これは私が小学生のときの話です。 当時は所謂「学校の階段」がブームになった時期で「七不思議」といった怖い話が非常に盛んな時期でした。 子どもだった私達は、「自分達の学校に七不思議がないのはつまらなから、七不思議を作ろう」と考え 仲の良い友達6人で、休み時間になると校内探検にでかけ、立て付けの悪いドアを見つけてはいじめて死んだ男の子。 奇妙な染みがあれば幽霊、行き詰ると「深夜の2時に?」といった方法で次々とデッチ上げの七不思議を作っていきました。 そんな中で自分たちの傑作が、放課後に体育館から聞こえてくる「トントン トントン」という金槌で何かを叩くような音でした。 これを私達は「体育館の建設中に死んだ作業員」として「実際に確かめられる七不思議」としてスパイスし たったひとつの真実だけであたかも他の全ても正しいというような錯覚に陥らせることができました。

私の作った七不思議の噂は2週間程で学校の大部分に広まりました。 しかし、ある日先生が朝のホームルームで、こんな警告をしました。 「この学校に七不思議なんてものはありません。誰かが作った性質の悪い悪戯です。 最近七不思議を確かめようと遅くまで残る生徒も出ているようですが、決してそんなことはしないように。 見つけた生徒は厳しく注意します」 しかし私達はそこであることに気がつきました。 私達が実際に確かめることができるような噂は、真っ赤な夕焼けの日に階段を落ちる生首と 例の体育館の話。この二つしかなかったのです。 どちらも他愛のない話でしたし、別に危険な場所でもありません。 今考えてみれば放課後に遅くまで残ることを危惧しただけと考えたのでしょうが、私達はそれを 「きっとどちらかがほんとうのことで、それがばれてしまってはまずいからだ」 と思い込み、むしろ確かめてやろうと思いました。

 


まず私達も実際に聞いている、体育館を調べようと決めました。 音はいつも聞こえるわけでなく、週に1度か2度、全く聞こえないときもままありました。 そこで私達は放課後サッカーやバスケットに興じながら、密かに耳を澄ませその機会を伺いました。 それは以外にも早く、調査開始から4日目。 「トントン トントン」とあの音が聞こえてきます。 私達は興奮しながらも、一度校門から外に出て、裏のフェンスの間からまた学校に忍び込み、体育館に向かいました。 幸いにも鍵はかかっておらず、重い扉を横に押しやり、まんまと中に侵入することができました。 「トントン トントン」 果たしてこの音はどこから聞こえてくるのか? 用具入れ、トイレ、それとない場所を探しますが、どこもはずれです。 「ステージとか、その裏じゃねーの?」 祐介がそう提案します。 「えー、それはまずくないか?」 ステージに一般の生徒が上がることは普段めったになく 先生に見つかったら激しく怒られると思いました。 「俺、放送委員だからよくあそこにいくよ。大丈夫大丈夫、もし見つかったら鉛筆落としたから探しにきた。って言えばいいんだよ」 結局彼に押された形で、私達はステージへと足を運びました。 心なしか、音が近くなっているように感じます。 「ほら、やっぱり。こっちでいいんだよ」 得意げになる彼を見て、少々イラつきながらカテーンの裏や放送室の辺りを探ります。 しかし、なかなか見つかりません。 そんなときでした、1人が上を見つめながら呆然としているのです。 「おい、上になんかあるの・・・・!?」 私達は一斉に上を見つめ、そして戦慄しました。 ステージの上には、2階から更に上に、2.5階とも言えるスペースになっています。 そこには体育祭や卒業式などで使う用具など、今では殆ど使わない類のものが置かれています。 そこは丁度いたを張り合わせたような床で、その感覚が広く間に隙間があるため、下から覗くこともできますし 逆にあちらから下を覗くとかなり怖い思いをしました。

 


その場所で、何かがいたのです。 人でした。それは間違いありません。白い布を被った誰か。 それは私達をみていました。 人のような、人ではないようなそんな何か。 それが私達をじっと見つめ、そして動き出しました。そう、奥ではなく手前に。 そちらには降りるための階段が・・・ 「逃げろ!」 誰かが叫びます。 私達は蜘蛛の子を散らすように「わー」 と叫びながら、一目散に出口へと走りました。 「追ってきてるよ!!」 後ろから純一の声がしました。 「急げ!」

靴も履かずに、渡り廊下を駆け抜け校舎に入ると私達はすぐさま職員室に駆け込みました。 驚いたのは先生達で、6年生の問題児達がドアを壊しそうな勢いでなだれ込んできて 「体育館に幽霊がいた!」だの「やばいよ、先生やばいよ」などと要領を得ない言葉で騒ぐのですからたまったものではありません。 男の先生達が変質者か何かが紛れ込んだのかと職員室を出てゆき私達は、女の先生達に慰められながら、先生達が帰ってくるのを待っていました。