いい夫婦の日ですね。俺には2次元にも3次元にも嫁なんていませんが。
え?長門?
長門はキョンの嫁だっつの!
というわけでいい夫婦の日SS
……長編早ようやれorz
【家族】
「おかーさーん、朝だよー」
「んむぅ………?」
私は体にかかる重みによって目を覚ました。ぼやけた頭と目で、枕元に置いている時計を確認する。
……8時54分。迂闊。
「おかーさん、お寝ぼうさんだー」
未だに私の上に乗りながら、薄くはあるけれどはっきりとした笑顔で私を見てくるのは、私の娘。今年で5才。
「……おはよう」
「うん、おはよう」
起き上がり、布団を畳んでいると、娘が向かった台所から声が聞こえてくる。
「お、お母さん起きたか?」
「うん。呼んだけどおかーさん起きなかったから、上に乗ったら起きた」
……呼ばれていたのに起きられなかったとは、迂闊。
「お前なぁ、お母さんも疲れてんだから、そんな起こし方しちゃいけません」
「えー? だっておとーさんも昔はー」
「アイツに教えられたことはしなくていいの!」
……夫の言う『アイツ』は、恐らく夫の妹さんのことだろう。彼女も小さい頃はよく夫に飛び乗って夫を起こしていたという。私達が結婚してからも、彼女はよくここへ来て娘の遊び相手をしてくれる。彼女も私にとってとても大事な人の1人。
2人のいる台所へと顔を出す。
「……おはよう」
私が声をかけると、甘い匂いをたてる朝食であろうホットケーキを焼きながら、
「ああ、おはよう有希」
夫が笑顔で私を迎えてくれた。
「どうだ、美味いか?」
「うん」
「とても」
「そうか」
3人で夫の焼いたホットケーキを食べる。夫は意外にも(と言うと失礼だが)料理の腕が平均的な男性のそれと比較するとやや高く、簡単な料理ならば時折作ってくれる。
「でも、黒いとこはおいしくないよー」
「そうか、じゃあいらないんだな」
そう言って、娘のホットケーキを容器ごと彼女の手に届かないように奪う。
「あっ、ダメ……!」
「ちゃんと食べるか?」
「うん。シロップかけるもん」
「はい、じゃあほら」
戻されたホットケーキにシロップを表面いっぱいまでかけ、娘が幸せそうに頬張る。
「おかわりまだ作れるからな、欲しかったら言うんだぞ」
「うん」
娘の、夫と同じ色をしたショートカットを優しく撫でながら、優しい表情で夫が言う。娘も気持ちよさそう。
そんな2人のやりとりを見ていると、私の頬も自然と緩んでいた……
夫が娘を胡座の上に乗せながら2人で子供向けのテレビを見ている間、私は寝坊のお詫びとして、夫の反対を圧して朝食の皿を洗う。
今日は休日、私達3人が1日中過ごせる日。といっても、3人共積極的ではない方だから外出をすることはあまりない。
それでも、愛する家族と同じ時間・空間を共有出来ることは、今の私にとってこの上ない幸せだった……
夫と出逢った当初は、私がこれほど幸福な人生を歩むことが出来るようになるなんて思ってもみなかった。通俗的に言えば、親に敷かれたレールの上を歩むような人生だったから。
自分の意志で生きているという実感など湧いていなかったし、眺めているはずの世界はどこか色褪せていた。そんな生を最期の時まで過ごし続けるものだと思っていた。
でも……それは夫と出逢ったことで劇的に変化した。
世界に色が塗られ、私に幾つもの心を与えてくれた。私が信頼を裏切るようにどうしようもなく暴走した時でさえも、私を責めることなく、暖かい両手で私を包み許してくれた。その時私がどれほど救われたと感じたか、あの人は知らないだろう。たまにデリカシーのない言動で落胆させられたこともあったけど、そんなところもひっくるめて私は夫に惹かれた。
いつしか、叶うことのない夢物語を私は描いていた。どんなに望んでも、叶うことはないと思っていた。
けれど、その夢は叶ってしまった。私がまたその想いに押し潰されそうになった時、それを伝えたら、私を守ってくれると約束してくれた。本当に嬉しかった。生きてきた記憶の中で初めて、笑顔を浮かべられ、同時に涙を流すほどに。
それから交際が始まり、私にさらに広い世界を教えてくれた。私が苦しまずに済むよう私の能力にも頼ることを抑え、私を導こうと努力もしてくれた。
