【2人の世界・5】にてハルヒに慈悲(かあれ?)を与えた長門ですが、当初はこんな感じにするつもりでした。
蔵人様より『見てみたい』とのコメント預かりましたので、トゥルーエンドより先に書くことに。感謝!
……携帯からなんでコピペが使えないorz
※話の本筋とは関係ないつもりのSS。ハルヒ好き様注意?黒長門も。
【2人の世界・5:アナザー】
彼を彼が本来あるべき時空へと転送する。彼はこのような世界にいるべきではない。そもそも私が認めはしないし、何より彼がこの世界を否定したのだから。
「キョ、ン……!?どこに、行っちゃったの……!?」
涼宮ハルヒが狼狽する。それもそうだろう、自分が最も欲した存在が消えたのだから。当然だ、彼とこの女では不釣り合いにも程がある。
「彼はこの世界にはいない。彼のあるべき世界へと帰還した」
事実を告げる。するとこの女は「……そう…あは…あはははははは」と狂った笑い声をあげると、
「……消えろぉぉ!!!」
またもその力で私を消去しようとする。無駄。何度やろうと私には通用しない。今のこの女には学習能力さえないようだ。
「………?」
情報統合思念体から通達。どうやら思念体は、この女が生み出す新しい世界を拠点に、またこの女を観測することにしたようだ。
非常に不愉快。何故これほどまでに自律進化にこだわるのか。いや、それは構わない。有機生命体だろうと情報生命体だろうと、生きている以上は何かしら向上を望むもの。しかし、このような壊れた女に希望を繋ぐなど、そこまで落ちぶれたくはない。
思念体からの指令は、この女の望む世界を作り出し、以前とほぼ同様の環境で観察を続行可能にすること。
……ふざけるな。この女が望むのは『彼』の存在する世界だ。彼をこのような忌々しい世界に再び連れてこいというのか。
……?情報の伝達にズレ。彼女のここ数時間における記憶を抹消し、新たに生まれるこの世界の情報をこの女が望む形に近付くよう尽力せよ、とのこと。
……もう一度言う。ふざけるな。何故私がこの女のために力を貸さなければならないのか。指令を拒否。
再び消去してやろうとも考えたが、それをすると私も今は困る。
この女の唯一価値があるとも言える―いや、彼は望ましくないモノと言っている…やはり価値はない―力を用い、一時的に思念体を黙らせる。産みの親よ、この女の力を解析したデータを後で報告しておくから、今は私に自由を。
「あは…はは……キョン…あんたは、あたしのモノ…」
まだ戯れ言を…この女にはあらゆる意味で制裁を加えなければ気が済まない。
「私は彼に尋ねた。この世界と元の世界のどちらを選ぶのかと。そして彼は、彼自身の意志で元の世界への回帰を望んだ。あなたは選ばれなかった」
「なんでよっ……!あたしの何がいけないのよ!あたしといれば、退屈な日常から抜け出せた、飛びっきりの人生を歩めたのに!どうしてっ!!楽しかったでしょう!?」
叫ぶ涼宮ハルヒ。彼もこの女を諦めた、慈悲を与える必要はない。
「人間には、過ぎ去った過去を美化する力がある。彼が『楽しい』という感情を覚えたのはすべて、経験してから長い期間を経た後」
「……なんで、す…って…?」
「あなたが彼を巻き込んだ行動を起こした時、彼は喜んでいた?」
この女にこれから伝えるのはすべて事実。
「…あ……?」
「例えば、不思議探索。遅刻してなくとも全員分の食事代を罰金と称して強要された時、彼は快諾した?」
「…あ…あぁ……」
「彼は、あなたがコンピューター研究部からパソコンを入手した手段を良しとした?」
「あ……ぃや…!」
「映画の撮影で、朝比奈みくるをあなたが玩具扱いした時、彼は賛同した?」
涼宮ハルヒの情報創造能力を徐々に奪う。
「うあぁぁ……!!」
「彼が喜んでいたのは、一般的な高校生が決して送ることはない非日常を体験したという『事実』のみ。『体験』そのものを彼が楽しんだことは、あなたにとっての数%にも満たない」
「いやあぁぁぁぁ!!」
まだまだ。
「あなたは先程、私を殺害しようと常識的に有り得ない力を用いた。その力はあなたの知らないところで、彼を苦しめた」
私も関わった多くの事件を思い出す。
「う、嘘…!!」
「世界を滅ぼされたくないからと、あなたのために接吻をせざるを得ない状況に立たされた」
「な………?」
「夏休み。あなたが満足してないという理由で、終わりの二週間が15498回も繰り返された。そのループの中で、ループに気付いた彼の中には、自らが消えゆくことに絶望し、心を病んだ彼もいた」
「うぅ、ううう……」
「私にも責任がある事件で、彼は2度も命を落としかけた」
「う……うぅ…キョン……」
「もう一度言う。あなたは彼自身に選ばれなかった」
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
嗚咽を漏らして涼宮ハルヒが崩れ落ち、気を失う。
既に彼女の能力は失われ、私の中にある。私に、彼に多くの負担をかけたこの女に、悪夢を見せる。威力を増幅させた情報操作を、新たに生まれるこの世界の者に行う。
所詮涼宮ハルヒの妄想の中の登場人物。たとえ『彼』であろうと容赦はしない。この世界の者はすべて私には関係ないから。
情報操作完了。
思念体にデータを送付し、私の意思に反する干渉をしてこないよう思念体の一部を改変する。
「サヨナラ」
最後に彼女の力を用いて、私の彼がいる世界へと帰還する。
元の世界に思念体が干渉することもない、自由になった私は、彼との人生を歩ませてもらう。
せいぜい、お幸せに。
ハルヒサイド
「う…ここは、どこ……?」
酷い頭痛の最中、目を覚ます。
「お目覚めですか?」
古泉、君…?
