科学者道化師コラボのお話です。
珍しくムッソリーニさんが慰める側に回るのもいいかな、と…←
*attention*
科学者道化師コラボのお話です
シリアス後甘め?なお話です
いつもと少し立場が逆な二人を書きたくて…←
カルセにとってはムッソリーニさんがいなくなることが一番怖いんじゃないかなと←
他人を笑顔にすることが好きというかそういうことを思うムッソリーニさんなら萌えるなと(^q^)
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKというかたは追記からどうぞ!
何度も何度も夢に見る。
最初の愛しい人を失ったあの頃のことを。
最期の別れさえ言えなかった。
言わなかった、が正解かもしれない。
終わりの時を察していたからこそ、別れの言葉なんて言いたくなかった。
万が一、何て考えて、それが現実になるのが怖かったから。
でもそれは所詮逃げでしかなかったことを、今なら理解できる。
"万が一"を想定しなくたって、"万が一"は起きる。
突然でなかっただけ、まだマシだったのかもしれない。
けれど……――
***
ベッドの上に、体を起こす。
多分、声はあげていない……だろう。
そう思いながらカルセは小さく息を吐き出した。
その吐息は小さく震えている。
彼は無意識に自分の左腕を右腕で掴んでいた。
久しぶりに見た夢だった。
彼を……クレースを失った頃の夢。
愛しい人を喪って、深く傷ついたあの日。
もう二度と大切な人など作らないと心に決めた、あの日の夢を……
「カルセさん……?」
小さく名前を呼ばれて、はっとする。
その声がした方に視線を向ければ、やや心配そうな顔をしている金髪の少年の姿。
その少年……ムッソリーニを見て、カルセは思い出した。
あぁ、そうだった。
仕事の途中で少し仮眠をとったのだった。
重要な研究を任されて、それをこなすために丸二日、寝ないで仕事をしていたから。
仲間や恋人の前ではいつも通りに振る舞っていたけれど流石に体は限界で、
部屋に遊びに来た恋人……ムッソリーニに暫く休むように言いつけられた。
彼の言葉に甘えて少し仮眠をとって……その結果が、これである。
「どうしたの、カルセさん……」
俺煩かった?と心配そうな顔をするムッソリーニ。
彼はカルセのベッドの脇に椅子を置いて本を読んでいたらしい。
それが煩いと感じるはずがありもしない。
カルセはゆっくりと首を振った。
ムッソリーニはそんな彼を心配そうに見つめて、いう。
「でも、顔色が……やっぱり、体調悪いの?」
無理するからだよ、といいながら眉を下げて、ムッソリーニはカルセの額に触れる。
寝不足だから少し熱いだろうな、と思いながらも、
カルセはそっとその手を下ろさせた。
「大丈夫ですよ、ムッソリーニ」
そういって、微笑む。
けれどムッソリーニは釈然としない様子だった。
カルセが嘘をついていることくらい、簡単に見抜けるのだろう。
小さく溜め息を吐き出した彼は、ぽつりと呟くようにいった。
「……俺にはいってくれないの?」
「え?」
彼の言葉にカルセは藍色の瞳を瞬かせる。
ムッソリーニは青い瞳で彼を見据えながら、いった。
「俺にはなんでも話せ、っていうわりに……
カルセさんは俺には何も話してくれないんだもん」
ムッソリーニは少し拗ねたようにそういった。
カルセさんはいつもそうだ、といいながら。
「大人だから、なんて言うけど……
カルセさんが俺を大事にしてくれるように、
俺だってカルセさんを大事にしたいし、力になりたいんだよ」
なのに、といいながら俯く彼は悲しげだ。
そんなに自分は頼りないだろうか、という顔をしている。
カルセはそんな彼を見て困ったような表情を浮かべた後、そっと彼の頭を撫でた。
「違うんですよ、ムッソリーニ……でも……」
あまり言いたくないのは事実だな、とカルセは思う。
だって、原因が原因だ。
昔の恋人が死んだ頃の夢を見てセンチメンタルな気分になっているなんて……
いったら、彼を傷つけるだけになる気がして。
