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中&長編まとめ

ここは長めのSS置き場
 
 
長めSS
 
【2人の世界】
 
※黒長門・ヤンデレハルヒ注意
 
ちょっと展開がドロドロとした長門×キョンSS。ハルヒ好きは見ない方が吉。
 

 
5:アナザー※5のif、BADEND注意
 
 
 
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中編【2人の世界・終】

本当に何故書き始めたか今では思い出せないSS(オイ!)
 
確か……何だっけ……?(ここにアホがおる)
 
 
【2人の世界・終】
 
その後のことを、少しだけ語ろうか。
 
 
あれからしばらく経ったある日、俺はひどく退屈な6時間授業を終え、絶え間なく発生する欠伸に悩まされつつも、もはやボールペンで引かれた線の上を踏み外すことなく歩くシロアリのごとく(本当らしい)当たり前のように部室に向かっていた。
 
 
プレートに書かれている『文芸部』の文字に、何とも言い難い切なさを感じながら扉を開く。ノックはどうしたかだって?もうする必要がなくなっちまったのさ。
 
部屋の中には、以前と変わらず―本当に変わりなく―窓辺で読書に興じる俺の愛しい恋人―長門有希しかいない。
 
 
 
あれから、俺達を除いた2人は…なかなか顔を見せなくなっていた。
 
朝比奈さんは『あの日』以降も俺達にお茶を淹れたりしてくれたが、いつも泣きそうな顔だった。
 
―私、ここに来るとっ…涼宮、さんとのっ…こと、思い出しちゃって、……辛い、です…―
 
そう泣きながらこの部室を去った朝比奈さんを、俺は引き留めることが出来なかった。その後、たまにメールなどで話を聞くと、鶴屋さんがよく面倒をみてくれるらしく、不都合はそうないらしい。今では2人で買い物をしたり、受験勉強などで仲良くしてるそうだ。
 
……鶴屋さんには本当に感謝しなきゃな……
 
 
 
古泉も、初めは以前同様俺とボードゲームをしに来ていたが、ある日「ここではお2人の邪魔になるようですね」と言ったかと思うと、部室を後にした。
 
まああまり認めるのもハズいが、俺もあいつに友人としてそれなりに好意はあった。ごくたまに休みの日には気兼ねない付き合いもやっている。
 
 
 
そして俺は、SOS団員その1としてではなく……長門率いる文芸部員としてこの部屋に入り浸っている。といっても、やることはあまり変わらない。長門オススメの本を読んだり、一緒にボードゲームで対戦したり…交代でお茶を淹れたりとかな。まあ、それらと合わせて必ずやることもあるんだがな。
 
 
 
俺が感慨に耽っていると、ふと目の前に長門がいた。その瞳には何かへの期待。わかってるって。
 
 
俺は長門をしっかりと抱きしめる。壊れ物を扱うかのように優しく…それでいて強く。長門も俺にしっかりと腕を回す。谷口あたりがこれを見たら発狂するだろうな。
 
 
長門が俺を見上げる。何か言いたそうだ。戸惑ってるように見えなくもないが…言いたいことがあるなら言った方がいいぞ?
 
「(コク)……有希」
 
「…ああ、そうだったな。すまん」
 
俺達は恋人同士ではあるが、俺は未だに以前のクセか、有希のことを『長門』と呼んでしまうことがある。それは有希にとっては一大事らしい。
 
「……有希」
 
俺がそう返すと、満足げに口の端をほんの0.数ミリだけ上げ、小さい笑みを浮かべる。ああ…不器用なやつだ…そんなところも含め、全部愛しいがな。
 
 
 
「有希」
 
「なに?」
 
「SOS団は……なくなっちまったな…」
 
「そう……」
 
「…俺は時々さ…寂しくなることがあるんだが…お前は…?」
 
「………少しだけ…でも、大丈夫…」
 
「どうしてだ?」
 
「あなたがいるから」
 
「……ああ、俺もだ……」
 
俺は一層強くこの愛しい恋人を抱きしめる。有希の不思議な暖かさはかなりクセになっちまったようだ……
 
 
 
「……お願いがある」
 
抱きしめあった状態のまま、有希が俺に何かを頼んでくる。何だ?俺に出来ることは何でもやるぞ?
 
