「お前、父さんじゃねぇだろ!」
テルの一言でアヤとショウの緊張が高まる。
「何を言うのですか、私の顔を忘れましたか?」
テラスは微笑みながらそう答える。
「うるせぇ!!」
テルがテラスの言葉をさえぎる様に怒鳴った。
「てめぇは俺の父親じゃねぇ!!!」
テルの鋭い目がテラスを睨む。
「右手だ! 右手が違う!」
テルはそう叫び、テラスの右手を指差す。
テルの瞳は澄んだ緑色をしている。
「右手……?」
テラスは自分の右手を眺めながら首を傾げる。
「父さんの右手の甲には、傷跡があったはずだ!」
「傷跡……?」
テラスは何かを思い出したのか一瞬固まった。
「お前、偽者だろ。」
「いいえ……傷は『ヴェリタ』から『ソグノ』へ来る際に消えてしまったのです。私は一度死んだことになるのですから……」
テラスのその言葉にテルはそれ以上強く言えなくなってしまった。
けれどもテルには核心めいたものがあった。
(あいつは父さんじゃねえ……少なくとも2年前まで俺と一緒にいた父さんじゃあない……)
「私を疑うのも仕方がありません。あなたには何も言わなかったのですから……ヤミ、今日は遅いのでテルたち3人を部屋で休ませてください。」
テラスの言葉にヤミが深く頭を下げる。
「連れて行く道中、ロウが無礼をしてすまなかった。しっかりと休んでくれ。」
テルはあの光景を思い出した。
ロウが学校に駆けつけた警官を凍らせた光景だ。
(父さんがやらせたっていうのかよ……絶対に違う……)
「では、テル様とそのお連れ様、もう一度部屋へとご案内します。」
ヤミはそう言うと3人を連れて、元々いた部屋の方へと歩き出した。
「あんた……王子だったの……」
アヤは少し寂しそうに呟いた。
しかし、テルもショウも言葉を発さずに黙って歩いていく。
「では、本日はごゆっくりお休みください。また明日の朝、お迎えに参りますので。」
ヤミは部屋の扉を開くと、テルたちを中にいれゆっくりと扉を閉めた。
アヤははーっとため息をつくとベッドのふちに腰掛ける。
しばらく沈黙が続いたが、ショウが口を開いた。
「なあ、テル、話してくれたっていいんじゃねえか? もう俺もアヤも巻き込まれてんだ。」
ショウの言葉にテルは一度目を瞑ると深呼吸をした。
「分かった。」
テルはアヤとショウの二人にこれまでのいきさつを話し始めた。
つい昨日までは、全然知らずに『ヴェリタ』と呼ばれる世界で生活してきたこと。
そして昨日、突然あのロウという男が現れて、この世界につれてこられたこと。
最初はそれが夢であったと思っていたこと。
同じ日の夜に見た夢で、アヤとショウ二人に出会ったこと。
そして港町ボルトで消えたのは、おそらく『ヴェリタ』で目が覚めたからだと思われること。
再び、ロウという男が現れて、警官を殺したこと。
気がついたら港町ボルトにいて、またアヤとショウにあったこと。