ガンッ
「ひっ!?」
突然響いた何かを強く蹴る音に、ヒロが反射的に体をビクリと大袈裟に一度跳ねさせた。
恐る恐る音が聞こえた方を見ると、そこにはドアを蹴り開けたギルが居た。
「ギ、ギルさっ…ななななんでドア蹴っ……」
「あ、おかえりーギル。仕事お疲れ様」
音を聞き付けたソーマがコーヒーを飲みながらリビングから出て来てギルに言う。が……
「……………………」
ギルは黙ってヒロとソーマの側を通り過ぎ、リビングに入っていった。
ヒロとソーマもその後を追い、ギルを見ると…リビングでソファーにドカ、と荒々しく座り、不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた。
明らかに機嫌が悪いギルに、ヒロはビクビクとしながらも小声でソーマに声をかける。
「そ、ソーマさん…ギルさん何であんな機嫌悪いんですか俺なんかしましたか…!?」
「んー、ヒロのせいじゃないよ。原因は今日のギルのお客」
「え…ギルさんのお客さんって事は……ギルさんを用心棒に雇った人ですか?」
「うん。今日ギル帰ってくる予定の時間より遅く帰ってきたでしょ?実は1時間くらい前にギルから『特別残業があるから少し遅くなる』って電話あってさ」
ソーマは一口コーヒーを啜り、続ける。
「で、その時のギルの声があまりにも不機嫌だったからギルのお仲間に電話して聞いてみたら……」
「き…聞いてみたら………?」
「雇い主(男)に尻撫でられたんだって」
ゴガンッ
ソーマの言葉の直後に、ソーマとヒロの間を灰皿が高速で通り過ぎ、壁へと激突して床に落ちた。
ヒロは身を固くして冷や汗をだらだらと滝のように流し、ソーマは平然として灰皿を投げてきた本人・ギルを見る。
「危ないなー、何すんの」
「テメェが胸糞悪ィ話を掘り返すからだろが」
「別にいいじゃんヒロは秘密守れる子だから誰にも言うなって言ったら言わないよ」
「そーいう問題じゃねぇ。今すぐ記憶から消去しろ」
「無茶言わないでよ流石にそんな便利な記憶喪失にはなれないから」
淡々と言うソーマにいらつきながら、ギルは立ち上がりリビングを出て玄関に向かった。
「どこ行くのー?」
「煙草買いに行く」
「あ、じゃあついでに牛乳よろしくー」
ギルは右手を軽く上げて答え、ソーマとヒロはギルを見送った。
やっと我に返ったヒロが恐る恐るソーマに言う。
「ま…まさかギルさんの言ってた『残業』て……」
「うん。雇い主さんをフルボッコにするコト。ま、初対面の男に尻撫でられりゃギルじゃなくてもキレるよね」
「とんだ命知らずがいたもんだねーギルにそんなコトするなんて。確かにギルは美形だけどさ」とか言いながらまたコーヒーを啜るソーマ。
ヒロはギルにフルボッコにされた雇い主を心から哀れんだとか。
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仕事をしている以上、変な客にも遭遇するコトがあるギル様←
ギル[ニドキング]
ヒロ[ヌオー♂]
ソーマ[フシギバナ♂]