その事件が起こったのが夕刻時である午後5時半。

それから4時間以上が経過した夜に一人の少年が目を覚ます。

「いてててて……」

その少年が目を覚ました場所は先ほどリョウが乗っていたクルーザーの荷物を入れる部分であった。

そして、その少年こそが他ならぬこのとき11歳のショウ・平野翔(ひらのしょう)である。

翔はクルーザーが港に突っ込んだ瞬間に頭を打ち、意識を失っていたのである。

翔がクルーザーから町へ降りるとそこは静寂と化し、人一人見当たらない。

街灯は倒れ、家は崩れ、月明かりのみが頼りとなる。

「親父……どこいっちまったんだよ……」

翔は凄い形相で飛び出していった親父を追いかけ、こっそりクルーザーに乗り込んでいたのである。

「暗いし、こわ……」

そう呟きながら、壊れた町を歩いていく。

その脇には血の跡や、何者かによってしとめられたクイールが何体か転がっていた。

「うえっ……」

気持ち悪さを覚え、目を背け歩いていくショウ。

すると町の端には大量の何かが通ったのであろう、森の木々がなぎ倒されてできた一本の道があった。

宛てのないショウはそのまま吸い込まれるようにその道を歩いていく。

「怖……」

もはや両サイドは暗闇の森である。

ショウはただひたすら、なぎ倒され出来た道を頼りに前へ進んだ。

そして、大きな穴へと到達する。

しかしショウは暗闇のせいで穴があることに気がつかず落下した。

こうして、ショウもソグノの世界へ踏み込んだわけである。



一方、リョウにつれられて来たアヤはある部屋で目を覚ます。

「……?……?」

アヤはイマイチ状況が掴めず目を右往左往させていた。

「起きたか?」

そう言って椅子に座りながら微笑むリョウ。

「おじさん……誰?」

「俺はリョウ。お嬢ちゃん名前は分かる?」

「アヤだよ?」

「そっか、アヤちゃんか……」

「ここはどこ?」

「俺の家……だよ。」

アヤの反応に違和感を覚えるリョウ。

「そっかぁ。」

アヤが一言も両親について話さないからだ。

その割には悲しい顔も寂しい顔もせず、ただ寝ぼけたように微笑んでいるだけであった。

この時、アヤは残酷すぎるショックから記憶の殆どを欠落していたのだろう。

唯一覚えているのが自分の名前だけであったのだ。