「マユのほうはラゴ村というところで有名になっていた。それを知ったファリスが息子の嫁候補という名目で連れて来たのだろうな。対して、アヤは周りの人に気づかれておらず、ファリスの耳にも入らなかったってことだ。」
リョウの説明にアヤはなんとなく納得し、頷いた。
「それで、今からレグノ王国に乗り込んでマユ姫を連れ出そうってわけか。」
「まぁそういう事だな……スチエナの方を荒らしたおかげで兵力が少し減っているだろうからな。」
リョウが苦笑いしながらショウの方を見るがショウは目も合わさず歩いていった。
そしてついに森を抜け、レグノ王国へ足を踏み入れる。
幸運にもそのときは夕方で、人の動きが少し激しくなり、テルたちは溶け込むことが可能であった。
「俺が一人で騒ぎを起こす。その間に、3人はマユを探して連れ出してほしい。」
リョウがそう言って気を引き締める。
「俺たちがマユを?」
テルの問いにリョウは頷いた。
「巻き込んで申し訳ないが、俺一人では限界がある。この方が可能性が高いからな……」
ショウはリョウの提案を黙って聞いていた。
「それにテル君、君は殺される可能性が低い。希望的な考えですまないが、君なら成功させられる可能性が高い。」
「……分かった。」
テルはリョウの説得に負けて、了承する。
「ありがとう、実行は夜だ。日が落ちてから始める。俺は堂々と正面から、お前らは前に抜け出したって言う西側の入口からだ。いいな。」
リョウの言葉にテルは頷く。
「俺はかまわないが、アヤまで巻きこむなよ。」
黙っていたショウが口を開く。
「すまない……」
「私もいいけど……そのマユって子も私と同じなんでしょ?」
アヤの問いにリョウは頷く。
「じゃあ、私も手伝う。それに私はテルやショウとはぐれたら行くとこないし。」
テルが悲しそうに見つめる横で、アヤは皆を気遣ってか笑って見せた。
「ありがとう、アヤ……ただ一つ、マユを助けた後、絶対にすぐにはラゴ村には向かうな。」
「なんで? マユの故郷なんじゃ?」
テルの質問にショウは首を横に振る。
「マユを取り戻しに来た王国軍に村ごと滅ぼされるのが目に見えてる。」
リョウは冷静にかつはっきりとそう告げた。
「この王国を抜けたら、東に向かえ、東のスピアギア海岸を通り、港町シッタに逃げるんだ。そこでどれでも船に乗り、王国領から逃れろ。」
「リョウは……?」
アヤが今まで二人には見せなかったような顔をしてリョウを見つめる。
「俺は……大丈夫だ。多分な」
リョウはそう呟き、黄昏に輝く王城を眺めた。
「だからこれを渡しておく。」
そう言ってリョウはアヤに1つの青いルートを手渡した。
「俺の居場所を教えてくれる。また会う時が来たらそれで落ち合おう。」
リョウがそう言うとアヤが途端にまた悲しい顔をする。
「また、行っちゃうの……?」
その言葉とショウの冷たい目線がリョウに突き刺さる。
「悪い、俺には俺の旅がある。そこまで巻き込むわけにはいかない。」
リョウはそう小さく呟き、一人町の中へ歩いていった。
残された3人も日が落ち、マユ誘拐まで町の中で時間を潰すべく、一番にぎわっている商店街へと歩いていった。