ルカとエルドという珍しいペアでのSSです。
久々にエルドをしゃべらせたくて…←
彼が騎士になった理由を直接語ってるシーンを書くのは楽しかったです。
でも、エルちゃんは基本しゃべるとギャグ?ほのぼの?担当です。
案外明るくて悪戯好きな子だったので(笑)
エルちゃんをもっと出してあげたい…←
ともあれ、追記からどうぞ!
「ん……」
小さく声をあげて、黒髪の少年は目を覚ます。
ルビー色の瞳が幾度か瞬いた。
彼はそのまま視線を、周囲に巡らせる。
何かを、否……誰かを、探すように。
「あぁ……夢、か」
彼……ルカは、小さく呟いた。
確かめるような、声で。
そしてベッドの上に体を起こす。
多忙で疲れた体。
ほんの少しだけ仮眠をとろうと思って部屋に戻っていたのだった。
時計を見れば、眠りについてから一時間は経っていない。
寝過ごしていないことにほっとした。
寝過ごしたりしたら、また従弟にどやされる。
「こんな短い間に夢見るなんてなぁ……
しかもあんな懐かしい夢」
ルカはそう呟いて、小さく笑った。
その表情に滲むのは懐かしさと……僅かな、切なさ。
―― 懐かしい、夢をみた。
ルカは、そう思い返して目を閉じる。
彼の頭のなかには、先刻までみていた夢が展開されていた。
***
ルカが統率官になって、少しはその風格もついてきた頃の夢だった。
歴代でも最年少のセラ。
そして元々のルカの性格もあって、
同期の人間にはセラになってからも、呼び捨てで呼ばれていた。
ルカ自身それで構わないと思っていた。
……まぁ、時々は体裁だけでも"呼び捨てにすんなよなぁ"等といっていたけれど。
そんな、友人たちのなか。
「ルカ統率官!」
彼のことをそう呼んでいた、黄緑の髪の少年がいた。
彼の名前は、エルド・ウェイリスという。
ルカの同期であるシストの実質的なパートナー……
つまり、ルカの同期でもあるのだが、彼はルカのことを呼び捨てにせず、
ちゃんと敬語を使う珍しい騎士だった。
決してルカのことを嫌っているわけではないのだが、
つい癖で"上の人間"には敬語を使ってしまうのだ、といっていた。
見習い(ノト)時代にはあまり関わりを持たなかったために、違和感はない。
ルカは他の騎士たち同様に、友人かつ上司というポジションでエルドに接していた。
「お、エルド。任務終わったか?」
お疲れ、とルカが言うと彼は笑って頷いた。
その日は珍しく、パートナーであるシストと別々の任務だった。
彼が一人でいるのは珍しくて、ルカは彼に話をふった。
「なぁ、エルド」
「?何ですか?」
きょとん、としたエルド。
ルカはそんな彼に訊ねる。
「お前はさ、何で騎士になったんだ?」
唐突にそんな話を振られて、エルドは少し面食らったような顔をした。
ルカは慌てて"言いたくなかったらいいからな"と付け足す。
一部隊のトップとして、仲間のことを色々知りたいと思ったゆえの質問ではあるが、
中にはあまり話したくない理由で騎士になった者もいるだろう。
例えば……ルカの従弟である、フィアのように。
しかしエルドはすぐに笑顔で首を振った。
「いや、話したくないって訳じゃないですよ。ただ、少し驚いただけで」
"理由聞かれたのは、二回目だな"とエルドは呟いた。
一回目はきっと……彼だろう。
エルドは短い黄緑髪をかきあげると、ふっと息を吐いて、いった。
「俺が騎士になったのは、恩返しのためなんですよ。
俺の……親代わりだった人への」
「恩返し……」
ルカが呟くと、エルドは小さく頷いた。
「俺、孤児だったから……
大きくなるまで引き取り手がつかなくて、
結果的に騎士になるまでその孤児院で世話になってたんです」
エルドの過去を聞いたのは、そのときだった。
彼は懐かしそうに目を細めつつ、話を続けていた。
「俺のファミリーネームも、俺のじゃなくて……
その孤児院の院長の旧姓なんですよね。
それを名乗ってくれって言われたんです、その人に。
騎士になって一人立ちするときにファミリーネームがないと締まりがないから、
私は貴方を息子だと思っているからって」
そう語るエルドは、嬉しそうだった。
穏やかな、エメラルド色の瞳。
きっと、大好きだったのだろう。
その孤児院の人たちが。
ルカは微笑んで、訊ねた。
「だから、恩返しか?」
「えぇ。森の近くの孤児院だったから魔獣に襲われることもあるかもしれない。
そうでなくとも、資金繰りに苦労するかもしれないから、
それなら経済面での援助もしてやりたいし……
何より、カッコいいとこ見せてやりたいんですよ。
俺と一緒に孤児院にいた、ちびたちに」
そういって、エルドは照れ臭そうに笑った。
孤児でもこれだけのことができる。
大切なものを守れる力を持つことができる。
それを皆にも伝えたかったんだ、と。
「……なんて、かっこつけすぎたな」
あはは、とエルドは笑った。
照れ臭そうに。
でも、その言葉には偽りなどない。きっと本気なのだろう。
ルカもそれがわかったから、表情をほころばせた。
「そっか……頑張れよ」
「あぁ、頑張りますよ!
……そういえば、ルカ統率官は何で騎士になったんですか?」
彼も、そう訊ね返してきた。
ルカは小さく笑って、答えた。
「俺の家族のため、かな……
家族って言うか、大事な奴っていうか」
素直にそう答えていた。
両親を竜に殺されて、泣いていた彼女のため。
泣いてばかりでなく、自分で強さを求めた、彼のため。
ルカがそう答えると、エルドは少し意外そうな顔をした。
そして、悪戯っぽくいう。
「へぇ……恋人とか?」
にや、と笑ったエルドに顔を赤くして"違う!"と反論した……
そこで、目が覚めた。
***
「懐かしいな……」
ルカはそう呟く。
あのときのエルドの顔は、鮮明に覚えていた。
恩返し、はきっと十分にはできなかったと思う。
けれど、彼が語った後半の目標……
大切な仲間を守れる力を持てるということは、身をもって証明しただろう。
「……エルド」
小さな声で、彼を呼ぶ。
もう二度と、近くでは会えない彼の名前を。
「俺は、頑張ってるぜ。シストも」
天国の彼に、告げる。
自分達は頑張っているよ、と。
その声に答えるように、優しい秋風が吹き込んできた。
―― 強さを求めた、理由 ――
(その理由をお前に聞いたときの夢をみた
お前はとても優しい笑顔で、強い意志を灯した瞳でそれを語った)
(今も夢にみるくらい俺ははっきり覚えているよ
あのまっすぐな瞳が、俺もシストも大好きだった)