フォルスタSSです。
本当はフォルも昔を懐かしんだりするんじゃないかな、
と思ったことから派生…
シリアスにしたくてもシリアスになりきりません;;
☆attention☆
・フォルスタSSです(若干BL?)
・影猫の住処に行きたがるフォル。
・彼は感情が欠如しているのです。
・フォルはスターリンさんに甘えて欲しい(おい)
・甘え、甘えられる関係って素敵ではありませんか(蹴)
・ともあれ…ナハトさん、すみませんでした…!!
以上が大丈夫な方は、追記からどうぞー!
「ねぇ、書記長様。ちょっと寄り道してもいい?」
ある任務の帰り。
フォルはスターリンに問うた。
彼にしては珍しい頼みに、スターリンは驚いた顔をする。
最近、フォルがスターリンの任務についてくるのは普通のこととなりつつあった。
フォルの空間移動魔術は精度が良い。
馬も竜も使わないスターリンにとって、フォルの魔術は重宝していた。
ちなみにフォルも喜んで任務の手伝いをしている。
しかし、フォルが何処かに寄りたいといったのは、初めてだった。
スターリンが答えないためか、フォルはにこりと微笑んで、言った。
「あ、嫌だったらいいんだよ?書記長様を送ってから僕一人でいくから」
「否、構わねぇけど……何処に行くんだ?」
もっともな質問だ。
フォルは目的地をのべていない。
スターリンの問いかけにフォルは笑むばかりで。
「それは秘密。行ったら教えるよ。どうする?」
「なんだそりゃ……まぁ、いいや。
付き合ってやるよ。一人で行ったらまた迷子になるぞ」
普段の仕返しと言わんばかりにスターリンはからかい口調でフォルに言う。
フォルは少しムッとした顔をして、反撃する。
「帰るだけなら大丈夫だもん」
「はいはい……まぁ、仕事も終わったし、ついていってやる」
笑いながらスターリンが言えば、フォルは嬉しそうな顔をする。
そして、“いつものように”スターリンを抱き上げる。
「……なぁ、フォル」
「なぁに?書記長様」
「この抱き方は、どうにかならねぇのか……」
スターリンは溜め息混じりに問うた。
フォルの空間移動術に頼るためとはいえ、そんな体勢……
所謂、お姫様抱っこで運ばれるのは、恥ずかしい。
フォルはクスクスと笑って、スターリンの顔を覗きこんだ。
「別におんぶでも構わないけど、僕はこの格好がいいな。
抱き上げるのも楽だし、書記長様の顔も見れるし?」
「馬鹿なことばっかり言ってると踏むぞ」
「うわ、それは困るなぁ……書記長様の踏みつけは痛いよ」
フォルを睨むスターリン。フォルは小さく肩を竦めてから魔術を発動させた。
***
「ついた、っと」
魔術が解けて二人は地面に降り立つ。
外の空気が暖かい。
慣れたその空気に、スターリンは呟いた。
「イリュジア、か?」
「そう。国の外れだけどね」
辺りを見渡せば目に映るのは暗い森。
そして、前方には大きな廃墟。貴族の館の跡地だろうか。
「行くよ、書記長様」
フォルは躊躇いなくその廃墟に入っていく。
スターリンも慌ててそれを追いかけた。
「わぁ……懐かしいなあ」
フォルが小さく呟く。
その顔には、確かに何かを懐かしんでいるような表情が浮かんでいた。
スターリンは、前を歩くフォルの背をこづき、訊ねた。
「此処は、何処なんだ?」
「僕が、元々住んでたところだよ。影猫の住処(アジト)」
穏やかな笑みを浮かべて、フォルは答える。
―― “影猫”。
スターリンも、フィアやルカが話しているのを聞いたことがあった。
フォルはすたすたと長い廊下を歩いていく。
そのところどころに小さな花瓶や玩具らしきものが落ちている。
昔、"彼ら"が住んでいた時のままなのだろう。
「此処が僕の、部屋」
ドアを開ける。
そこには、色々なものが置き去りになっていた。
巨大な魔方陣、分厚い魔導書、
そして机の上には試合(ゲーム)途中とおぼしき状態のチェス板。
「ぐちゃぐちゃだな」
スターリンが素直に言葉を吐けば、フォルはクスクスと笑う。
“僕が、封印されたときのままだからね”といって、チェスの駒を指先で摘みあげる。
少し埃の積もったチェスの駒を指先で弄りながら、言った。
