お医者様コンビのシリアスなSSです。
完璧にダークモードなメンゲレさんとそれを止めようと試みるジェイド。
…メチャシリアスになってしまった(ぇ)
*attention*
・お医者様コンビのSSです
・シリアス(というかダーク)です
・完璧にダークモードなメンゲレさん
・一応流血、残酷描写ありなので注意。
・救いがない、きがします、ごめんなさい(おい)
・でもこう言うシリアス好きです(蹴)
・相変わらず妄想クオリティ
・メンゲレさんごめんなさい
・ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKと言う方は追記からどうぞ!
「……漸く、見つけたと思ったのに」
ある建物の前にたって、緑髪の魔術医は小さく呟く。
長い緑髪が風に揺れた。
彼の表情は何処か苦しげ、悲しげだった。
彼がこんなところ……町外れにいることにはある理由がある。
数日前、ディアロ城草鹿に所属する黒髪の天使が唐突に姿を消した。
任務を命じた記憶もなければ、何処かに出かけると言う話も聞いていない。
魔力を探しても、最初はうまく見つからなかった。
事件性が高いからと散々心配し、統率官であるジェイドは必死に探した。
そうして、数日行方不明だった後に漸く見つけた、愛しい彼の魔力。
ジェイドはそれを追って、此処まで来たのだ。
走る、走る、その先にあったのは一件の家。
その中から強い魔力を感じた。
そして……濃い、濃い、血の臭いも。
ジェイドは顔を顰める。
この臭いは好きではない。
―― 魔力は感じる、ということは……彼の傷ではないでしょう。
ジェイドは静かに分析した。
恐らく、中で傷を負っているのはメンゲレではない、と。
それを考えれば思いつくケースは唯一つ。
その光景は、正直ジェイドも見慣れている。
止めてやれれば良いけれど、と思いつつジェイドは扉を開けて……
―― 愕然とした。
目の前に広がっている光景は凄惨としか言い様がなかった。
床に倒れている、幾人もの人間。
床に広がる赤黒い水たまり。
ジェイドのローファがそこを踏むたびにパシャ、と小さな水音がする。
黒髪の天使は振り返った。
ジェイドの姿を見て"こんにちは"と恭しく一礼してみせるメンゲレ。
ちょうどその手元からひとりの人間が崩れ落ちる。
糸の切れた操り人形か何かのように、支えを失ったそれが床に落ちた。
既に倒れていた者たちを含めて、皆息がないことは目に見えていた。
「……っメンゲレ、何を……」
ジェイドは目の前に立っている黒髪の少年を見つめた。
彼……メンゲレは不思議そうに首を傾げる。
「何、って……"今までどおりのこと"を」
そう言って、メンゲレは微笑んだ。
それが、普段ジェイドが知っている心優しい天使の笑ではなく、
彼の心の奥に眠らされている"はず"の、彼のオリジナルの笑だった。
これまでどおり……それはつまり、狂った実験。
確かに、倒れている者たちは"普通の"殺され方をされていなかった。
浅い傷が無数にある者。
致命傷になりうる傷が一箇所だけある者。
腕や足に拘束具がついているもの。
それら全て、"メンゲレ"がやったであろう事は想像がつく。
数日帰ってこなかったのは誘拐されたからではないとジェイドは悟った。
"実験"をしていたから、帰ってこなかったのだ。
自身の敵になりうる存在が多い城にとどまるより、
都合の良い"この場所"に留まり、"実験"を続けることを選んだ。
「……何と、残酷なことを」
ジェイドは小さく呟くように言った。
あまりに凄惨な光景。
あまりに残酷な所業。
したのが"メンゲレ"であるために純粋な憎悪を抱くことも出来ない……
ジェイドはメンゲレを見据え、静かな声でいった。
「……この人たちが、貴方に何かしましたか」
「"僕"の所業を咎めたからですよ」
「……この実験を、ですか」
実験とも言えぬ実験。残酷極まりない実験。
以前、"本人"がそう言っていた。
あまりに残酷な実験だったと。
自分は、そんなことをした"自分"を許せないのだと。
しかし、今の彼はくすくすと笑って、"そうですよ"と答えた。
ジェイドはそれを聞いて険しい顔をする。
「……咎めて、当然でしょう。
