久々の赤髪金髪コラボのお話です。
「Bad Apple!」の歌詞がライニさんに似合ってるな、ということで…
*attention*
赤髪金髪コラボでのお話です
シリアスなお話です
「Bad Apple!」のイメージっぽいノリで…←
過酷な任務故に感情なんてない方がましじゃないかと思うのではと…
雨に濡れながら帰ったりする美人さんが好きです
色々思い悩んでいる美人さん素敵だと思います…!
アネットに抱きしめられることに苦しさを感じてたりしたら可愛いな、と…←おい
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
鈍色の雲が広がる空。
陰気な空気の満ちる、その場所……――
そこから出てきたのは金髪の少年。
その門の前に立っていた制服姿の騎士たちが彼に向かって敬礼する。
それに軽く片手を上げて応えながら、彼……ハイドリヒは歩き出す。
吹き抜ける風。
長い金髪が吹き抜けたその風に揺れる。
と、彼が小さく溜め息を吐き出した時……
ぽつり、と彼の白い肌に雫が落ちてきた。
ハイドリヒは顔を上げる。鈍色の雲から落ちてくる雫……
それを見て彼はすっと青い瞳を細めた。
「……雨」
小さく呟く声。
ポツリ、ポツリ、降り出した雨は次第に強くなり始める。
地面に落ちる雨の雫。
濡れた地面の匂い。
雨の匂いが、周囲に満ちる。
今日は確かに降りそうだとは思っていたけれど、
わざわざ自分が出てきたタイミングで降りださなくとも……
そう思いつつハイドリヒはもう一つ溜め息を吐き出して、歩き出す。
そして、小さく呟く様な声で言った。
「……まぁ、良いです。
寧ろ、ちょうど良いかもしれませんね」
そう呟きつつ、ハイドリヒは手袋を嵌めた掌を差し出す。
そこに次々と落ちる水滴。
黒い手袋を伝って、それは落ちていく。
激しさを増した雨に、ハイドリヒの体もすっかり濡れてしまっていた。
それでも彼は、歩く速度を速めることもせず、ゆっくりと、ゆっくりと歩いていく。
―― ちょうど良い。
彼がそう呟いた理由。
それは、現在彼が行っていた仕事故。
今彼がいたのは、処刑場。
彼が率いる組織は、犯罪者の処刑も執り行っている。
彼はその監督をしてきたのだ。罪を犯した人間を裁く。
そういってしまえば体裁は良いが、結果を言うなれば、ヒトを殺すという仕事だ。
楽に行える仕事でもない。
そして……その仕事中に、ハイドリヒも実際死刑の執行を行ったのだ。
拳銃を構え、引き出された犯罪者を殺めた。
悲鳴を上げる者。
毒づく者。
泣き出す者。
懇願する者。
諦めたように目を伏せる者……――
今までどれほどの人間を殺めただろう。
今までどれほどの人間を殺める瞬間を見てきただろう。
処刑した人間から流れた血が体に染み込んでいるような気がした。
それはもう二度と落ちないような気さえした。
……この雨は、その血を洗い流すのにちょうど良いかもしれない。
ハイドリヒはそう思いながら、小さく溜め息を吐き出した。
処刑の仕事は簡単なものではない。
ハイドリヒはそんな仕事を無表情にこなした。
何ら気にかけた様子なく。
そんな仕事をこなすハイドリヒを見て、部下たちは、仲間たちは、言った。
あそこまで無感情に仕事をこなせるなんて。
あんなにも非道になれるなんて。
流石は金髪の野獣。
死刑執行人とはよく言ったものだ。
そんな声が聞こえた。
ハイドリヒは誰が言っているのかなんて気にしなかった。
気にしたところでどうにもならない。
自分の近くに居る殆どの人間は同じように考えていることだろう。
……ただ、ひとつ言いたいことはといえば。
「……感情なんて無ければ、話は早いのに」
ハイドリヒは小さくそう呟いた。
無感情に任務を熟せるなんて周囲の人間は言う。
時に尊敬の意を込めて。
時に軽蔑の意を込めて。
ハイドリヒはそんな言葉も聞き流してきた。
その言葉に怒ることもせず、喜ぶこともせず。
しかしその実……無感情などではなかった。
仕事をこなす際は少なからずその胸の奥で痛みを感じていた。
それを封じる方法を覚えただけで。
何時だって思っていた。
感情など、なくて良いと。
悲しむなんて疲れるだけだ。
感情なんてなければ良い……
そうしたら、疲れることもないのにも関わらず……――
―― 否。
ハイドリヒは思う。
寧ろ、多少麻痺はしているのかもしれない。
時々、わからなくなる。
自分の感情が。
悲しいのか。
苦しいのか。
楽しいのか。
嬉しいのか……
そんな中途半端に麻痺した感情、感覚……
それで感じる中途半端な痛みや、それこそ……罪悪感。
そんなもの全てなくなってしまえば、それで良いのに。
ハイドリヒはそう思いながら小さく溜め息を吐き出した。
―― その時。
「ラインハルト!」
不意に聞こえた声。それにハイドリヒは顔を上げる。
いつの間にかディアロ城に帰ってきていたらしい。
ぱたぱたっと駆け寄ってくる赤髪の少年の姿。
ハイドリヒの目の前に足を止めると彼は少し怒ったような、心配そうな顔をしていう。
「こんな雨の中帰ってくる馬鹿が何処に居るんだよ……!」
彼……アネットはハイドリヒの肩を掴む。
濡れている、彼の肩。
ハイドリヒは自分よりほんの少し背の低いアネットの顔を見る。
彼は心配そうな顔をして、そっとハイドリヒの前髪を掻き揚げた。
雨に濡れた彼の金色の前髪からぽたり、と雫が落ちる。
ハイドリヒは彼を見つめて、"アネットさん……"と小さな声で彼を呼ぶ。
ハイドリヒの恋人であるアネット。
彼はいつも、ハイドリヒが任務に出ているとこうして帰りを待っていてくれる。
今日も、こうして待っていてくれたらしい。
雨なのだから部屋の中に居れば良いのに。
ハイドリヒはそう思ったが……口にしたところで無駄であることは知っている。
アネットは、いつだって……自分のことを最優先にしてくれるから。
アネットは小さく溜め息を吐き出すと、呟く様な声で言った。
「どうしてお前はびしょ濡れになって帰ってくるかなぁ……!
