「おやおや、こんなところに人がおりやすよ……」

突然の声に二人は平和な静寂を壊され、テルは咄嗟に銃を右手に持った。

すると山の洞窟の中からメガネをかけた細身で長身の男が姿を現した。

背中には自分の3倍の容量はあろうほどのリュックを背負っている。

「おーおー、そんな物騒なもん向けなさんな。」

謎の男はそういいながら火から少し離れた場所にリュックを置いた。

するとものすごい重量感のある音と振動が地面に響いた。

テルとアヤは警戒を解かずにその男を睨む。

「わいはGトラベラーズ会長のゴウというもんですわい。」

その男は笑顔を振りまきながら、名刺をテルとアヤに渡す。

そこには男が自己紹介した事と同じことが書かれていた。

「まあ簡単に言えば、移動ショップですわい。こうやって旅をしながらいろんな人に売ってまわってるんですわい。」

そう言って黙ったままの二人を圧倒しながら喋っていく。

「なんかお困りですかい? カップルが熱い夜をすごすには不向きすぎる場所ですわい。」

「なっ!?」

アヤが顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ。

「いやいや……」

テルがそう困った表情を見せると、アヤは問答無用で思いっきりテルをぶん殴った。

もはや痛みに負け声も出せずにうずくまるテル。

「かっかっか、おもろいカップルですわい。」

ゴウがそう笑いながらリュックの中をあさる。

「カップルじゃないわよ!!」

アヤが思いっきり怒鳴った。

「おうおう、そんな怒鳴りなさんな。音に反応してクイールが集まってくるわい。」

ゴウが笑いながらそう答えるのでアヤは余計にイライラし、痛みが治まり顔を上げたテルをもう一度殴った。

「どぅお!!」

テルはもはや蹲ることも出来ず、そのまま仰向けに倒れた。

「まずはまずは、定番中の定番。これがなきゃ旅は始まらない、スッコジュース。治癒成分が多く含まれたスッコの実から作られたジュースですわい。味もなかなか美味ですぞい?」

ゴウがそう言いながらボトルに入れられたミックスジュースのようなものを見せびらかす。

「他には、これこれ、毒にあたった時はこのエルバ草。ちっと苦いが、効果は絶大ですわい。」

ゴウがそう笑顔で説明していくが、アヤは聞く耳を持たず、怒った顔で炎を眺めていた。

「おっと、いいところに。」

ショウの声が聞こえ、テルは起き上がる。

「おやおや、これはショウさん、モド街道以来ですわい。」

顔見知りなのかゴウとショウが挨拶を交わす。

「知ってるのか? ショウ。」

顔を腫らしたテルがショウにそう聞く。

「ああ、何度か旅の途中でお世話になってる。必要品がこういった場所で手に入るのは一人旅では助かるんだ。」

アヤはゴウを怒りの眼差しで睨んでいる。

「そんな怒りなさんなよ、お二人の熱い時間を邪魔したのは謝りますわい。」

「なっ……もう!」

アヤがまたテルに八つ当たりしたのを察知して、テルがアヤの腕を掴む。

「ちょっ……馬鹿!」

アヤは顔を赤くしながら、もう片方の手でテルを突き飛ばした。