フォルとペルのお話です。
この二人でのお話、何気に好きでちょいちょい書いてます…
というか、単純に感情が破壊されてるフォルとペルで喋ってるのが好きなのですがね(笑)
感情が壊れてる所為で笑うことしか出来ないフォルと
感情が壊れてる所為で無表情なペルと
…真逆なのに何だろう、この絡み…好きです←
ペルたち操り人形は、もうフォルのものですらない。
だとしたらいつか消えちゃうんだろうな、
そしてそれがいつなのかは誰もわからないんだろうな、と思った結果…
こんなシリアスが出来上がりました(笑)
シリアス楽しいです←
ともあれ、いろんな子を書きたい星蘭でした←
ではでは追記からどうぞー!
柔らかい、月明かりが降り注ぐ廃墟。
そこに佇む、長い黒髪の少年の姿があった。
艶やかな黒髪はまっすぐに背に流れて、風に揺れる。
ともすれば少女にも見える、中性的な容姿の彼……ペル。
一人でそこに佇んでいた彼の傍に、ひとつ影が降り立った。
その正体は、ペルにもわかる。
彼は振り向きもせず、声を出した。
「御主人(マスター)、珍しいね、夜に此処に来るの」
―― そう。
ペルの後ろにたったのは、彼ら影猫のリーダーであり、
ペルたち操り人形の主である堕天使、フォル。
彼が夜に此処に来るのは確かに珍しい。
いつもなら、彼の恋人のところに行ってしまっていて、帰ってなど来ないのだから。
そんなペルの言葉に、フォルはにこりと微笑んだ。
そして、ペルに歩み寄って優しく彼の黒髪を撫でる。
「今日はちょっとお城でパーティあってね。僕がいても邪魔だろうから」
君たちの様子を見に来たんだよ、とフォルは言う。
ペルは納得したようにうなずいた。
そして、くるりとフォルの方を見る。
「おかえり、御主人」
彼の言葉を聞いて、フォルは少し驚いたようにサファイアの瞳を見開く。
此処がまだ、自分の"帰る場所"であったことに驚いた。
それと同時、嬉しくもあったけれど……
そしてフォルは柔らかく微笑むと、ペルの白い額にキスをおとして、言った。
「ただいま、ペル。
でも、どうしたの?こんなところにたって」
他のみんなは?とフォルはペルに訊ねる。
ペルは屋敷の方を指差した。
ロシャもブランもシャムも、中にいるだろう。
ノアールだけは、わからないけれど。
「僕だけ、外に出てきたの」
「ふぅん、どうして?」
何かいた?とフォルは彼に問いかける。
ペルは小さく首を振ると、空を見上げた。
満月から少し欠けた月が昇っている空。
これからどんどん細くなっていくであろう月……
それを見上げている、ペルの漆黒の瞳。
そんな彼を見つめ、フォルは言った。
「月を見てたの?」
「ん……綺麗、だったから」
こっくりと頷くペルを見て、フォルはサファイアの瞳を細める。
そして、"ねぇペル"と声をかけた。
ペルはフォルを見つめて、首をかしげる。
フォルはそんな彼の瞳を見つめつつ、問いかけた。
「何か、僕に言いたいことあるんじゃない?」
ペルが何の理由もなしに夜空を見上げることなんてない。
こうして彼が一人でいるときは、大抵何か考えているときだ。
それをフォルはよく知っている。
ペルはゆっくりとまばたきをした。
そして、もう一度月を見上げる。
「月も、消える。星も、消える」
「うん……消えるというよりは、見えなくなるだけだけどね」
フォルの指摘にペルはゆっくりとまばたきをする。
そして、それもそっか、と呟いた。
そんな彼の表情には相変わらずなにも点らない。
そうしたのは他でもないフォルなのだけれど……
何かを考えている風なのに無表情というのは、なんだか違和感だ。
「ねぇ、御主人……」
ペルはフォルに声をかける。
その声は酷く静かで、フォルは少し身構える。
そして小さく首をかしげた。
「うん?」
「星や月は見えなくなるだけだけど……
僕たちは、いつか消えちゃうのかな……?」
ペルの問いかけにフォルは目を見開いた。
そしてゆっくりとまばたきをする。
そのまま、優しくペルの髪を撫で付けつつ、問いかける。
「消える?」
どう言うこと?とフォルはペルに問いかける。
ペルは少し迷うような間を空けた後、小さく呟くように言った。
「ん……だって、僕たちはもう、人間でも、操り人形でもない、んでしょう?」
ペルはすでに死んでいる人間。
それをフォルが魔術で肉体と精神とを繋ぎ止めただけの存在。
しかも……その魔術も、一度解けた。
本当なら、操り人形は二度甦れない。
それなのに今、ペルを含めた操り人形たちは此処にいる。
それはつまり、彼らが酷く中途半端な存在であることを表していて……――
「何時、何処で消えても、おかしくない……
僕の、仮定……間違ってる……?」
ペルはそう問いかけながらフォルを見つめる。
フォルは彼の黒い瞳をじっと見つめつつ、ゆっくりと首を振った。
そのまま、静かな声で言う。
「……間違ってない、ね」
間違っていない。
残酷な事実だけど、それは否定出来ない。
ペルたちが甦ったのはフォルにとっても予想外の事態だった。
でも、彼らの魔術が解けたのは紛れもない事実だ。
ならば今彼らが存在しているのは、何故?
