「trick」の続き的な話でノアールとフォルのSSです。
ノアールが不憫になってきた今日この頃です…
この一途に主が好きすぎるのに報われないおにーさんを誰かフォローしてあげて←おい
とにかく恋人一筋のフォルと
そんなフォルを追いかけたって自分の方振り返らないことわかりつつ離れられないノアは書いてて楽しいです(笑)
というかこの二人で書いてるとどうにも雰囲気が変に色っぽくなるのは…
あぁ、色欲堕天使のせいですね、はい(ぇ
とりあえず…ノアが報われないからどうにかしてあげたい気もするけど彼の味方がいない罠←おい
ともあれ、追記からどうぞ!
とある静かな晩。
黒髪の青年は自分の主が居る……
基居候に近い形で住んでいるディアロ城の一室に姿を現した。
空間移動術が得意な彼にとって、これくらいのこと訳もない。
しかし、彼の表情は固く強張っていて、何処か怒っているようにも見えた。
黒髪に黒い瞳の青年……ノアールは視線で自らの主を探した。
探し人……亜麻色の髪の堕天使は彼の愛する人のベッドの上に座って、
自分の黒い上着を膝にかけていた。
亜麻色の髪は濡れていて、肩にはタオルがかかっている。
そして普段滅多に脱がない黒いコートの下の白い肩に、傷がひとつ出来ていた。
フォルは顔をあげるとノアールを見て、にこりと笑った。
「あ、ノアール」
来てくれたんだ、と亜麻色の髪の彼……フォルは笑う。
それを見て、ノアールは更に顔をしかめた。
「来てくれたんだ、じゃありませんよ……何を考えているんですか、主!」
ノアールは珍しくフォルを怒鳴りつけた。
フォルも驚いた様子で、幾度も瞬きを繰り返す。
何故怒られたのかわからない、という表情で。
「なに、って……何のこと?」
「その肩の傷ですよ!何を考えて自分の魔術で傷など……!」
そう、フォルの肩の傷は、先刻彼自身が魔術でつけたものだった。
ノアールが此処に来たのは、そんな彼から、
"ちょっと医療器具もって来てくれないかな?"という連絡が入ったからだった。
怪我をしたのか、と驚いた声で訊ねた彼に、
フォルは平然と"自分でやったんだよ"と答えていた。
細かい理由を聞く前に"書記長様が帰ってきちゃうから早く来てね"とだけいって、
フォルはノアールとの通信をきった。
ノアールは煮えきらない思いのまま、こうして此処……
ディアロ城のスターリンの部屋に来たのだった。
部屋の主はまだ仲間たちといるらしく、不在だ。
フォル曰く、彼が帰ってくる前に治療をしてほしいという。
フォルはノアールの剣幕に少し気圧されつつ、自分の傷の理由を話した。
「だから……フィアの替え玉をやったんだよ。
あの子、考えもなしに自分から共同浴場に行くって言っちゃってさ」
「……は」
その言葉の意味が理解できず、ノアールはそんな声を漏らした。
フォルはそんな彼に微笑みつつ、"わからない?"と訊ねる。
「あの子を"手助け"するために、僕がフィアに成り代わったの。
僕は男だから、普通に男風呂に入っても問題ないだろう?