「よ、よかったです〜…朝登校したら、涼宮さんが倒れてて……ぐすっ…」
みくるちゃん、も…?
「何があったんですか?」
えーと、何だろ…?頭の痛みを必死に堪えて記憶の糸を辿る。
「………あ…!!」
ヒットしたのは、あたしのキョンを奪ったあの忌々しい造り物宇宙人……!!
「有希!!有希はどこ!?」
あの女は絶対許さない!一刻も早くこの世界から消し去ってやる!!
「すす涼宮さん、落ち着いてください!」
黙って!
「ひっ!?」
いいから!あの女はどこ!?
「涼宮さん、落ち着いてください!それに、『ゆき』さんとは……一体どなたです?」
「……え?」
「僕の知る限りでは、涼宮さんが『ゆき』と呼ぶ方は存じ上げませんが…」
古泉君の目は、嘘をついていない。みくるちゃんも同じだ。
「……本当に、知らないの?」
あたしが念を押しても、知らないの一点張り。
「くっ……くくくく……」
笑いがこみ上げてくる。
「ど、どうしました?」
何でもないわ、古泉君。2人ともありがとね。もういいわよ。
訝しげな表情で保健室を後にする2人。
あたしは勝ったんだ!あの忌々しい人形のいない世界を創り上げたんだ!
ここはあたしの望んだ世界。邪魔者はいない!
あたしはこれからのキョンとの人生を想像し、嬉々として教室へ向かう。ホームルームはまだだが、キョンは来ている時間のはずだ。
扉を思いっきり開け放ち、愛しい人の名を叫ぶ。
「おはよーキョン!!」
しかし、返ってきたのは見慣れたアイツの顔ではなく、
『………………』
クラスメイト達の、非常に冷たい視線だった。
「あら、キョンは休み?えーと…国木田?キョン知らない?」
そう尋ねるあたしに、国木田はとんでもない答えを返してきた……
「キョンって、あの動物のことかい?そんなの、こんなとこにいるわけないじゃないか」
何をふざけたことを……そう言おうとして、クラスメイト達の冷たい視線を再び感じる。
こいつら……キョンを知らない……?
そう思った時、あたしの足は全力であたしを運んでいた……
教師の止める声など聞こえない…一目散に学校を出る。
目指すは、キョンの家。
キョンがいないなんてありえない、ここはあたしが望んだ世界!そう考えながら足を一瞬たりとも休めることなく、走り続ける。
そしてキョンの家まで辿り着いたあたしが見たのは……
何もない、ただの空き地だった……
あたしが絶望に打ちひしがれている時、
ピリリリリ…
携帯が鳴る。出たくない。しかし手が勝手に開く。
メールだった。そしてそれが、あたしをこれ以上ないほどにあたしを、絶望の闇のどん底に突き落とした……
本文
『YUKI.N>この世界は、あなたが望んだ世界に手を加えたもの。あなたを受け入れてくれる『彼』は存在しない。また、本来非日常的存在だった者はただの人間である。そして、かつてあなたが所持していた能力はすべて消失した。
どれだけ望もうと、あなたはごく普通の人間。世界をどうこうすることは不可能。私は私の世界で幸せに暮らす。あなたはあなたのその世界で、お幸せに。サヨウナラ』
「あは、はは…………」
「あはははははははははははははははははははははははははははは……」
これだけは言っておきます。
俺は仲良しSOS団が大好きだ!
ふう……
.