それだからと言って、貴方は人を殺めるのですか」
「ふふふ、僕は許せというなら、許せましょう。
しかし逆に……殺めることとて、容易い。
僕は"それ"を人間とは思っていない」
黒髪の彼はふ、と笑を浮かべてジェイドの首筋にメスを添えた。
そのまま動かせば、彼の首を掻き切ることが出来るだろう。
ジェイドはなにも言わずに、彼を見据えた。
「一体、どう言う……」
「人を人と思うから、悪いのですよ。
人を人と思わなければ、許すことも殺めることも出来る……
優しくも、冷たくもなれるのですよ」
くすくす、と笑う彼。
ジェイドはその表情を見て、顔を顰めた。
そして諭すように言った。
「……貴方らしくないですね」
「貴方が言う"僕"らしくはないのかもしれませんねぇ」
メンゲレはそう言いながら、ジェイドの首に当てたメスを滑らせた。
ツ、とジェイドの首筋を伝い落ちる紅い雫。
メスを伝って、メンゲレの白衣をも汚すその赤色を見て、
メンゲレは恍惚の表情を浮かべた。
「美しい、ですねぇ……」
愛でるようにそう言って微笑む彼。
しかしその笑には決して優しさ等ない。
ジェイドは翡翠の瞳を細めた。
そこに滲む、苦痛、悲痛……
しかしこれではいけないと言うように、彼は鋭い声で言った。
「……笑えない冗談はそのあたりにしてください」
ジェイドはそう言って彼の足を払う。
思わぬ攻撃に一瞬体勢を崩したメンゲレだが、直ぐに立て直し、
ジェイドに向かって魔術を放つ。
素早く障壁をはるジェイドだが、所詮は植物属性魔術による障壁。
メンゲレの天使属性魔術には適わず、直ぐに砕け散る彼の障壁。
硝子が砕けるように飛び散る光の欠片に、メンゲレは目を細める。
その瞳に灯るのは、狂気。
普段の、優しい穏やかな光ではない。
少し悔しげな顔をして、ジェイドは弓を構えた。
「……力技で止めるしかなさそうですね」
ジェイドは小さく呟くように言って、メンゲレのメスの範囲から外れた。
数歩下がって距離を取る。
「おやおや……でも、逃がしはしませんよ」
メンゲレは笑って、メスを投げる。
ジェイドはそれを弓で払った。
彼の"目的"はよくわかっている。
そのメスにはられた蜘蛛の糸(シュピンネのいと)でジェイドの動きを封じること。
そのあと何をするつもりかはわからないが……
「僕は、"貴方"に捕らえられるわけにはいかないんですよ」
ジェイドは静かに呟くと、素早くメンゲレの後方に回った。
思わぬ動きにメンゲレは目を見開く。
「な……っ」
「あまり動かないでくださいね」
静かな声でそう言って、そのままメンゲレの首筋を軽く叩く。
幾ら性格こそオリジナルになっていても、体は華奢なメンゲレのそれのまま。
動きが早くとも、天使の魔力を有していようとも、
人間として、生き物としての弱点を突かれれば、勝ち目はない。
"騎士"としての強さではない。
"魔術師"としての強さでもない。
医師としてよく知る人間の弱点を突いただけだった。
きつくやりすぎれば、メンゲレの体に後遺症を残す結果になるため、
出来うることならばやりたくはなかったが、
魔術で彼を封じる事は到底不可能と思っていたがために、
ジェイドはイチかバチかでその道を選んだのだった。
呆気なく地面に倒れかけたメンゲレの体を抱きとめ、ジェイドは息を吐く。
彼の首筋についた傷からぽたり、と紅い雫が落ちる。
寝顔は、いつもどおりのメンゲレだった。
ジェイドは彼をきつく抱きしめて、荒く息を吐く。
「……眠りなさい。此処は貴方がいて良い場所ではない……
彼は優しく、脆い人なんです……
"貴方"の所業を悔やんでいた。何度も何度も泣きながら被害者に詫びていた。
……これ以上、僕の大切な人を傷つけないでください」
懇願にも良く似た声色で、ジェイドはそう言う。
白い頬に幾筋も涙が伝い落ちる。
眠っている彼が次に目を覚ます時が、正直少し怖かった。
―― ウラ、オモテ ――
(貴方の全てを愛すると誓った。
でも、"貴方"が"彼"を傷つけるのならば…僕は"貴方"を許せない)
(静かに眠る天使が次に目覚めたときに見せるのは
狂気に染まった死の天使の笑顔か優しい天使の泣き顔か…)
2013-8-7 18:51