慌てて森に戻っていく村人たちとクヨミ。

「なんだあれは!?」

黒い塊が宙に浮いている。

少し風が黒い塊に吸い込まれているようであった。

「いったい何をしたんだ!」

一人の村人がクヨミに詰め寄る。

「分かりません。私にはいったい何が起きているのか……」

「やめい……」

後ろから歩いてきた老人がそう言うと村人たちが静かにその老人のほうを向いた。

「すけさん! しかし、いったいこれは?」

その老人のことを村人はすけさんと呼んでいるようであった。

「わしは聞いたことがある、そのソグノという世界をじゃ……」

「それには触らないほうがいい。」

老人と一緒に治療を終えたテラスが姿を見せた。

「ようやく理解ができた。それは、この世界と俺たちがいた世界を繋ぐ『ホール』だ。」

テラスが触るなといって少し、そこから遠ざかる村人たち。

黒い塊はゆっくりと降下していき、地面付近まで高度を下げていく。

「フォール……」

テラスの魔力に呼応してのものであった。

黒い塊はその勢いを止めず、地中へと入っていく。

「上から土をかぶせておけばしばらくは脅威にはならないはずだ。」

すけさんと呼ばれる老人が合図をすると村人たちは急いで、できた穴を埋める準備に取り掛かった。

そして目の前で魔法を見せ付けられた村人たちはテラスたちの話を信じるしか無くなっていた。





「それから、しばらくはその島の人たちにお世話になったの。」

クヨミはそう言うと立ち上がった。

照たち3人は座って話を聞き続けていた。

「その後、照が生まれる頃にある人の力添えで引越し、照をこっちの世界で生まれた子供としてきちんとここで育ててきたの。」

「ってことは俺はこっちで生まれたのか……」

「そうよ。あなたはこっちの世界で生まれてこっちの世界で育った。だからあなたには『ソグノ』のことは何も教えなかった。」

「そうだったのか……でも父さんは? もしかして本当に今も生きてんのか?」

照の問にクヨミはゆっくりと頷いた。

「おそらくとしか言えないけども、テラスは生きていると思うわ、『ソグノ』で。」

「じゃあ、俺が会ったのは本当に父さんだったのか?」

照はレグノ王国であったテラスを名乗る男を思い出す。

「いいえ、きっと違う。あなたがあったのは多分、反逆を起こした偽者のほうだと思うわ。」

クヨミはそう言って明確に否定してみせた。

「その偽者は、テラスの名を語り、国王として今も存在していると聞いたわ。」

「その偽者は、なんのために国王を名乗っているんだ?」

ショウが話に割って入る。

「彼はおそらくこの『ヴェリタ』と『ソグノ』の二つの世界を支配しようとしているわ。」

「支配だと?」

その答えに照が反応する。

「ええ、その支配ももう始まっているわ。10年前に起きた、通称『神隠し島』の事件。」

神隠し島の事件とは、10年前に起きた島全体の神隠しである。

以来この島は立ち入り禁止となっている。

なぜなら調査に入った調査員も一人残らず消えてしまったからである。

「その神隠し島と呼ばれる島こそが私とテラスが通ったホールがあった島……『間宮島(まみやじま)』だったのよ。」

その言葉を聞いたとき、アヤの頭にいくつかの場面が浮かび上がる。



女性が自分を抱きかかえる瞬間……

村から火がのぼる瞬間……

大量のクイールが人をむさぼっていく瞬間……

そして自分を育ててくれたリョウに抱えられる瞬間……