「……私は、情報統合思念体によって創られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース」
 
……ああ。
 
「けれど、この能力はもう必要ない」
 
そうだな。
 
「でも、破棄はしない。もしあなたに危機が迫るとしたら、何をしてでも守りたいから」
 
おいおい、俺にあんま気を遣うなって。こっちが情けねえぞ…
 
「そう。だから、破棄ではなく封印をする。願わくば、2度と使用せずにすむように」
 
ま、それならいいか。
 
「ただ……私が能力を封印すると……」
 

 
「今までのように、あなたの力になれなくなるかもしれない」
 
…………
 
「それどころか、あなたに迷惑をかけるかもしれない」
 
そのまま続ける。
 
「今の私にとってはあなたがすべて。あなたがいなければ、生きていられるかもわからない」
 
「………だから……」
 
……言ってみろよ。
 
有希はいったん腕をほどき、俺の腕を掴むと上目遣いで、
 
「……将来、何があっても…どんなことがあっても……私を見捨てないでほしい。私の傍にいてほしい……」
 
 
俺はしゃがんで有希と目線を合わせ、片方の手で有希を撫でてやる。そして本心を伝える。
 
 
「……それはな、俺が有希に1番してやりたかったことだ。いっつも守られて助けられてばかりの俺の、ささやかな願いだったんだ」
 
「……俺の方こそ、有希にこれからも色々面倒かけちまうだろうよ。それでも、一緒にいてくれるか……?」
 
「もちろん」
 
0コンマ数秒のタイムラグもなく有希は答える。ありがとうな……有希…
 
 
 
そして俺達は再び抱き合う。その時、有希の声が聞こえた気がした。ハッキリとはわからなかったが。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……これで、願いが叶った…邪魔者のいない、私達2人の……世界……」
 
.

中編【2人の世界・6】

ここ数日のスケジュールがただ恐怖。
 
あれ?おかしい…長門がハルヒを情報操作する時、確か消失の時みたいな銃で撃ち抜くって案があったはず……まぁいいか。
 
 
【2人の世界・6】
 
「う……ん?……つつ…」
 
体の節々が微妙に響くような痛みを訴える中、目を覚ます。俺は床の上に仰向けで倒れていた。
 
部屋を見渡して、すぐに気が付く。見慣れた文芸部室だった。靴も履いていないし、俺の他に誰もいないのと、窓の外が閉鎖空間とは違う漆黒の闇であること以外は、俺が『向こう』へ行く…呼び込まれる前と何も変わりない。
 
 
数分ほどボーっとしていると、突如目の前の空間が揺らぐ。その歪みの中から、北高の女子の制服を着た誰かが現れた。
 
「……………」
 
半端なシャギーがかった藤色のショートカット、そして無表情がデフォの、長門有希だった。
 
 
「長門!」
 
「…………ただいま」
 
「へ…?」
 
第一声がそれか?なんて考えていると、俺の腑抜けた返答に0.数ミリ眉をひそめた長門は、
 
「待っていて、と言った」
 
不満げに言う。
 
「あ、ああそうだったか…すまん。……おかえり…」
 
「………そう」
 
機嫌は戻ったみたいだ。長門…
 
「なに」
 
「いや……向こうは…ハルヒは…どうなったんだ?」
 
俺の問いに長門は、やはりいつもの平坦な声で、
 
「……古泉一樹と朝比奈みくるの両名が、もうじき来る。……それから」
 
と淡々と答えるにとどまった。
 
 
 
 
15分ほどの沈黙の後、
 
「大丈夫ですか!?」
 
「キョン君!長門さん!」
 
非常に慌ただしい様子で超能力者と未来人が部室に飛び込んできた。
 
「あ……俺達は、多分無事です……ただ、ハルヒは……」
 
2人は俺達の様子を見て察したようで、古泉は「……そうですか…」という台詞にとどまり、朝比奈さんはその場にへたり込んでしまった。
 
 
「…長門、向こうがどうなったか、教えてくれるか…?」
 
「……わかった」
 
俺が重苦しい沈黙を破り長門に問いかけ、話を聞く。
 
 
 
 
 
