シレーネ兄妹のSSです。
たぶん騎士面子で一二を争う面倒な家系の生まれのジェイドなので
家に帰るのは基本憂鬱だろうなぁ、と思いつつリンが絡むとほのぼのになります(笑)
基本お父さんアレルギーなジェイドですが、
結婚の件に関しては譲らないだろうなとか、
そういう頑なさは実はお父さん似なんだろうなとか…
コラボと単独共にいろいろやってみたいと思ってます(ぇ)
ともあれ、追記からお話です!
冷たい雪が降りしきる、冬の街。
緑の街と呼ばれるそこにも、冬はやって来る。
針葉樹はまだ色を残しているものの、
夏場のような鮮やかな緑林はすでに見られず。
白い雪が全てを覆い隠していく……――
そんな静かな街の、とある一軒家……
そのなかに、艶やかな緑の髪の少女がいた。
窓辺に立って、冷たい窓ガラスに手をあて、歌う。
小さな声で、美しい旋律を紡ぐ。
優しい声と、寂しげな旋律。
篭のなかに飼われる小鳥を歌った歌だった。
歌い終えた彼女はふっと息を吐いて、雪雲のかかった空を見上げる。
翡翠の瞳を細めつつ、彼女は小さく呟いた。
「籠の中の鳥に自由はあるのかしら……」
「そんなことを考えてしまう程度には退屈ですか、部屋の中は」
聞こえた声に驚いて、少女……リンは振り向いた。
そこに立っていたのは、彼女に良く似た緑髪の男性……
リンの兄であるジェイドで。
仕事が忙しく、滅多に部屋に帰ってくることが出来ない彼ではあったが、
時にはこうして家に顔を出してくれるようになった。
リンにとってはそれが何より嬉しいことなのである。
「ジェイドお兄様!」
リンは窓辺から離れ、兄に抱きついた。
彼女よりずっと背が高い兄はそれをしっかりと受け止めて、穏やかに微笑んだ。
「久しぶりですね、リン。元気にしていましたか?」
「えぇ、お兄様!」
リンはそういって明るく笑った。
先ほどまでの物憂げな表情とはうって変わったような、明るい笑顔……
ジェイドはそれを見て微笑むと、彼女の艶やかな緑髪をそっと撫でていった。
「けれども退屈そう、でしたね」
「……えぇ。冬になると獰猛な魔獣も増えますから。
下手に外に出ないよう、お父様やお母様にも言いつけられているのです」
そういいつつ再びしゅん、とするリン。
本当は少しくらい外にも出てみたいのだろう。
美しい銀世界、少し見てみたいというのは"子供"としては当然の感覚だ。
ジェイドは暫しそんな妹を見つめた。
何かを考え込むような表情をした後、彼女に問う。
「……リン、体調が悪いということはありませんね」
「え?……えぇ。
此処最近は夏場に比べれば、ずっと体調は良いのです」
どちらかと言えば寒さより暑さに弱い彼女。
日光に当たるのが駄目なためにいつも大きな帽子を被っているほどだ。
しかし、今は日差しといっても弱いもの。
リンにとってはある意味過ごしやすい環境だろう。
ジェイドはそんな妹の返答を聞くと、再び少し考え込んでから
"わかりました"といって、微笑む。
そのまま、リンの頭にそっと手をおいて言った。
「リン、すぐに暖かい格好をしてきなさい。外に出ても寒くないような格好を」
「!お兄様?」
いったい何を、という顔をするリン。
ジェイドは彼女のひとつウインクを送って、いった。
「これでも僕は騎士ですよ。
……大切な妹を獰猛な魔獣から守るくらい、お手のものです」
頼もしく微笑んでそういう兄。
リンは彼の表情を見るとぱぁっと顔を輝かせた。
「わかりました!すぐに洋服を着替えて参ります!」
そういうや否や、自室に向かって駆け出していく妹。
普段の彼女にはあり得ないような俊敏さだった。
よほど室内に退屈していたようですね、といってジェイドは苦笑する。
―― たまには妹孝行もしてあげたいですからね。
そんなことを思いつつ、緑髪の魔術医は翡翠の瞳を細めた。
***
そうして、数分後。
長い緑髪の兄妹は外に出てきていた。
雪はとりあえずやんでおり、風もそこまで強くない。
「ふぁ……室内よりずっと寒いのですね」
「それは勿論……外ですからね」
ジェイドは妹にそういう。
そして彼女の顔を覗きこみながら、先刻家の中でもした約束を再び繰り返した。
「散歩といってもほんの少しだけですよ。
僕から絶対に離れないこと、体調が悪くなったらすぐに言うこと……
良いですね?必ず守ってくれますね?」
「ふふ、ジェイドお兄様ってば、心配性ですね」
心配性な兄の発言にくすくすとリンは笑う。
そんな彼女の様子に、ジェイドは苦笑を漏らした。
「心配にもなりますよ……
十も離れた妹を心配しない兄が何処にいますか」
「ふふ、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよお兄様。
お言いつけは、必ず守りますから」
「それならば良いのですよ。……さぁ、いきましょう」
そういうと、ジェイドはゆっくりと足を進めた。
普段履いている革靴では靴が沈んで濡れてしまうため、今日は彼も雪靴だ。
「わ、歩きにくい……でも、楽しいです」
リンはそういってはしゃぐ。
まるで子供のような発言に、ジェイドは目を細めて笑っていた。
大きな日除けの帽子の代わりに暖かなマフラーと毛糸の帽子とをかぶり、
暖かそうなコートを着て、ジェイドの隣を歩いていた。
春や夏のように珍しい花は見られないし、
秋のような木の実も見つからないけれど、
特別何をするでもなく、こうしてゆっくりあるくのも、リンにとっては楽しくて。
彼女はふと、隣を歩く兄の方を見上げた。
気配に鋭いジェイドはすぐにそれに気づき、彼女に首をかしげて見せる。
リンは穏やかに微笑んで、いった。
「お兄様……ありがとうございます」
「礼を言われるようなことでもないのですよ」
ジェイドはそういって微笑見返す。
リンはゆっくりと首をふって、彼にいった。
「せっかくのおやすみだったのに……
こうして私の我儘に付き合ってくださって。
私、とても嬉しいのですよ」
本当に、心の底から嬉そうな笑顔で彼女は言う。
ジェイドはそんなリンを見て、優しい声でいった。
「幼い頃あまり一緒にいられなかった分の、埋め合わせと思ってください。
……さぁ。そろそろ体も冷えてしまいますし、帰りましょう。
あたたかい紅茶をいれますから」
「ふふ、ありがとうございます」
二人は穏やかに微笑みあって、もと来た道を引き返す。
決して長い時間の散歩ではなかったけれど、
兄弟にとっては暖かく、楽しい時間となったようだった。
―― 寄り添う足跡 ――
(二つならんだ足跡。
振り向いてそれを見つめるとなんだか嬉しくて)
(昔に刻めなかったものを、
今ごろになってから刻むのはおかしいのかもしれないけれど)