱していく。
昼間の陽射しも消え、冷たさだけが残った風が、彼の短い髪を揺らしていった……――
―― 摩耗と拒絶 ――
(強い、強い人。
その実何処か一か所が壊れてしまえば、脆く、脆くなっていく)
(苦しい、辛い、それでも逃げることは許されない。
嗚呼、しかしもう私(彼)の体は、生きることを拒否しているのかもしれない)