ムッソリーニが信じてくれるかはわからないけれど、
今一番愛しいと思っているのはムッソリーニだ。
クレースのことは大切な人だったとは思うけれど、
それ以上の存在にはなり得ない。
だからこそ、ムッソリーニを傷つけるような言動はしたくなかった。
ムッソリーニはじっとそんな彼を見つめた。
そして、ぎゅっと彼の手を握って、いう。
「何でも聞くよ?きを使わなくて、良いんだよ……
ううん、気を使わないでほしいな」
そういって、ムッソリーニは微笑んだ。
そのままぎゅっとカルセの手を握る手に力をこめる。
大丈夫だよ、と伝えたかった。
自分でも彼の力になれるよ、と。
カルセはそんな彼の手の暖かさを感じてまばたきをした。
そしてふっと息を吐き出す。
彼の手の上にもう一方の自分の手を重ねながら、いった。
「……夢を、ね。見たんですよ……」
「夢?怖い夢だったの?」
優しい声でムッソリーニは問いかける。
彼の声には安心できるな、と思いながらカルセはいった。
「ある意味では、ですかね……
クレースを失った時の、夢でしたから」
「!昔の……」
ムッソリーニは青い目を見開く。
そして自分が痛そうな顔をする。
カルセはそんな彼を見つめながら、いった。
「あのときのことを思い出すとね……クレースを失った痛みもですが……
もうあんな思いをしたくない、大切な人を喪いたくないって、そう思うんです」
そういいながらカルセはそっとムッソリーニの手を握る。
その手は小さく震えていた。
珍しい、彼の弱音。
それを感じてムッソリーニは彼の横顔を見る。
微笑んではいるけれど、その笑みは弱々しく儚いものだった。
「カルセさん……」
「……ムッソリーニ、ちょっと……」
途中で、彼の声は途切れた。
ムッソリーニは彼に抱き締められる。
強い強い腕の力が、少し痛いくらいだった。
「……離れないで、私から」
そう、彼はいった。
強く強く願うように、彼はいう。
離れないで、一人にしないで、と。
ムッソリーニは彼の様子に少し驚きつつ、ふっと笑みを浮かべた。
そのまま、そっと彼の背中に腕を回す。
そして子供を宥めるように背中を擦った。
「うん……大丈夫だよ、カルセさん。
俺、ちゃんと傍にいるから……
役にたてるかはわかんないけど、ちゃんと傍にいるよ」
貴方が望むなら、とムッソリーニはいう。
その声に呼応するようにカルセの腕の力は強くなった。
ムッソリーニは小さく息を詰める。
大切な人。
いつも自分の痛みを軽くしてくれる人。
強くて優しい人だ。
その彼が、自分を頼ってくれる。
自分を、求めてくれる。
それが、嬉しかった。
「俺、皆の笑顔見るのが好きだけど……
一番好きなのはやっぱりカルセさんの笑顔だからさ……」
笑っててほしいよ、とムッソリーニはいう。
カルセは彼の言葉にふっと笑みを浮かべた。
そして彼の体を離す。
「情けないところを晒しましたね……」
忘れてください、とカルセは苦笑する。
ムッソリーニは笑顔で首を振ると、一瞬躊躇ってから彼に軽くキスをした。
カルセは思わぬ彼の行動に固まる。
それをみてにっと笑ったムッソリーニは、いった。
「全部覚えとく!」
笑顔が一番好きだけれど、どんな顔も覚えておくよ。
愛しい貴方の表情も、仕草も全部。
ムッソリーニはそういって、笑う。
カルセは彼の言葉にゆっくりと瞬きをした。
そして、ふわりと微笑む。
「まったく……」
―― 貴方には敵いません。
狙ってではなく心から。
しかもここぞというタイミングでこんなことをいうのだから。
そういいながら、カルセはもう一度ムッソリーニを抱き締めた。
今度は優しく、柔らかく……――
その腕の暖かさを感じながら、ムッソリーニも微笑む。
少し元気が出たようでよかった。
そう思いながら……――
―― 一番好きな笑顔 ――
(それは、貴方の笑顔だよ。
笑っていて。笑えない時は俺が笑わせてあげるから)
(優しい恋人の温もり。それを腕に抱けることが何よりの幸せで。
失いたくない。守りたいと、そう思うのですよ)