 
長門の説明を端折って簡単にまとめると、
 
・記憶を改竄したことでハルヒは正気を取り戻した
・ただしそれは俺がいては不可能だった(俺を得ようという強い意志が情報操作を妨害するためだそうだ)
・向こうのハルヒは高校入学の日からやり直す
・『長門有希』という存在以外は、こちらの元の姿とあまり変わらず、未来人の朝比奈さんや超能力者の古泉もいる。
・情報統合思念体は長門の作った穴を通じて向こうへ行き、向こうの思念体と同期。その際、こっちのインターフェースは長門以外全員回収された。そのことへの情報操作は済んでいる
・ハルヒの鍵たる『俺』もいる
・この世界は長門がハルヒの力を使用して、崩壊を免れている
 
 
……こんな感じだ。……長門、度々すまない。お前がいなけりゃ、俺達は何も出来なかった。
 
「……いい。私もこの世界が好ましいと感じている。失いたくはなかった。あなたがいるから…」
 
っ!……そうか…ありがとよ。
 
小さく頷く長門。
 
 
「…僕からも、お礼を言わせてください。たとえ向こうに『僕』がいるとしても、僕は正直消えたくありませんでした。この世界を望んでくれたあなたと、長門さんには頭が上がりません…」
 
深々と頭を下げる古泉。気にするな。元凶は俺だし、正直お前達のことまで考えてはいられなかったよ。俺は俺が望んだ選択をしただけだ…
 
俺がそう告げると、苦笑する古泉。その笑みはどこか柔らかかった。
 
「あの、私からもお礼を言わせてください!……帰ってきてくれて、ありがとうございます!」
 
朝比奈さん……ただいま…
 
 
 
 
朝比奈さんがお茶を淹れてくれ(電気の使用がバレないよう長門が働いてくれている)、4人で落ち着いている時に、ふと思い出す。この3人の超常的能力(長門はまだ情報操作が使えるようだが)はどうなったんだろうか。
 
「朝比奈さん、TPDDはどうなりました?」
 
俺がそう問うと、朝比奈さんは少し困惑した様子で、
 
「それが……使えないみたいです。この世界の時空の歪みが直ったのを感じたのを最後に、何も出来なくなったんです…」
 
「大丈夫ですか、それ?」
 
「うん……多分『向こう』の私が私と同じ時間から来ていて、同時間同位体は同時存在できないせいだと思うの…」
 
「よくわかりませんが…時間移動も未来との通信も出来ないんですか?」
 
「そう、ですね……」
 
弱々しく朝比奈さんは答える。それはすなわち、この朝比奈さんはもう未来へ帰ることも、支援を受けることも出来ないということだ。向こうの世界の未来人の迎えも考えられない。
 
……朝比奈さんは、この世界のこの時代に、取り残されてしまったんだ…
 
「……すみません。俺、そこまでは考えて……」
 
俺は朝比奈さんに全身全霊誠意を込めて頭を下げる。
 
「あ、キョ、キョン君は悪くありません!だから、謝らないでください!」
 
朝比奈さんが俺を庇ってくれても、俺は頭を上げられなかった。そんな俺に助け舟を出したのは、古泉だった。
 
「大丈夫ですよ、うちの機関では人1人のサポートくらい簡単ですから。朝比奈さんでしたら喜んで力になりますよ」
 
「……すまん」
 
「いえいえ、僕達も力を失いましたし、これくらいの事後処理、世界の崩壊を乗り越えることに比べればお安いご用です」
 
「あっ……じゃ、じゃあお願いしても、いいですか…?」
 
「ええ、勿論です」
 
 
こうして、古泉と機関のおかげで、朝比奈さんの問題は片付いた。
 
「……長門は、まだインターフェースのままなのか?」
 
俺がそう問いかけると、長門は読んでいたハードカバーから顔を上げ小さく頷く。
 
「私という存在を改変してごく普通の有機生命体にするのは、出来なくはないが、やるとしてもまだ時期尚早」
 
「何でだ?」
 
尋ねた俺に、長門は驚愕の返答を寄越した。
 
 
 
 
 
「この世界における、涼宮ハルヒの痕跡を抹消するための情報操作が必要」
 
「………え……?」
 
俺も、古泉や朝比奈さんも、驚きで固まった。
 
「涼宮ハルヒがいなくなったことで、彼女を取り囲んでいた環境に混乱が生じる」
 
いち早く硬直を脱した古泉が、補足する。
 
「……そうですね。ただの行方不明とは違います。涼宮さんはこの世界から完全に姿を消している、発見されることはありえない。下手をすれば拉致などの国際問題に発展しかねません」
 
「それに……彼女は良くも悪くも大きな存在感を放っていました。そんな彼女が消えれば、多くの者が混乱します」
 
「っ!!それはわかる!でも、『いなかった』ことになんて……」
 
そうだ…それじゃ向こうのハルヒ…長門を『いなかった』ことにしようとしたハルヒと、同レベルじゃないか…
 
 
うなだれる俺に、古泉が話しかけてくる。
 
「我々が覚えています。それにあなたは……涼宮さんが消えたことについて、マスコミや雑誌が根も葉もないデマを回して涼宮さんがいわれのない風評の被害を受けたり、『向こう』で新たにやり直して生きている涼宮さんが、『こっち』で死んだことにされたりするのに耐えられますか……?」
 
う……っ!
 