「ここで、僕は住んでたんだ。
ノアールって言う腹心の部下と、操り人形(マリオネット)たちとね」
「操り人形……」
「僕の魔術で創り出した、魂と肉体の合成品だよ。簡単に言えばね」
そう言ってフォルは笑う。
「お前は魔術師だもんな。そう言ったややこしい魔術もお手のもの、ってことか」
「そういうことだよ」
懐かしむように、フォルは言う。
ロシャ、ブラン、シャム、ペル、そして、ノアールという名前。
ここで共に過ごしていた"仲間"の名前なのだろう。
もっとも、フォルは"仲間じゃないと思うよ"と言っていたけれども。
フォルは楽しそうに語っていた。
昔、ここで過ごしたときのことを。
幾らか、悍ましい話もあったものの、その表情は楽しそうで……
「ちびの操り人形たちが五月蝿くてね、ノアールがよく怒ってた」
「なぁ、フォル」
「なに?」
スターリンはフォルの言葉を遮った。
琥珀の瞳がフォルを見つめる。
フォルは首をかしげた。
「お前、感傷に浸ってる?」
「え?」
「感情はない、って言ってなかったか?」
半分はからかい口調。半分は、本気だった。
―― それは、ふと感じたこと。
フォルは、感情を持たないと言っていた。
事実、スターリンが怒ったり、何かに怯えたりする様を不思議そうに見ていた。
だから、彼の言葉は真実なのだろうと思っていたのだけれど……
今のフォルの表情は“感情がない”というには、あまりに……人間らしかった。
かつて住んでいた場所に戻りたいと思ったのも、こうして懐かしそうにしているのも。
もしかしたら……彼に、"感情"というものがあるからなのではないか。
そう思って。
しかし、スターリンの言葉に、フォルは答えなかった。
口をつぐんだまま、何かを考え込むような顔をしている。
スターリンは怪訝そうな顔をして、フォルに声をかけた。
「……フォル?」
「どうかな……わかんないや」
そう言って、フォルはベッドに寝転がる。
そのまま、スターリンの方を見た。
まっすぐ、スターリンを見据えるフォルの瞳は珍しく真剣なもの。
「書記長様が教えてよ」
「は……?」
スターリンはキョトンとして問い返す。
フォルの言葉の意味が、理解できない。
「僕は、よくわからないから……教えてよ。“感情”ってやつを」
―― わからない。
それはきっと、本当のことなのだろう。
寂しい、も、悲しい、も、苦しい、も……フォルには、理解できない。
だから、それを教えて欲しいのだ、とフォルは言う。
驚いた顔をしたままのスターリンに"ね?"と微笑んで、フォルは手を伸ばす。
まるで子供が抱っこをねだるように。
やれやれ、という顔をして、スターリンはフォルに歩み寄る。
と、その瞬間スターリンの体制が崩れた。
無論それは、フォルの所為で。
「うわ?!」
「ふふ、隙だらけ」
くすくす、と笑う声がすぐ傍で聞こえた。
スターリンはフォルを睨んで、反論する。
「う、五月蝿い!って言うか、お前身体冷たいぞ?また、失敗したな……」
フォルの体は冷たく、また魔力の調整に失敗したらしいということがわかった。
呆れた顔をするスターリンを見て、フォルは軽く微笑む。
「ん……だから、此処で寝ていこうよ」
「は、はぁ?!」
思いもよらない提案にスターリンは慌てた。
こんな暗い、不気味な場所で一晩過ごすなんて、とんでもない。
じたばた、ともがくが、フォルはどうやら面白がっているようで。
「いいじゃない。お化けは出ないよ」
「そういう問題じゃねぇだろ……!」
「……僕、疲れたからこのまま寝ちゃうよ?」
くぁ、と小さくあくびをして、フォルは目を閉じる。
どこまでも我儘。まるで、子供のような奴。
スターリンはそう思いながら、溜息をつく。
「魔力分けてやるから、帰るぞ」
「そんなに嫌?此処」
「……嬉しくはねぇな」
全く、と溜息をつきつつフォルに顔を近づける。
フォルは小さく笑って、"優しい書記長様が大好きだよ"と囁いた。
―― 手始めに"愛おしい"という感情を ――
(教えてよ、などと笑ってみせる堕天使はまるで子供のようで)
2012-11-30 21:02