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水占


水盆に月を映すこと、半時。

「…まだか」
知らねえ人間の前じゃだめなのけぇ、などとぶつぶつ呟いていたが、ひょいと顔を上げると、苛立ちから眉間にしわを寄せ始めた元就へ、悪びれもせずに言い出した。
「ちぃと時間がかかりそうだ。まあ、物語りでも聞いてくれや」
元就は、話にならぬとばかり、鼻を鳴らした。
「下らぬ…水面に別の景色が映るなど――」

「新しい狩衣、似合ってたぜ」

切れ長の瞳が、苛立ちから驚きに変わる。
「あの深草色の金欄のやつがいい。濃い香色の錦と合わせれば、そりゃあ映える」
「なぜ…知っている…」
「あ?そりゃわかる、何てったって、俺が贈った布だからよ」
「そういうことではない!」
わけがわからぬ、といった様子で、元就は首を振った。

「なぜ、我が衣装を“着た”と知っている?」

すると、元親はにんまりと笑った。
「だから言ったろ?水占だって。ま、俺がやっても無理みたいだが…」

ちらりと向けられた視線の先には、変わらずゆらゆらたゆたう水面。
戻した先には、月夜に照らされた、真っ赤な月の面。
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