「我々が知る真実は…誰も理解できないんです…」
 
そう言う古泉の顔も、朝比奈さんも……辛そうだった……
 
 
 
 
俺も、古泉も朝比奈さんも、その後一言も発せず……俺達SOS団員と機関の構成員などのごく限られた者以外への長門の情報操作を……ただ、見ていることしか出来なかった………
 
 
.

【2人の世界・5:アナザー】※バッドエンド

【2人の世界・5】にてハルヒに慈悲(かあれ?)を与えた長門ですが、当初はこんな感じにするつもりでした。
 
蔵人様より『見てみたい』とのコメント預かりましたので、トゥルーエンドより先に書くことに。感謝!
 
……携帯からなんでコピペが使えないorz
 
※話の本筋とは関係ないつもりのSS。ハルヒ好き様注意?黒長門も。
 
【2人の世界・5:アナザー】
 
彼を彼が本来あるべき時空へと転送する。彼はこのような世界にいるべきではない。そもそも私が認めはしないし、何より彼がこの世界を否定したのだから。
 
「キョ、ン……!?どこに、行っちゃったの……!?」
 
涼宮ハルヒが狼狽する。それもそうだろう、自分が最も欲した存在が消えたのだから。当然だ、彼とこの女では不釣り合いにも程がある。
 
「彼はこの世界にはいない。彼のあるべき世界へと帰還した」
 
事実を告げる。するとこの女は「……そう…あは…あはははははは」と狂った笑い声をあげると、
 
「……消えろぉぉ!!!」
 
またもその力で私を消去しようとする。無駄。何度やろうと私には通用しない。今のこの女には学習能力さえないようだ。
 
「………?」
 
情報統合思念体から通達。どうやら思念体は、この女が生み出す新しい世界を拠点に、またこの女を観測することにしたようだ。
 
非常に不愉快。何故これほどまでに自律進化にこだわるのか。いや、それは構わない。有機生命体だろうと情報生命体だろうと、生きている以上は何かしら向上を望むもの。しかし、このような壊れた女に希望を繋ぐなど、そこまで落ちぶれたくはない。
 
思念体からの指令は、この女の望む世界を作り出し、以前とほぼ同様の環境で観察を続行可能にすること。
 
 
 
……ふざけるな。この女が望むのは『彼』の存在する世界だ。彼をこのような忌々しい世界に再び連れてこいというのか。
 
……?情報の伝達にズレ。彼女のここ数時間における記憶を抹消し、新たに生まれるこの世界の情報をこの女が望む形に近付くよう尽力せよ、とのこと。
 
 
 
……もう一度言う。ふざけるな。何故私がこの女のために力を貸さなければならないのか。指令を拒否。
 
再び消去してやろうとも考えたが、それをすると私も今は困る。
 
この女の唯一価値があるとも言える―いや、彼は望ましくないモノと言っている…やはり価値はない―力を用い、一時的に思念体を黙らせる。産みの親よ、この女の力を解析したデータを後で報告しておくから、今は私に自由を。
 
