強奪してきちゃった
常世果実の美咲さんのサイトから頂いて来ました、小説
フリーとのことなので載せさせていただきます!(許可も頂けたので)
追記にupです^^
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徒然なるままに日々の話や本の話やゲームの話時々駄作
オレンジ色の光に照らされたオーブンの中のケーキを、キーリは真剣な面持ちで見つめる。
ピピピ、と指定した時間を終えたタイマーの音が鳴った。鍋掴みを手にケーキをそっと取り出す。
この間<バズ&スーズィーズ・カフェ>に立ち寄ったとき、ちょうど良い機会だったのでケーキの作り方を教えてもらった。
キーリ久しぶりじゃない夕飯食べていきなさいとスーズィーは相変わらず世話を焼いてくれて、バズは相変わらず無愛想な表情のまま、お土産にたくさんのパンを持たせてくれた。
二人ともキーリが少しバイトをしていだだけなのに本当に親切にしてくれて、嬉しい気持ちと同時に申し訳ないくらいになる。うまく焼けたら今度はバズとスーズィーのために作ろう。
こんがりと焼きあがったそれは前にバズからもらったものより膨らみが足りないような気もしたが、おいしそうな香りがしてひとまずほっとした。それを冷ましておいてキーリは昼食の準備にとりかかった。
最近ハーヴェイは正午近い時間まで寝ていることが多くなった。食事は摂らないことがほとんどだが、一応キーリの分と一緒にテーブルに並べる。ハーヴェイは肉が食べられないのでキーリの食生活も野菜や加工食品中心になった。
その代わりにタンパク質を摂れるようにと、定番となった卵入りのホワイトソースの味付けを見ていると、ハーヴェイが起きてきた。
「あ、ハーヴェイ。もうすぐ昼食準備できるけど、……食べる?」
最後は疑問形というよりも諦めの入った口調で聞いた。昨日夕飯を少し食べたから今日はもう食べないだろうと気づいたからだ。
ハーヴェイはキーリが食事しているときは4人掛けのテーブルの斜め向かいに座っていることが多い。今日もハーヴェイはいつもの位置に座り、キーリもいつものようにいただきますと手を合わせてフォークを取る。ハーヴェイは、やはり目の前の料理を食べようとはせず、ぼんやり見つめているだけだった。
一口食べて、今日の料理の出来はまあまあだと評価を下す。ハーヴェイは意外に好き嫌いが多く(いや、意外ではないかもしれない。エイフラム好き嫌い多いと年下の子にまで言われていたし)、はじめの頃はキーリが作った料理をあまり食べてくれなかったが、最近は好みの味付けが分かってきた。ハーヴェイが食べないだろうと分かっている時もその味にするのが癖になってしまったが。
キーリにとっては少し濃いめの味付けのそれを食べ終わって、朝作ったケーキを切って戻るとハーヴェイはいなくなっていた。部屋を見渡すと、窓の近くに置かれた椅子に座ってひなたぼっこをしている。それでも一応、ハーヴェイの席の手がつけられていない料理の隣にケーキを並べる。
「今日、誕生日なんだ……」
呟くようにキーリは言う。
それに答える声はない。
当たり前なのだが、言うんじゃなかったと少し後悔しながらケーキを口にした。
(そういえば、1年前の今日はハーヴェイの前で泣いちゃったんだっけ……)
わがままを言って困らせて、でも何も失いたくなくて……。
(兵長……ベアトリクス……、ヨアヒム……)ぽたり、とケーキの乗った皿に滴が落ちた。
一年前は一緒に旅をしていた彼らはもういない。……そして、そのとき不安だったことは今現実となっている。
なんで今日の日にそんなことを思い出してしまったんだろうと少し後悔しながらも、どうしようもなく涙はキーリの頬を伝っていく。
ひとしきり泣いて落ち着き、涙を拭って俯いていた顔を上げた。キーリの目の前の一口食べただけのケーキと、斜め向かいには料理とケーキ……。
(え……?)
のはずが、ハーヴェイのケーキはなくなっていた。
「ハーヴェイ……」
斜め向かいに、ハーヴェイが座っていた。
泣いている間に、いつもの席に戻ってきてくれていたようだ。そして何故か、ケーキだけ食べていてくれたらしい。料理は食べていないのに。昨日夕食を食べたばかりだったのに。
「ハーヴェイが、いてくれたんだね」
兵長もベアトリクスもヨアヒムもいないけれど……。だからこそ、ハーヴェイはキーリの側に残ってくれたのだと思う。
もしもハーヴェイが話せたら、さっきのキーリの言葉にいつものようにこう返すだろう。
『なんか欲しいもんある?』
「今日は、ずっと一緒にいてね」
今、こうして一緒にいられることに感謝したいから。
だからせめて、今日一日だけは側にいさせてください。
性 別 | 女性 |
誕生日 | 6月4日 |