ナハトさんのお子様、メンゲレさんとうちの魔術医のお医者様コラボSSです。
お題から離れました(諦めた)
前回(卑怯で無力な僕の、一つの我儘)、前々回のお話(逃げたい、逃げられない)の続き。
結果的に、四部作になりそうです。
つまり、これは三番目。
☆attention☆
・白昼夢使用。若干BL表現あり。
・「逃げたい、~」「卑怯で~」の続編。
・よって、シリアス。
・メンゲレさんの心境サイド
・相変わらずに残念な文章能力。
・やっぱりキャラが定まらない。
・愛ゆえの暴走
・とりあえず、ナハトさんごめんなさい
以上が大丈夫な方は、追記からどうぞです!
―― "あの日"から、ジェイドはメンゲレに触れなくなった。
メンゲレがジェイドの手を振りほどいた、あの時から。
否、触れないどころか、声をかけることさえ、しなくなった。
"普通の仲間"と同じように扱うようになった、というのが正解かも知れない。
数名の草鹿のヴァーチェの騎士とともに薬品の調合中、
メンゲレはぼんやりと、遠くなった"上司"の背中を見つめた。
あの時、あの夢を見た後。
ジェイドを突き放したのはメンゲレの方だった。
伸ばした手を叩き、触れないでほしいと言ったのは、自分自身で。
ジェイドは、自分の気持ちを汲んだだけだと理解していた。
こうなることは当然の結果と、メンゲレ自身、理解していた。
それなのに……
「メンゲレ、ぼうっとしてると落としますよ」
不意に聞こえた声。
メンゲレが手に持った薬品瓶を支えつつ、少し困った顔をするジェイド。
傾きかけて、中の液体がこぼれそうになっていたらしい。
すみません、とメンゲレが呟くのと同時に、ジェイドは彼に背を向けた。
いつものような、ちょっとからかうような笑顔ではなく、
ただ単に、事務的に注意するような声色。表情。
そんなちょっとした変化に、胸が痛んだ。
―― 後悔なんてない。
自分に、言い聞かせる。
彼を突き放した結果がこれならば後悔はない、と。
夢に見た、被験者たちの声。
思い浮かぶ、オリジナルの自分の血にまみれた両手。
歪んだ笑みも、残酷な所業。
酷くリアルな、"自分"に、メンゲレは何度も叫んだ。
「やめろ」と。
その声が届かないことを、理解しつつも……
「…………」
遠ざかった、ジェイドの背中を見つめつつ、思う。
これで良かったんだ、と。
うまく調合ができたらしいアルに目を止め、頭を撫でているジェイド。
嬉しそうに笑みを浮かべる、アル。
幸福そうな、二人。
本来の、騎士団内の風景なのだろう、これは。
メンゲレはそんな様子にしばし視線を向けた後、そっと目を伏せた。
―― これで、いいんだ。
これが本来あるべき形。
血に染まった手で、自分が彼の手を掴んではいけない。
中途半端に傍にいてしまうくらいなら、いっそ…… ――
メンゲレは、心の中でそう呟いた。
***
―― その夜、夢を見た。いつもと同じ、あの夢。
もはや、慣れてしまって。
泣くことさえ無意味だと、感じるようになっていた。
泣いても、苦しくても、辛くても。
それを訴える相手が、いない。
一人でベッドにうずくまり、耐えるしかない。それしか、できない。
もがいても、目を覚ますことは出来ないのだから。
そう思いつつ、どこか他人事のように、いつもの場面を見ていた。
―― しかし。
今日は、いつもと少し違っていて。
いつものように、"黒い手"に掴まれた、その時。
目の前に、一つの人影。
見慣れた、人物。
長い、緑の髪。風に揺れる、白衣。
『ジェイド、さん……?』
小さく、名を紡いだ。
そう、立っていたのはジェイド、その人で。
そっと、伸ばされた彼の手。
"夢の中でなら……"
メンゲレはそう思って、その手を掴もうとした。
しかし、彼を苛む黒い手の一つが、ジェイドの手を叩いた。
―― あの時の、メンゲレのように。
驚いた顔をして、ジェイドが手を引っ込める。
その瞳が、悲しげに揺らいだ。
彼の口が紡ぐ、"ごめんなさい"という言葉。
悲しげに首を振って、離れていくジェイド。
"待ってください"と、声を出しそうになった。
―― それを拒んだのは、自分なのに?
そんなメンゲレを咎める、声。
嘲笑するように、声は言う。
―― 触れないで、といったのは自分自身でしょう?。
それなのに、こんな時に助けを求めるのは、お門違いというものでは?
嘲るように言う声は、メンゲレを咎め続ける。
そして、たのしそうに笑って、いった。
―― それとも……彼の手をも、引っ張ってしまいましょうか?
離れていく白衣の背中に、黒い手が伸びた。
気づかずに歩き続ける、ジェイドに振れそうになる、"闇"。
嫌だ!やめて……!
そう叫ぼうとした瞬間、目が開いた。
***
目に飛び込んできたのは、白い天井。見慣れた、自分の部屋。
誰もいない、静かな部屋。
夢だったんだ、と理解するのに少し時間がかかった。
何度も見た夢の、ちょっと形の違うだけの夢なのに。
荒い息を吐きながら、メンゲレは笑っていた。
笑いながら、涙をこぼした。
―― 嗚呼、そうだ。
怖いんだ。
自分自身の闇に、彼を、ジェイドをひきこんでしまうことが。
助けて、と素直に言えないのも。
彼の手を握ってはいけないと思うのも。
ぜんぶ全部、怖いから。
彼まで巻き込んで、堕ちる自分が怖いから。
罪に穢れた自分の手で掴んでしまったら、ジェイドの手をも、穢してしまう気がして。
助けてほしい。助けてほしくない。
彼の手をつかみたい。掴みたくない。
触れたい。触れたくない。
触れられたい。触れられたくない。
傍にいたい。傍にいたくない。
……否、傍に、いられない……?
そんな、矛盾した感情。
同時進行不可能な、感情。
これがフラグメントの運命(さだめ)だと、受け入れてきたつもりだった。
このことで苦しんでいるのは自分だけではないと、重々承知の上で。
甘えは許されないと、わかっていて。
これは、自分で片をつけなければいけない問題だと、わかっていて。
……それでも。
「…………っ」
涙は、堪えられなかった。
次から次へと溢れた涙が、メンゲレの頬を濡らし、布団に落ちる。
一度、触れてしまった優しさを知っているから。
傍にある温もりを、知ってしまったから。
"死の天使"である自分を、受け入れて、好きだと言ってくれた人を、
……ジェイドを、知ってしまったから。
だから、一人で耐える術が見つからなかった。
―― 助けて、ください。
夜の闇に溶けて消える、声。
その声を聞いている者は、いない。
矛盾だらけの感情の波にのまれて。
メンゲレは一人、涙をこぼし続けた……
―― 矛盾だらけの感情 ――
("願い"と"想い"が一致しない)
2012-9-12 22:16