 
「あは…はは……キョン…あんたは、あたしのモノ…」
 
まだ戯れ言を…この女にはあらゆる意味で制裁を加えなければ気が済まない。
 
「私は彼に尋ねた。この世界と元の世界のどちらを選ぶのかと。そして彼は、彼自身の意志で元の世界への回帰を望んだ。あなたは選ばれなかった」
 
「なんでよっ……!あたしの何がいけないのよ!あたしといれば、退屈な日常から抜け出せた、飛びっきりの人生を歩めたのに!どうしてっ!!楽しかったでしょう!?」
 
叫ぶ涼宮ハルヒ。彼もこの女を諦めた、慈悲を与える必要はない。
 
「人間には、過ぎ去った過去を美化する力がある。彼が『楽しい』という感情を覚えたのはすべて、経験してから長い期間を経た後」
 
「……なんで、す…って…?」
 
「あなたが彼を巻き込んだ行動を起こした時、彼は喜んでいた?」
 
この女にこれから伝えるのはすべて事実。
 
「…あ……?」
 
「例えば、不思議探索。遅刻してなくとも全員分の食事代を罰金と称して強要された時、彼は快諾した?」
 
「…あ…あぁ……」
 
「彼は、あなたがコンピューター研究部からパソコンを入手した手段を良しとした?」
 
「あ……ぃや…!」
 
「映画の撮影で、朝比奈みくるをあなたが玩具扱いした時、彼は賛同した?」
 
涼宮ハルヒの情報創造能力を徐々に奪う。
 
「うあぁぁ……!!」
 
「彼が喜んでいたのは、一般的な高校生が決して送ることはない非日常を体験したという『事実』のみ。『体験』そのものを彼が楽しんだことは、あなたにとっての数%にも満たない」
 
「いやあぁぁぁぁ!!」
 
まだまだ。
 
「あなたは先程、私を殺害しようと常識的に有り得ない力を用いた。その力はあなたの知らないところで、彼を苦しめた」
 
私も関わった多くの事件を思い出す。
 
「う、嘘…!!」
 
「世界を滅ぼされたくないからと、あなたのために接吻をせざるを得ない状況に立たされた」
 
「な………?」
 
「夏休み。あなたが満足してないという理由で、終わりの二週間が15498回も繰り返された。そのループの中で、ループに気付いた彼の中には、自らが消えゆくことに絶望し、心を病んだ彼もいた」
 
「うぅ、ううう……」
 
「私にも責任がある事件で、彼は2度も命を落としかけた」
 
「う……うぅ…キョン……」
 
「もう一度言う。あなたは彼自身に選ばれなかった」
 
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 
嗚咽を漏らして涼宮ハルヒが崩れ落ち、気を失う。
 
既に彼女の能力は失われ、私の中にある。私に、彼に多くの負担をかけたこの女に、悪夢を見せる。威力を増幅させた情報操作を、新たに生まれるこの世界の者に行う。
 
所詮涼宮ハルヒの妄想の中の登場人物。たとえ『彼』であろうと容赦はしない。この世界の者はすべて私には関係ないから。
 
 
 
 
情報操作完了。
 
思念体にデータを送付し、私の意思に反する干渉をしてこないよう思念体の一部を改変する。
 
 
「サヨナラ」
 
最後に彼女の力を用いて、私の彼がいる世界へと帰還する。
 
元の世界に思念体が干渉することもない、自由になった私は、彼との人生を歩ませてもらう。
 
 
せいぜい、お幸せに。
 
 
 
 
 
 
ハルヒサイド
 
 
 
 
 
「う…ここは、どこ……?」
 
酷い頭痛の最中、目を覚ます。
 
「お目覚めですか?」
 
古泉、君…?
 
「よ、よかったです〜…朝登校したら、涼宮さんが倒れてて……ぐすっ…」
 
みくるちゃん、も…?
 
「何があったんですか?」
 
えーと、何だろ…?頭の痛みを必死に堪えて記憶の糸を辿る。
 
「………あ…!!」
 
ヒットしたのは、あたしのキョンを奪ったあの忌々しい造り物宇宙人……!!
 
「有希!!有希はどこ!?」
 
あの女は絶対許さない!一刻も早くこの世界から消し去ってやる!!
 
「すす涼宮さん、落ち着いてください!」
 
黙って!
 
「ひっ!?」
 
いいから!あの女はどこ!?
 
「涼宮さん、落ち着いてください!それに、『ゆき』さんとは……一体どなたです?」
 
「……え?」
 
「僕の知る限りでは、涼宮さんが『ゆき』と呼ぶ方は存じ上げませんが…」
 
古泉君の目は、嘘をついていない。みくるちゃんも同じだ。
 
「……本当に、知らないの?」
 
あたしが念を押しても、知らないの一点張り。
 
「くっ……くくくく……」
 
笑いがこみ上げてくる。
 
「ど、どうしました?」
 
何でもないわ、古泉君。2人ともありがとね。もういいわよ。
 
 
訝しげな表情で保健室を後にする2人。
 
 
 
あたしは勝ったんだ!あの忌々しい人形のいない世界を創り上げたんだ!
 
