船のオート操縦への変更を終えたショウが操縦室から甲板へ出てくる。
テルとアヤは疲れたのか座ってぼーっとしていた。
「テルもショウもヴェリタってとこで生まれたの……?」
アヤが元気なく二人に聞く。
「多分だけど、俺はあのロウにその『ヴェリタ』からここ『ソグノ』に連れてこられた。」
テルはアヤのほうを見ながらそう答えた。
「俺は、10年前父親を探してこっちに来た。こっちの世界にいるのかも分かんねぇけどな。」
そう答えるショウの表情はどこか寂しそうであった。
「ふーん……」
アヤは二人が別の世界の住人ということを再確認し、何か一人ぼっちでいるような感覚を覚えた。
「ってことはショウは、ヴェリタでのショウは原因不明の病で死んだのか?」
テルの問いに理解できないのかショウは眉をひそめる。
「ロウが言ってたんだ、ファントムドームを出ると原因不明の病で死ぬって。」
「俺はファントムドームを通っちゃいない。あの時もホールが出来たんだ。」
「ってことは?」
「俺は身体ごとこちらの世界に来たというわけだ。」
ショウがそう自分の過去を明かしていく。
「そして俺の父親の名前はリョウって言う。」
ショウの言葉に驚いたアヤが顔を勢いよく上げる。
「リョウって……まさか?」
「分からない。アヤを育てたのが俺の父親なのかもしれない。」
「そっか……」
アヤはリョウのことを思い出したのか少し寂しそうに呟く。
2年前に突然いなくなったリョウが、ここにいるショウの父親なのかもしれない。
けれども10年前以前の記憶の無いアヤにとってはリョウが父親代わりなのだ。
「もう……訳分かんない……」
アヤはそう呟いて再び顔を伏せてしまった。
そのまま3人は黙りこみ、しばらく静寂が続いた。
そして静寂を終わらせたのは『ホール』であった。
風の向きが変わったことにショウが気がつき、立ち上がる。
「おい、二人とも見ろ!」
ショウに促され立ち上がるテルとアヤ。
そして二人の目にもある光景が映った。
進行方向の海には巨大な渦が出来上がり、その渦の中心の上ではなにやら黒い塊が空気を吸い込んでいる。
その黒い塊の引力のようなものが会場に渦を作り出しているようだ。
「えっ? あれに入るの?」
アヤが目を丸くして呟く。
「テルの話が正しければきっとあれが『ホール』だ。」
「あれを……俺が?」
テルは自分がいったい何をしでかしたのかいまいち理解できない。
そんな事を言っている間に船は渦にのまれ黒い塊に吸い寄せられていく。
「入るぞ!」
ショウが叫ぶと同時に船は黒い闇の中へと包まれた。
そしてまたテルにあの感覚が襲い掛かる。
(ああ……またこの感覚か……)