船は大きな汽笛を鳴らし、港を出港する。
壁にしか見えなかったファントムドームの全貌が見え始め、最終的には小さなドームと化していく。
「これって俺の夢だよな……?」
あまりにも鮮明な光景にテルは呟き、自分の頬をつねる。
「イタッ! 夢……じゃない?」
テルは目を見開き、ゆっくりと海のほうを見つめた。
「もうここはテル様の夢ではありません…」
仮面の男はゆっくりと仮面を外した。
仮面の男は白い髭を生やした初老の男であった。
「俺の夢じゃない?」
テルがそう呟くと老人は頷く。
「私はロウ…あなたの父であるテラス様の命令でテル様を迎えに参りました。」
「父さん? 俺の父親は原因不明の病気で……」
テルは寂しそうにそう呟く。
「それに、父親の名前は、英[ひで]だ。」
テルがそう言うとロウは首を横に振る。
「テラス様は死んでおりません。テラス様に息子がいたことは私も驚きましたが……テル様はテラス様にそっくりなので親子であることは間違いないでしょう。おそらくテル様の言う父親とは育ての親の事なのでしょう。」
テルは理解不能な事実を告げられ、何も言葉が出ないままロウのことを見つめる。
「テラス様がおっしゃるには、テル様をあえて完全に離れた場所で生活させることで良い価値観を身につけて欲しかったと。」
「ま、待てよ……意味がわからねえ。何だこの夢は……気分が悪い。」
テルはそう言って拳を強く握り締める。
「もう、ここはテル様の夢の中ではありませんよ。」
ロウはそう言ってにっこりと微笑む。
「ん? もう? もう俺の夢じゃないってどういうことだよ?」
「先ほどのファントムドームの中がテル様がいた世界の人の夢の世界です。」
そう言ってもう小さくしか見えないファントムドームを指差すロウ。
「そのファントムドームを出てしまうと、そちらの世界『ヴェリタ』では原因不明の病気で死んだこととなります。」
「は? ちょっと待てよ!」
テルが慌ててロウに詰め寄る。
「出たら原因不明の病気になるだと?」
「ええ、そうです。」
「ふざけんな! 俺も出たじゃねえか!」
「ええ、そのつもりで連れてきましたから。」
ロウは平然とそう答えた。
「俺は死にたくねえよ!!」
テルがそう叫ぶと突然、世界がぐるぐると回りだし、テルは何かに吸い込まれるような感覚に襲われる。
テルはその感覚の中でもがこうとするも何もできずに吸い込まれていった。
一度黒い闇に包まれた後、白い光が舞い込んできた。
「はぁはぁはぁ……夢・・・・・・か?」
照が気がつくとそこは保健室のベッドであった。