フォルとノアールのSSです。
このペアは定期的に書きたくなるのですが…
シリアスともほのぼのともつかない雰囲気になるのにはそろそろなれてきました←ぇ
たぶんノアールはフォルに比べて色々な面で冷めてるんじゃないかなぁ、とか、
あの二人は結構読書家よ、というのを思い出してかいたという( 笑)
フォルスタ&無彩色極彩色コラボ前提になってしまうのはもはやデフォルトですごめんなさい←
ともあれ、追記からお話です!
「ん……?」
出掛け先から戻ってきた黒髪の男……ノアールは、
自分以外誰も住んでいないはずの廃墟に明かりが灯っているのを見て、目を細めた。
森の奥にあるこの場所は昼間でも光が少なくて、
そのなかで生活を使用と思ったら必然明かりをつけることになる。
誰が、というのは基本的に悩むまでもない。
まさか迷いこんだ人間が平然と明かりをつけるということも考えにくい。
だから、恐らくノアールの主であるフォル、なのだろうが……
奇妙なのは、いつもと明かりが点っている場所が違う。
いつもならば、ノアールがいる大きな広間か、
かつてフォルが自室として使っていた部屋。
しかし、今明かりが点っているのは……上の階だ。
建物の間取りはノアールもよく覚えている。
あの場所は……――
「図書室、だろうか」
小さく、呟いた。
かつて貴族の別荘か何かだったと思われるこの場所。
部屋数もかなりあり、ひとつひとつの部屋もそこそこ大きい。
ノアール一人となってしまった今では広すぎるその屋敷ではあるが、
今でもその部屋にはノアールもよくいく。
ノアールはとりあえず屋敷にはいると、古くなった階段を上っていった。
そして、明かりが漏れている部屋のドアを開ける。
「主?」
「あ、ノアール」
案の定、そこにいたのはフォルだった。
声をかけてきたノアールを見て、にこりと微笑む。
基本的に彼も読書家で、此処にいた頃から暇なときには本を読んでいた。
読書を小さな操り人形たちに邪魔されても怒りはしなかったが、
本当に邪魔をされたくないときには数ある部屋のひとつに逃げて、
誰にも邪魔されないようにして読む程度には本が好きだということを、
ノアールもよくよく知っている。
「出掛けてたんだね。
ディアロ城にはいなかったみたいだけど、何処いってたの?」
「えぇ、ちょっと仕事に」
ノアールは短くそう答えた。
フォルたちと暮らしていた頃の蓄えがないわけではないのだが、
一日中ぼうっと過ごすのもしょうにあわないし、
ディアロ城に滞在していることがある自分の"恋人"もいつもいるわけではない。
だから、彼は気が向いたときに便利屋紛いなことをしているのだった。
便利屋、といっても簡単に言えば身辺警護とかその辺り。
簡単にいってしまえば、騎士団に所属していないフリーの騎士のようなものだ。
ノアールの容姿はそういった稼業をするのに向いている。
影猫として働いていたときにはそれこそ敵対組織の壊滅だってやってのけたし、
暗殺だってお手のものだったわけだから、今さらどんな仕事でも怯みはしない。
それこそ、今でも依頼さえあれば暗殺程度ならばやれるだろう、と思っていた。
……もっとも、"彼"に後ろ暗い仕事はしたくないと思っているから、
引き受けるかどうかと言うのは別の話になるし、
それ以外にも子供の面倒を見ろとかそういった任務は無理な話だが。
そこまで考えたところで、ノアールはフォルに話を振った。
「主は、何を読んでいらっしゃったのですか?」
「うん?魔力についての本。
結構面白いね、ちゃんと読んだことなかったけど」
フォルは分厚い本の革表紙をそっと撫でた。
基本的な魔術の教本、というよりは少し発展的な内容……のようだ。
しかしそれを今さらフォルが読む理由がわからない。
ノアールは怪訝そうに首をかしげている。
フォルはそんな彼を見ると小さく笑った。
そして、本をパラパラとめくりつつ、言う。
「人間でも魔力を持つ人間がほとんどだけど、
たまに黒髪の騎士様みたいに魔力を持たない人間もいるだろ?
