「彩?」
一人の女性が玄関からそう叫ぶ。
「なに?」
この時、6歳であった夜尾彩(やおあや)が奥からとことこと歩いてくる。
「ダイくんとヒロくんがいないみたいだけど知らない?」
その女性はしゃがみ、彩と目線を合わせるようにしてそう聞く。
「知らないよ?」
「そっか……どこか行くとか話してなかった?」
「んー、なんか森の探検をするんだとかちょっと前に言ってたような。」
彩がそう言った途端、女性の顔が曇る。
そして立ち上がると外にいたもう一人の女性となにやら深刻そうな顔をしながら何かを話していた。
それを聞いた女性はすぐに家を後にした。
「ねぇ、お母さん? どうかしたの?」
彩がそう聞くと先ほど彩に話しかけた女性が彩を抱きしめる。
「ダイくんとヒロくんがなかなか帰ってこないのよ。」
「門限破って悪いね。ちゃんと5時には帰らないといけないのにね。」
彩がそう呟く横で、母親は少し悲しそうな顔をしながらも彩を心配させまいとうんうんと頷いていた。
しかし、事件はそれだけでは終わりにならなかった。
先ほど出て行った女性がすぐさま戻ってきて必死の形相で二人を見つめるのだ。
「ど、どうしたの?」
尋常じゃない慌てっぷりに母親は心配になってそう聞く。
するとその女性は何も声を出せず、ただ必死の形相で外を指差した。
それを外を覗く母親、そして彩。
二人は外を覗き込んで完全に体が固まる。
棍棒を持った高さ5メートルほどの黒い毛に覆われた巨人が町を徘徊しているのだ。
そしてその周りでは黒い怪鳥が奇声をあげながら人間たちに襲い掛かる。
「うそっ!?」
母親がそう呟いた後にとった行動は、娘の安全を確保することであった。
すぐに彩を抱きかかえる母親。
家に戻ろうと考えるが巨人が棍棒で誰かの家を崩壊させるのを見てすぐにそれをやめる。
「港よ! 港から船で逃げるのよ!」
そう叫ぶが先ほどの女性は動くそぶりも見せず、ただ目を見開いて一点を見つめていた。
彩の母親は悲痛な表情を浮かべると一瞬目を瞑り、彩を抱えたまま港のほうへと走った。
(この子だけは……この子だけは助けなきゃ!!)
母親は重いのも感じぬまま必死の走りを見せた。
その背後では町が崩壊し、人はやられていく。
「加奈!」
一人の男が彩たちを見つけそう叫んだ。
「あなた!!」
それは彩の父親であった。