 
ここはあたしの望んだ世界。邪魔者はいない!
 
あたしはこれからのキョンとの人生を想像し、嬉々として教室へ向かう。ホームルームはまだだが、キョンは来ている時間のはずだ。
 
扉を思いっきり開け放ち、愛しい人の名を叫ぶ。
 
「おはよーキョン!!」
 
しかし、返ってきたのは見慣れたアイツの顔ではなく、
 
『………………』
 
クラスメイト達の、非常に冷たい視線だった。
 
 
「あら、キョンは休み?えーと…国木田?キョン知らない?」
 
そう尋ねるあたしに、国木田はとんでもない答えを返してきた……
 
 
 
 
「キョンって、あの動物のことかい?そんなの、こんなとこにいるわけないじゃないか」
 
何をふざけたことを……そう言おうとして、クラスメイト達の冷たい視線を再び感じる。
 
こいつら……キョンを知らない……?
 
 
 
そう思った時、あたしの足は全力であたしを運んでいた……
 
教師の止める声など聞こえない…一目散に学校を出る。
 
目指すは、キョンの家。
 
 
キョンがいないなんてありえない、ここはあたしが望んだ世界!そう考えながら足を一瞬たりとも休めることなく、走り続ける。
 
 
そしてキョンの家まで辿り着いたあたしが見たのは……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
何もない、ただの空き地だった……
 
あたしが絶望に打ちひしがれている時、
 
ピリリリリ…
 
携帯が鳴る。出たくない。しかし手が勝手に開く。
 
 
メールだった。そしてそれが、あたしをこれ以上ないほどにあたしを、絶望の闇のどん底に突き落とした……
 
 
 
 
 
 
 
 
本文
『YUKI.N>この世界は、あなたが望んだ世界に手を加えたもの。あなたを受け入れてくれる『彼』は存在しない。また、本来非日常的存在だった者はただの人間である。そして、かつてあなたが所持していた能力はすべて消失した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どれだけ望もうと、あなたはごく普通の人間。世界をどうこうすることは不可能。私は私の世界で幸せに暮らす。あなたはあなたのその世界で、お幸せに。サヨウナラ』
 
 
 
「あは、はは…………」 
 
 
 
 
 
「あはははははははははははははははははははははははははははは……」
 


 
これだけは言っておきます。
 
俺は仲良しSOS団が大好きだ!
 
ふう……
 
.

中編【2人の世界・5】

ここまで長くなるつもりはなかった…orz中編ながか長編ながか区別が……
 
黒長門サイド
 
……今更やけんど、何でこんな暗いSS書いたがやろ……?ちなみにこの回のオチはもっと酷くする予定だったり(コラ)
 
【2人の世界・5】
 
現時空からの、彼の本来の時空への回帰を確認、それと並行して情報統合思念体の現時空への移行。
 
前方を見る。観測対象の涼宮ハルヒが崩れ落ち、両腕を支えとして俯いている。
 
「あは、は……ユキ……あんた、あたしのキョンをどこにやったのよ……!」
 
俯いたまま、私に対する明確な攻撃性を含む言葉を呟く。
 
「彼が元いた世界。彼はこの場で、あなたの作り変えるこの世界ではなく、あなたが否定した彼の世界へと帰還することを望んだ」
 
元々、今眼前にいる女を観察するためだけに創られた私。だが私は、彼により『私』たる自我を得た。その私は彼の望みを叶えることを最優先にしている。
 
たとえ情報統合思念体が涼宮ハルヒの鍵たる彼を彼女の側に置くことを望んでも、彼が帰りたいと望むのならば、私はそれを叶えるのみ。
 
「そう……待っててね、キョン……今、そっちに行ってあげるから……」
 
非常に緩慢な動作で立ち上がる涼宮ハルヒ。
 
「無駄。今のあなたには不可能」
 
「なんですって……!?」
 
この期に及んで……まだこの女は彼を諦めないというのか……
 
この女の持つ、数時間前よりも大きく膨れ上がった能力を奪い尽くし、情報連結を解除しようと思っていた。この女には能力しか価値はないし、どこまでも彼には迷惑しかかけることがないのだ。人間には過去の記憶を美化する能力があり、彼は彼の持ち前の優しさを以て、今まで過ごしてきた時間を『楽しい』とみなし、涼宮ハルヒに慈悲を与えていた。
 