それに……君のように、普通の人間でも悪魔の魔力を持つ人間とか」
そういいながら、フォルはノアールの方をみた。
ノアールは瞬きをして、そうですね、と頷く。
ノアールは元々悪魔の魔力を持つ特殊な人間だった。
思い出す限り自分の両親がそういった魔力を持ってはいなかったはずだし、
年に数回会う程度だった親族のなかにもそういった人間はいなかったはずだ。
……もっとも。
ノアール自身、家にいる間は自分の魔力の存在など知らず、
家を出て、フォルと共に暮らすようになってから、
その魔力を徐々に使いこなせるようになったのだけれど。
今のように強い魔力を使えるようになったのはフォルと"契約"を交わしてから。
元々持っていた完全に近い悪魔の魔力とフォルの堕天使の……
正式に言えば彼のなかに僅かにあった魔力が拮抗したのか、
魔力を完全解放しても完全な堕天使姿になるわけでなく、
片翼の悪魔……片翼の堕天使と言うやや奇妙な姿をとることとなってしまったが、
それでも、自分の主であるフォルの力となれるのならば……
そう受け入れたのは何年前の話だっただろう。
ぱたん、とフォルは本を閉じた。
そして、サファイアブルーの瞳をノアールの方へ向ける。
「……ねぇ、ノアール」
「なんでしょう」
ノアールが小さく首をかしげれば、一瞬迷う表情を見せるフォル。
しかしすぐにまっすぐにノアールを見つめると、口を開いた。
「昔から、君が今くらいの魔力を使えていたとしたら、君はどうしてた?」
「……?」
よくわからない問いかけにノアールは首をかしげる。
フォルは少し目を伏せ、考え込む顔をするといった。
「君の家の人間に、仕返しをしようとした?」
問いかけの意味は、それ。
ノアールは漸く理解した、というようにうなずくと……小さく、笑った。
「どうでしょうね……していたかもしれないし、しなかったかもしれない。
もしかしたら、自己防衛程度には使っていたかもしれませんが……」
「あれ?意外」
そうなの、とフォルは言う。
自分ならば痛め付けられた分返す、といったところか。
ノアールは小さく笑って、いった。
「仕返しをしようとか、憎いとか言う感情を持つのさえ、面倒なのですよ」
さんざん自分を痛め付けた両親を別に憎んではいなかった。
仕返しをしたいとか、見返してやりたいとか、そんな感情はとうに捨てた。
関わりたくない、が正直一番大きな気持ちだ。
「ふぅん……まぁ、納得かなぁ。
君は滅多に自分の住んでた街を見に行ったりしなかったしね。
もしかしてそれは、情が沸くから?」
「……というよりは、思い出したくないから……ですかね」
そういって、ノアールは小さく肩を竦めた。
正直いって自分の過去は、あの街にいた記憶は、覚えていて楽しい記憶でもないし、
操り人形たちに何か聞かれたときは覚えていないと返していた。
そんな街に自分から進んでいきたい共思ったことはなかった。
そんなノアールの反応を聞いて、フォルは幾度かサファイアの瞳を瞬かせた。
そして、ややすまなそうな顔をして、言う。
「あ……ごめんね。聞かれるの、嫌だったかな」
「……いえ」
変わったな、とノアールは思う。
以前ならば、この程度で詫びはしなかっただろう。
そう思いつつノアールは"気にしませんよ"と返した。
「それより、何故主はこんな時間に此処に?
書記長殿は任務中ですか」
「うん、そうそう。だから、一人で暇でねぇ」
それを聞いて、ノアールは苦笑する。
相変わらずだ、この人は。
いつのまにやら物事、人物の優先順位が綺麗に逆転している。
……まぁ。
彼の一番でなくとももう構わない、と思う自分にも、
ノアールはとっくに気づいていたが。
「俺は下に降りてますよ」
「あぁ。僕も気がすんだら下にいくよ」
もう少しだけ読んでからいくよ、と微笑む彼に頷いて、
ノアールは先に階段を降りていく。
彼のために紅茶でも用意しておこうかな、と思いながら……――
―― Remember ――
(きっと俺が俺の幼少期を永遠に忘れることはないのだろう、と思う
過去を忘れると言うことは貴方との出逢いをも忘れるということなのだから)