でもフィアは女の子だ。女の子の体で男風呂に入るの何て、無茶だと思わない?」
「……何故それを主が助けるのです」
ノアールの声は苛立ちを含み、低いものになっていた。
何故かつての敵を、それも自分が糧としようとして失敗した実妹を助けるのか、と。
「……情が湧きましたか、兄としての情が」
「珍しいねノアール。僕にそんな口の聞き方をするなんて」
フォルは不機嫌そうにそういいながら、ノアールの手にあった救急箱を手に取った。
そしてそれをまさぐり、必要なものを引っ張り出す。
適当に処置を始めつつ、フォルはいった。
「ひとついっておくけど、別にフィアのためじゃないよ。
僕だって流石にそこまで優しくない。
あくまで僕は僕の生活を……書記長様との生活を守るために、
フィアに恩を売っているというか、
今までのことを詫びるような真似をしているというか……それだけ。
あの子やあの子の仲間に僕の、君や僕の存在が認められれば、
僕は堂々と書記長様と一緒にいることが出来る。
こそこそして、見つかって追い出されたり、
書記長様が白い目で見られるリスクが減る。
……僕は、何の利益もないのに敵に親切にしてあげるようなキャラじゃないよ」
フォルはそういいながら自分の左肩に刻まれた傷に薬を吹き付けた。
自分の妹……フィアと同じ場所につけた傷。
ノアールもその傷はよく知っている。
一度目は自分やフォルの部下であるロシャという操り人形が、
二度目は自分自身がつけた傷だ。
それと同じものをつけた主人を見るのは、複雑な心情で……
「……結局」
ノアールは低い声で呟く。
フォルは一度手を止めて、ノアールの声を聞いていた。
「結局、"彼奴"のため、ということですか」
「君が言う"彼奴"が書記長様を示しているのだとしたら、そうだよ」
フォルはそういってにこり、と笑う。
そのまま自分の肩に大きなガーゼを張ってテープで止めた。
それで応急処置のつもりらしい。
これでよし、と呟いてそのまま上着を着ようとするフォル。
ノアールはそれを見て溜め息を吐き出すと、声をかけた。
「……お待ちください、主」
「え、なに?」
ノアールはやんわりとフォルの手をつかんで、コートを下ろさせた。
そのまま適当に貼り付けられたガーゼを剥がして、再び消毒液を吹き掛ける。
「……っ、ノアール、もう少し優しく、出来ないの……痛い」
フォルは痛そうに顔を歪めた。
その様子も、ノアールにとっては違和感のあるものだった。
フォルはどんな傷を負っても平然としているイメージが強かった。
自分で砕いたチェスの駒の破片が指先に刺さっても笑っているような人だったのに……
変わったな、と思う。
そんな思いを頭から追い出しつつ、ノアールはフォルにいった。
「そんな手当ての仕方で悪化したらどうするのですか」
「大丈夫だよ、軽い傷だし」
「軽い傷から悪化するから怖いのですよ」
そういいながらノアールはフォルの肩の傷にガーゼを貼って、
上から包帯をしっかりと巻き付ける。
これはマメに換える必要があるからな、と呟いた。
「……主」
「なんだい、ノアール」
間近で見つめる、サファイアの瞳。
吸い込まれそうなほど深い青色の瞳。
ノアールはそれを見つめつつ、問いかけた。
「この包帯はマメに取り替える必要があります。
もしも"あの男"に傷を見せたくないのなら……私が交換いたしますが……?」
「……あぁ、頼むよ」
少し悩むように言葉を止めたフォルはそういって微笑んだ。
ノアールが包帯を巻いた肩に触れつつ、呟くようにいう 。
「書記長様に要らない心配させたくないしね」
「……そうですか」
ノアールはそう呟いた。
フォルが自分に頼ってくれることが嬉しいやら悔しいやら、だ。
彼が傷を"愛しい人"に見せずに自分に処置を頼む。
でも、その理由はその"愛しい人"に心配をかけたくないと言う思いからで……
―― 結局一番は"彼"なのか、と思う。
それが憎たらしくて。
妬ましくて。
それでも、主のことを嫌いになることなど出来なくて……
せめてもの抗議のつもりで、ノアールはフォルの肩に強く触れる。
「い、った……何、するんだよノアール」
「少し懲りてください」
ノアールは短くそういうと、さっさと救急箱を片付けた。
そのまま、空間移動術で姿を消す。
一人で戻ってきた暗い廃墟のなかで、黒髪の少年はひとつ息を吐き出した。
―― 優越と苛立ちと ――
(彼は何故あんなにも怒っていたのだろう。
この程度の傷、さして痛くもないしすぐに治るのに)
(こんなにも苛立っているのは大切な主が妙な理由で傷を負ったから。
……否、"彼"を思うが故に傷を負ったのだと知ったから)