大輝は腰を抜かし、その場に座り込みながらも必死に逃げようともがいていた。
「では、行きますよ? テル様。」
そう言ってロウが手を差し出すと照は反射的に後ろへ跳び、離れた。
そして座り込む大輝を抱え、起き上がらせる。
「あ、ありがと……」
大輝が感謝の気持ちを述べる横で照とロウは睨みあいを続ける。
「いやはや、私も驚きました。」
ロウは敵対するつもりはないのか、その緊張状態を解こうと喋り始めた。
「やはりテル様はテラス様の息子です。」
ロウの言葉に照は緊張の汗を流しながらも睨み続ける。
「テル様が『ソグノ』と『ヴェリタ』の間に『ホール』を作り出したのです。」
「ホールだと?」
「そうです。そのせいで今、私の姿は他の人間たちにも見えてしまいますけれどね。」
ホールという意味は分からない照も、今回は周りの生徒もこの仮面の男に気がつくことには納得がいった。
(前回とは違うってことか……)
「ファントムドームを通り、思念のみでしかいけなかった『ヴェリタ』へ、私はテル様が作り出したホールによって実体ごと行くことができます。」
ホールとは意味の通り『穴』である。
テルが『ヴェリタ』への帰還を強く望んだために『ソグノ』と二つの世界の間に繋がる穴が出来上がったのである。
「話が長くなりましたが、行きましょう、テル様。」
照にゆっくりと近寄ってくるロウ。
照は身構え、同じ距離を保つように少し下がる。
大輝は恐れをなして走って逃げていった。
そこへサイレン音が聞こえ、パトカーが校庭へと入ってくる。
パトカーが少し離れた場所に止まるとその中から警官二人が勢い良く下りてロウの近くへ駆け寄ってきた。
「止まれ男! 不法侵入罪の現行犯だ! ゆっくりと両手を上げろ。」
一人の警官がそう叫び、ロウの前に立つ。
ロウは目線を警官のほうへゆっくりと向ける。
「何も持ってないな? ゆっくりと両手を上げろ。」
するとロウはゆっくりと手を上げる。
しかし、手が肩の辺りへ来たときに止まり、ロウは片手を警官のほうへ向けた。
「アイスドーム……」
その瞬間、照は何が起こるのかとっさに理解した。
「逃げろ!!!」
照が叫ぶもむなしく警官の1人が氷付けにされる。
その光景を見て、周りからは悲鳴があがる。
「待て!!」
「ファイアドーム……」
ロウはそのままもう片方の手から炎を発し、パトカーを炎上させ、爆発を起こした。
煙と一緒に砂埃が舞う中、台風の目のようにロウと照の周りだけが穏やかなままとなる。
「さぁ参りましょう『ソグノ』へ!」
(逃げないと……)
テルがそう思った途端、再びあの感覚が自分の体を襲う。
体が何かに吸い寄せられ、抗えない力で闇の中へと入っていく感覚だ。
砂埃が消え、視界が戻ったときには仮面の男と照はその場から姿を消していた。