どうして?
「いつか、消えるの……?何時、消えるの?」
ペルはフォルを見つめながら、問いかける。
ぼうっとしているようで、真剣な瞳。
フォルはサファイアの瞳でそれを見つめ返した後、
溜め息を吐き出しながら首を振った。
そして、すまなそうに彼に言う。
「さぁ……ごめんね、それは僕にもわからない」
僕が制御してる訳じゃないもの、とフォルは正直に言う。
以前、ペルたち操り人形の管理はフォルがしていた。
フォルの魔術で彼らは生きていた。
でも、今は違う。
ならば、彼らの"存在"を握るのは、何……?
ペルはぽす、とフォルの胸に顔を埋めた。
そして、小さな声で言う。
「……消えたく、ないな……」
ペルはそういった。
消えたくない、と。
消えるのが怖い、と。
そう訴える彼もやはり無表情。
仕方ない。
彼も、フォル同様に泣くことが出来ないのだから。
フォルが彼の感情を、感情表現のすべを奪ってしまったから。
「うん……消えるのは、怖いよね」
フォルがそういうと、ペルはゆっくりと顔をあげた。
黒い瞳が、フォルを見つめる。
光の点らない、漆黒の瞳。
そして彼は、ゆっくりと口を開いた。
「……助けて、御主人」
―― 助けて。
無表情のままでの、懇願。
それは酷く、痛々しい。
フォルは少し眉をさげてから、優しくペルの頭を撫でた。
「……ごめんね」
何をどうしてやることも出来ない。
……なんて、そんなことをフォルが考えるようになっただけ、
変化は大きかったのだけれど。
ペルは再びフォルの胸に顔を埋めた。
傍から見れば泣いているように見えるかもしれないけれど、
彼は泣くことさえ出来ないで、ただただ、無機質な声でフォルに訴えた。
「消えてしまったら、僕は……誰のなかにも、残れないよ……
そんなの、嫌だな……」
きっと忘れられる。
自分を覚えていてくれる人はいない。
誰の記憶からも消えて、なかったことになってしまう。
それが怖いと、彼は無機質な声で訴えた。
ずっと一緒にいたからこそ感じ取れる、悲痛。
表情は変わらずとも、彼がそれに……
自分や仲間が消えることに、酷く怯えていることがわかる。
フォルはそっと、そんな幼い操り人形を抱き締めてやった。
「……気休めに、なってしまうかもしれないけれど……」
かつて彼をただの駒として扱い、見捨ててしまった自分の言葉等、
彼は信じられないかもしれない。
フォルはそういいつつ、ペルの耳元で囁いた。
「僕は、忘れないよ。
例え、ペルが消えてしまっても」
忘れられることが嫌だと言う彼にたいする、せめてもの慰め。
ペルは彼の言葉に顔をあげた。
フォルはふっと苦笑を浮かべながら、彼に詫びた。
「……ごめんね。君のこと、駒だと思ってた」
今はそんなこと思わないからね、と言った。
確かに、そんなに特別な存在ではないかもしれない。
友人、とは呼ばないかもしれない。
でも、彼がいなくなったら寂しいだろうな、と感じる程度には……
フォルの感情も人間らしくなっていた。
ペルはそんな自分の主を見つめつつ、訊ねる。
「誰か、忘れずに、いてくれるかな……
僕が、消えてしまっても……たまにで、いいから……」
思い出して、あんな子がいたなと懐かしんでくれる人。
いるかな、と呟くように言うペルの頭をそっと撫でてやりながら、フォルは微笑んだ。
―― Thing that little marionette fear ――
(君はただ恐れる。
消えることを、何より誰の記憶にも残れぬことを)
(その感情を灯せぬ瞳が訴えるは悲痛。
それを受け止めきれるのは誰?)
2014-7-15 18:09