そして……私にプロポーズをしてくれた。私の世界そのものと言っても過言ではない彼の想いを、どうして断ることが出来ようか。私は彼を迎え入れた。
子供も生まれ、健やかに育っている。私に似て本が好きで感情をあまり表に出せないけれど、誰よりも私の表情を読むのに長けた夫には簡単にわかるそう。勿論私にもわかる。最近は年下が欲しいと言うから、夫とまた頑張ることを視野に入れなければいけない。あ、また顔が緩む。
夫は昔から言っていた『安定した職』として公務員になり、家族サービスを欠かさない。いい夫。実を言うと私がもっと稼げる仕事に就くことが出来たが、夫に『今まで俺の比じゃない苦労をかけたんだ、お前が気張ることはないさ。それに、今の方が稼ぎはともかく家族で過ごせるからいいと俺は思う』と言われ、喜んで従った。でも、気遣ってもらえるのは嬉しいけれど、やはり夫にばかり負担はかけられない。夫の苦しみは私の苦しみでもあるから、私は夫を支えたい。
洗濯等の仕事を一通りこなし、昼食にする。昼食は高校時代より夫と共に試行錯誤を重ねた共同カレー。娘にも大評判。
「美味しい?」
「うん。すごく美味しい」
「メチャ美味いよ。心なしかいつにもまして美味い気がする。何かしたか?」
「特別なことは何もしてない。でも、あなたが言うのだったらそれはきっと真実。美味しくなっていると思う」
「フフッ、だよな。有希が作ったもんだ、美味いに決まってるさ」
「…………そう……」
また、頬が緩む。
昼食の片付けをしてリビングに戻ると、夫の腕枕で娘がお昼寝をしていた。夫も眠っている。
本音を言うと今日の買い出しは3人で行きたかったのだが、仕事疲れが溜まっていたであろう夫や幸せそうに眠る娘を見ていると、暖かな気持ちになる。
………今晩の食事の分の材料はまだあるし、干した洗濯物も乾くまで時間がかかるはず。3人での買い出しは今日でなくても出来るだろうし……何より、穏やかな寝顔の2人を見ると、起こそうだなんて気も失せた。
私は娘の反対側、やはり夫に腕枕をしてもらう形で横になる。暖かくて惚けてしまいそう……彼に思わず抱きついてしまった。しかし腕を引っ込めようなどとは微塵も思わない。
「 、 ……愛している……大好き……」
2人の規則正しい寝息と、夫から直に伝わる温もりに包まれながら2人の名を呟き、私の意識はこれ以上ない幸せという海の中に、沈んでいった……
「という夢を見た」
「「「「………………」」」」
時は放課後の文芸部室。ハルヒの『宇宙人の電波って実は人間の夢の中に来るんじゃないかしら!』とのお達しで、各自最近見た夢の発表をすることになったのだが……
1番『夢』に無縁そうなこの宇宙人は俺の心配をよそに正反対のベクトルでぶっ飛んだ答えを語ってくれた。
……ヤバい、顔の火照りが治まらん。
「………残念……」
「何だと!?」
長門が俯きながら小さく呟いた言葉に思いっきり動揺する。そ、それは……どういう意味なんだ……?
「そ、そうよね! よかったわね有希、夢で! キョンなんかと結婚なんてしちゃったら人生大損よ!」
お前は俺を何だと思ってんだ。やたらと嬉しそうに言うハルヒに軽く毒づく。心の中でな。もし長門が今ハルヒが言ったような意味で『残念』だと言ったのなら、俺は3日ほど精神的に死ぬだろう。
「違う。夢の中の私は幸せだった。夢が夢であったことが残念だと言っている」
長門の言葉にまたもや全員が固まる。………………マジで?
「もし夢の中のようにあなたと過ごせれば、私にとってこれ以上の幸福はない」
………あー、それは愛の告白と受け取ってもいいのか………?
俺の問に小さく小さく長門は頷いた。
「夢の中の私が語ったあなたへの想いは、今の私のそれとまったく同じ。私という個体は、あなたをこれ以上はないほどに大事だと感じている」
……マジの………マジ…?
「信じて」
…………ああ、ありがとう……
こうして、めでたくカップル誕生に
「こらーーーーーー!!!」
なるわけなかった。勘弁してくれ……
あれ、日付オーバー。というかいつの間にか『意外と〜』シリーズっぽくなっちまったorz
まあいいや。
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