「すげぇな。あと8時間ってことは着くのは……」
「明け方だな。」
すでに今の時刻は午後10時。
港町シッタに着いたのは夕方であったが、買い物や入船でのごたごたで乗れたのは9時発であったのだ。
テルとショウが部屋の整理をする間にマユとアヤは部屋に備え付けられていた風呂に入っていた。
「お風呂なんて久しぶり。」
アヤはそう言いながら湯船につかって幸せを感じていた。
「旅をするなんて思ってもいませんでした。」
マユも一緒に入りながらそう呟く。
「私も思わなかったな。ほんの数日前までは……」
6日前はまだエミスフェロ都市でなんら変わりない日々を過ごしていたなんて思えない。
アヤはそんな事を思い浮かべながら天井を眺めていた。
「アヤさんも魔道師の素質があるんですね。」
マユがそう言って微笑む。
「それは昨日まで知らなかったけどね。」
アヤは苦笑いしながら答えた。
「アヤさんやショウさん、テル様に出会えてよかったです。」
マユはそう言って満面の笑みを浮かべる。
「ねぇ、マユってさぁ……テルの事好きなの?」
アヤは顔を赤らめ、湯船に少し潜りながらマユに聞く。
マユは一瞬驚いた表情を見せた後、意味を理解してマユは微笑む。
「テル様は将来の夫となるお方と思っていました。けれどテル様はその気ではないようですね。ですから私はイマイチ分かりません。」
マユは笑顔で答えていく。
「そういう感情はもう封印しちゃいましたから……」
アヤはマユの笑顔の奥にある悲しさや寂しさを理解する。
権力によって決められた結婚。
そこにマユの感情は存在せず、ただ未来の王女としての義務があるだけであった。
それが白紙になった今、マユ自身も自分の気持ちが分からないのであろう。
テルに対する好意や敬意はその建前から現れるものなのか、自分の本当の感情なのか、マユにはそれが分からない。
「なんか、ごめんね……」
アヤは自分がこの質問をしてしまったことを後悔して謝る。
「いえ……アヤさんはテル様がお好きなのですね。」
マユが笑顔でそう言うのでアヤは顔が紅潮し固まる。
「えっ!!!」
アヤの叫び声が部屋に響き、テルとショウが何だ?といった表情をして風呂のあるほうを見ていた。