かつて、今の私でも逸脱しすぎたと思えるほどに狂った『私』でさえ、非常にシビアだとはいえ彼に選択権を残した。
 
だがこの女はどうだ?彼に多くを与えてもらいながら彼自身の意志を尊重することもなく、自分の望み通りにならなければ全てを無かったことにして、彼に選択権も与えないまま、彼が言うところの『反則』な力を用いて己のみが望む世界へ彼を引きずり込む。
 
私はそれが最も許せない。彼に尽くそうともせずに彼を我が物にしようとするこの女。与えられたのなら同等の価値を以て返すべき。むしろ彼のためならどんなことでもする覚悟がなければ不釣り合いだ。
 
「あなたは彼のいる世界へ行くことは出来ない」
 
事実。先程の戦闘の際、私はこの女の力を少しずつ奪っていた。現在、扱える力の絶対量は私の方が上であり、それを用いて『彼のいる世界』へのこの女のいかなる干渉も受け付けないようにした。『私』の世界を、このような壊れた女に壊されてたまるものか。
 
「あなたはこの世界でしか生きていくことは出来ない」
 
「……そう、なの……あはっ、あはははははははははははははは……」
 
再び崩れ落ち、狂った笑みのみを残す涼宮ハルヒ。
 
私にはこれ以上この女にしてやることは何もない。このまま見捨ててこの世界ごとこの女が消滅しようと何ら問題はない。
 
しかし彼の、この女への最後の慈悲。それを叶える義務が私にはある。たとえ私にとって不本意でも、彼が望んだのだから。
 
「あはははははははははははははははははは……」
 
放っておけば恐らく生命活動を停止させるまで笑い続けるであろう涼宮ハルヒに近付き、彼女の頭をホールドする。
 
「―――〜―――〜〜〜―〜〜――――――〜〜―」
 
もう一度力を僅かに奪い、それと情報統合思念体の総力を以て彼女の記憶とこの世界の時間軸を改変する。最後の手土産だと思えばいいだろう。
 
 
涼宮ハルヒが眼前から消失、彼女により作り変えられたこの世界においての一年数ヶ月前の時間軸まで時間を巻き戻し、この時間軸の彼女がいるべき場所への、彼女の移行を確認。
 
この世界には……やはり彼女が望んだ通り『私』は存在しないようだ。情報統合思念体も、涼宮ハルヒの深層心理に刻まれた私へのネガティブな感情に危機を覚えている。別に構わない。私は私の望む世界で生きる。受理された。
 
 
この世界のことは情報統合思念体に後を任せる。この世界における、元の世界での私の立ち位置に相当するインターフェースに心中で激励を送る。
 
 
それを最後に、私は『彼』がいる私が生まれた世界へと帰還した。
 
 
 
 
 
 
ハルヒサイド
 
 
うーん……もう朝……?何か気持ち悪いわねえー……うわ、髪の毛が汗でグシャグシャだわ……やっぱり切ろうかしら……ダメ、まだ宇宙人との交信が出来てない……宇宙人?何か寒気がするわね…何でかしら…
 
普段と違い、気分の悪い目覚めだわ……
 
それにしても、変な…嫌な夢だったわね……好きな人ができてとても楽しい高校生活を送っていたのに、そいつはいつのまにか別の女に盗られちゃって……途中まではいい夢だったのに、最後の最後に悪夢になるなんて……
 
 
あたしは誰を好きになっちゃったんだろうか……いや待て、高校生活はこれから始まるんじゃないの、夢なんかに振り回されてたまるもんですか!
 
 
新しい制服に着替え、さっさと朝ご飯を食べて家を出る。
 
なんであんなワケのわかんない場所に建てたのか甚だ疑問が残る新しい学び舎を目指す。あたしを受け入れてくれた、ジョンの手掛かりを求めて……
 
……ジョンじゃないけど、もし夢みたいにあたしを受け入れてくれるようなヤツがいたら、そんなヤツを好きになったら……少しは素直にならなきゃね。夢なんかに惑わされるつもりはないけど、万が一ってのもあるし、あんなに苦しむのは絶対イヤだもの。
 
 
 
 
いよいよクラスの自己紹介。あたしの番になる。ジョンへの手掛かりを目指す第一歩、前々から考えていた自己PRを口にする。
 
 
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところへ来なさい。以上」
 
 
.
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