天気良すぎて陽射し強いときは日が弱くなるまで外でないのに雨は良いのかよ」
強い日差しが苦手で、ハイドリヒは真昼間に外に出ることは避ける。
陽射しにも極力あたらないようにしていた。
……もっとも、アネット自身も彼が日に焼けるというのは嫌らしく、
ちゃんと帽子をかぶっていけだのなんだのというけれど。
まったくもう、といいながらアネットはハイドリヒの頭にタオルを乗せた。
どうやら、最初から用意していたらしい。
わしゃわしゃ、と濡れた髪を拭いてやりながら、アネットは言う。
「風邪ひくだろ、馬鹿だな」
そんなアネットの言葉にハイドリヒは溜め息を吐き出す。
そして、呟く様な声で言う。
「……別に――」
「?なんか言ったか?」
ハイドリヒの声に、アネットは小さく首を傾げる。
上手く聞き取ることが出来なかったらしい。
ハイドリヒはそんな彼を見てゆっくりと首を振る。
今口にした言葉は、繰り返す必要はない。
「……いえ、何も」
何もありませんよ、とハイドリヒは言う。
アネットは彼の言葉にスッと表情を変えた。
そして、そっとハイドリヒの頬に手を添えて、静かな声で訊ねる。
「何もないってんなら……何だ、その顔」
「何だ、って……いつも通りの顔ですが」
ハイドリヒはそう答える。相変わらずの静かで、無表情な声で。
無表情を、無感情を装うのは得意だった。
そう。
"装う"のが、得意。
……出来る事ならば、装うのではなく、本当に感情など捨ててしまいたいと思っていた。
しかし……――
アネットは小さく溜め息を吐き出して、ハイドリヒの頬をべち、とはさんだ。
驚いたように瞬きをするハイドリヒに彼は言う。
「……俺相手にそんな言葉、通用すると思ってんのか馬鹿ラインハルト」
じっとハイドリヒの青い瞳を見つめる、ガーネットの瞳。
ハイドリヒはその視線から逃げようとしたが……
それを、アネットが許してはくれない。
やがて諦めたように溜め息を吐き出すと、ハイドリヒは小さく呟く様な声で言った。
「……別に、私が風邪を引こうが何をしようが……
誰も、気に留めませんよ、といったんですよ。
私が居なくなったって、誰も……」
最後の方は殆ど声も掠れて消えていた。
いつも、思っていることだった。
自分がこの世界に存在する意味は?
この世界に自分が生きていく意味はある?
この世界に自分の未来はあるの?
そんな思いを彼はいつでも抱いていて……――
ハイドリヒは目を伏せる。
アネットはそんな彼を見つめると溜め息を吐き出して、軽く彼の頬をはたいた。
そして驚きに目を見開くハイドリヒの額に自分の額をぶつけ、アネットは言う。
「……馬鹿。馬鹿だなぁ……」
お前は馬鹿だ、とアネットは言う。
アネットの言葉にハイドリヒは幾度も瞬きをする。
アネットは真っ直ぐにそんなハイドリヒの青い瞳を見つめて、言った。
「俺がいるじゃん。
俺……ラインハルトが風邪ひいたら心配だし、居なくなったら悲しいよ……
だから、んなこというなよな」
そういうアネット。
ハイドリヒは彼の言葉に青い瞳を彷徨わせる。
そして、小さな溜め息を吐き出して、目を閉じた。
―― あぁ。
この人は本当に、私の心を戸惑わせる。
感情を捨ててしまいたい。
そう思うほどに中途半端に麻痺した感情をも震わせる、アネットの言葉……――
アネットはぎゅっと、濡れたハイドリヒの華奢な体を抱きしめた。
その温もりを感じて、ハイドリヒはおずおずと彼の背に腕を回す。
「……もう、これだから嫌なんですよ……」
ハイドリヒは掠れた声でそういう。
胸が苦しい。
それなのに血に濡れた自分を抱きしめる彼の腕が温かすぎて、それが心地よくて……――
「大好きだよ、ラインハルト」
そういいながら、アネットはハイドリヒの体を抱きしめる。
ハイドリヒは彼の言葉を聞いて唇を噛みしめる。
零れそうになる涙を必死に堪えながら、彼の腕に抱かれて、痛む胸を押さえていたのだった。
―― Emotion… ――
(感情なんて捨ててしまいたい
こんなもの要らない、そう思うのに…)
(血に濡れた私の体を抱きしめる貴方の腕の温もり。
嗚呼、こんなにも胸が痛い…やっぱり、感情なんて……――)
2014-6-22 23:39