警察組織組のヘルガ、ライシス、リトのお話です。
リトのトラウマネタというか、その時代のことをちょっと触っておきたいなと…
ヘルガはリトのことを大切に思っている幼馴染なので…
昔からのことを知っている仲間たちでのこういう会話が好きです(笑)
リトは極度の閉所恐怖症です。
それは、昔に遭ったある事件の所為…
そんな話です。
まぁ、ざっくり話しているだけなので…
そのうち、もっと細かい話もやってみたいなぁと思いつつ←おい
では、追記からどうぞ!
ある、夏の午後。
照り付ける強い日差し。
吹き込む風もやや熱く、そこ……
イリュジア王国警察のオフィスで仕事をこなす少年たちにとっては過ごしにくい日が続いていた。
桃色の髪の青年……ライシスは珍しくしっかりと街中の巡回任務から帰ってきた。
サボリ癖のある彼は、放っておくとすぐにいなくなってしまうのだが、
この気温だと流石に適当なところでサボる気も起らないようである。
「ただいま帰りましたー」
そう声をかけつつ、ライシスは小さく息を吐き出した。
そして、中に居る仲間声をかける。
「何故ドアが開けっ放しなんです?物騒じゃあないですか」
そういいながらライシスはドアに手を書けた。
帰ってきたときに違和を感じた。
それは、部屋のドアが全開になっていたことだ。
中の様子は丸見えで、正直警備的な面でも感心できない。
ドアを閉めようとした彼に、仲に居た白髪の少年……ヘルガが言った。
「あ、ライシス、そこは閉めないで」
「え?何故です?」
きょとん、とした顔をするライシス。
確かに開けていた方が風通しは良いし、多少涼しいかもしれないけれど……
そんなライシスを見つめた後、ヘルガは視線を部屋の隅のソファで丸くなっている赤髪の少年……
リトの方を見た。
彼はどうやら昼寝中の様子。
この年になって昼寝なんて、と思わないこともあるが、
リトはこれくらいの時間にいつも昼寝をしている。
丸くなっている彼の頭を軽く撫でながら、ヘルガは言った。
「リトが嫌がるからさ」
その言葉を聞いて一度大きく目を見開いた。
その後、納得したように頷く。
そして眠っているリトを見ながら、呟くような声で言った。
「あぁ、なるほど……」
ライシスは小さく息を吐き出すと、近くの椅子に腰かけながら、ヘルガを見た。
そして積み重なっている書類の一つを手に取りながら、彼に訊ねる。
「あれから、どれくらい経ちますかね」
その問いかけに、ヘルガは少しだけ悩んだ顔をする。
どれくらいだっけ、と悩む声を上げた後、ヘルガは暫し黙り込んだ後、答えた。
「多分、四年くらいじゃないかな?
はっきりは覚えていないけれど……
まだ僕もヘルガも小さかったからね」
ヘルガの返答を聞いて、ライシスは目を細める。
そうですか、と小さく頷きながら、言った。
「そんなに経ちますか……それでも、彼は相変わらず……?」
ライシスの問いかけにヘルガは小さく頷く。
そして、眠っているリトの頭を撫でながら、言った。
「相変わらず、だよ。閉鎖空間が苦手なのはね。
さっき昼寝し始めた時に嫌な夢でも見たみたいで、
そこのドアを開けといてくれって言ってたんだ」
半分寝ぼけた声だったけどね、とヘルガはそういう。
先程ライシスにドアを閉めないでくれと頼んだのはそのためだ。
―― どれくらい経つか。
先刻のライシスの問いかけ。
それは、リトがある事件に巻き込まれてからどれくらい経つかという話。
リトは幼い頃、犯罪捜査の途中で罠にはめられて、
箱のように狭い空間に閉じ込められたことがあるのだ。
彼から聞いた話、後に聞いた話だから詳しいことはリト以外は知らないのだけれど……
どうやら、その空間に水を流し込まれて殺されかけたらしい。
まるでネズミ取りに捕えられたネズミのように。
それ以来、リトは狭い場所が極度に苦手だ。
任務中ならばそれでも我慢するが、ドアが閉まったままの部屋というのも、
正直あまり得意ではないらしく、ずっとそわそわしていることが多い。
彼が借りている家がひとりで住むにはやや大きいのもその所為だ。
狭い空間が苦手で、出来る限り広いところに居たかったのだと、彼は苦笑気味に肩っていた。
他人が傍に居ればそれでもまだ平気らしいのだが、一人でいると駄目なのだという。
出来る事ならば誰かと一緒に住みたいんだけどね、と話していた彼だが、
その当てもそうそう簡単に見つかるはずはない。
ヘルガは普通に実家から仕事場に通っているし、まだ幼い身では他人……
友人とはいえ他人の家で居候になることはよしとされない。
何年の年月が経とうとも、リトの心の傷は癒えないらしい。
どれだけの時間が経っても、あの日の恐怖は消えないらしい。
幼い頃からの友人であるヘルガはそんな彼を気遣い、大切にしている。
多少の我儘に振り回されても気にすることなく……――
「少しでも、あの病的な閉所恐怖症が治れば良いんだけどね……」
そう呟いたヘルガは悲しげな顔をする。
自分の大切な友人が傷ついていること。
消えない傷。
それが、酷く辛いのだ。
そんなヘルガの言葉にライシスは小さく息を吐く。
そして、呟くような声で言った。
「そうですねぇ……
まぁ、治らないにしても、彼が平気でいられるようにしてあげたいものですね」
少しでもね、と呟いたライシスは自分の書類を片付け始める。
珍しく真面目に仕事をする彼を見て小さく笑むと、
優しく、柔らかなリトの赤髪を漉いてやったのだった。
―― Trauma ――
(消えない傷。癒えない痛み。
それを抱えて生きている僕の大切な友人)
(恐ろしい記憶。消えない記憶。
それは今も明るい彼を苛み、その笑顔を曇らせる)
2014-7-26 10:24