お題とは関係ないのですが、
もう、彼らに似合いすぎるお題を見つけたので、
書いちゃいました!
二つでワンセット。まず一つ目です!
・白昼夢設定のお医者様コラボ(つまりBL)
・超シリアス…にしたかった。
・でも文章能力不足に突き、残念クオリティ。
・とりあえずこっちは、メンゲレさんの心情メインで書きたかった。
・結局星蘭クオリティ
・ナハトさん全力でごめんなさい。
お題をお借りしております。
二作目、ジェイドサイドが終わったら最後に提示させていただきます。
以上大丈夫な方は追記からどうぞ!
誰かの悲鳴で、メンゲレは目を覚ました。
切実に、助けを求める悲鳴。
苦しい、悲鳴。
叫び。泣き声。
言葉にならない、叫び。
誰だろう。
何が起きたんだろう。
何か起きたなら、助けに。手伝いに。
もがいて、もがいて、目を開けた。
心配そうに、覗き込む翡翠の瞳。
「メンゲレ!」
呼ばれて、気づく。
今悲鳴を上げているのは、自分だと。
何故、泣いているのか、も。
―― 今見ていた、夢。
"あの時"も、みた夢。
悪魔の魔力を食らった時も、みた夢。
"オリジナル"の罪を、責められる夢。
首に、手に、口に、足にのばされる、"被験者たち"の手。
浴びせられる、無数の声。
自分を責める声。
追い詰める、声。
―― 嗚呼、逃れられないんだ、と絶望した。
逃げたいと、願っていた?
逃げられると、錯覚していた?
―― そんなの不可能なのに。
消えるはずのない罪なのに。
変えようのない、逃れようのない"事実"なのに。
苦しくて、息が詰まる。
息苦しさで、涙があふれた。
「メンゲレ、落ち着いてください。大丈夫ですから」
大丈夫、と声をかけて。
"あの時"のように、伸ばされた手。
いつものように優しく触れてくる手を、反射的に振りほどいた。
「触れないで、ください……!」
驚いた顔をするジェイド。
切実な、拒絶。
優しさに触れるのが、怖かった。
―― 否、"触れさせたくなかった"というのが、正解で。
罪に汚れた自分に、触れてほしくなかった。
叩いた時に見えたジェイドの驚いた顔が、傷ついた顔が、胸を締め付けたけれど。
それでもやっぱり、触れさせたくなくて、触れられたくなくて……
びり、と痛みが走る。
力任せに振りほどいたためか、腕に巻いていた包帯に血が滲んだ。
そう、先刻任務中に負った傷。
さっき、ジェイドに処置してもらったばかりの、傷。
「ほら、暴れるから……」
心配そうに、腕にのばされた手。
触れたかった。
触れて、安心したかった。
でも、それは許されない、と思った。
「嫌だ……!」
拒絶。
伸ばされたジェイドの手を、叩いて。
布団の上に、うずくまった。
「……メンゲレ」
小さな声で、ジェイドが呼ぶ。
躊躇いと、困惑と、心配と。
全ての感情が、入り乱れた声。
メンゲレは小さく首を振った。
「僕は……やっぱり、貴方とは、違うんです」
震える声で、告げる。
自分は、貴方と違うのだと。
「違いませんよ」
そういうジェイドの声。優しく、否定する声。
……素直に、受け入れたかった。
でも、首を振らざるを得なかった。
「違うんです」
―― いくら、貴方が否定してくれても。
「僕は、"ヨーゼフ・メンゲレ"ですから」
―― それは、逃れようのない、事実。
「"死の天使"ですから……」
―― 自らの"オリジナル"が犯した罪は、消えない。
「……違う、んです。ジェイドさんたちとは」
―― 貴方は、フラグメントじゃない。
そのことで、線を引いてはいけないと分かっている。
線を引かなくてもいいと教えてくれたのも、彼で。
それでいいんだと、自分でも納得した。
安心した。
―― だけど。
ぽたり、と。涙が落ちた。
泣くな。と自分に言い聞かせる。
泣いても仕方ない。
泣いても、救われはしないのに。
いくら線を引かなくたって、自分がフラグメントであることは事実。
逃れられない、運命(さだめ)で。
自分を縛り付ける鎖は、決してほどけない。
自分が一番よく、わかっているつもりだった。
―― 彼と僕は、違う。
自分で否定すればするほどに、切なくなる。
自分と彼とは違う、という否定。
それを否定するジェイドの言葉に素直に頷けたら、どれだけ楽だろう?
でも、否定できないと一番よく知っているのは自分だから。
「事実、は……変わらない、んです」
震える声で言って、メンゲレは口をつぐんだ。
それ以上、言葉を紡げば、自分が壊れてしまう気がした。
身体を震わせて、必死に息を整える。
縋ってもよいと。
以前、ジェイドに頼っていいと、言われた。
素直にそれに甘えたい、とも思った。
縋ってしまえたら、楽だ。
彼の、ジェイドの優しさは、十分よく知っている。
しかし、それを許さないのは、自分自身。
甘えることを、彼に触れられることを、許さないのは……
―― 自らを戒める鎖。
自分を流れる、忌々しい、殺戮の血。
思い出したくなくても、浮かんでしまう"オリジナルの自分"。
歪んだ笑顔を浮かべて、被験者に向き合う自分。
否定しきれない、まぎれもない自分の所業。
「……ごめんなさい」
メンゲレとジェイドの、二人の声が、重なった。
静かな、震える声。
―― 何に対する、謝罪?
謝ること、ないのに。
貴方は、悪くないのに。
二人は、たがいに、心の中でそう呟いて。
―― でも、その言葉は相手には届かない。
もう一度伸ばされたジェイドの手は、
メンゲレの震える背に届くことなく、静かに、おろされた。
― 逃げたい、逃げられない ―
(忌々しい殺戮の血)
2012-9-10 21:20