長かったので切りました
2015-8-27 21:58
【BF】祭日A【ロウテツ】
禊は、水に浸かって、角王が言葉をテツヤに投げかけるだけだ。上ではきっと、胃世界中のモンスターがお祭り騒ぎだろうことは容易に想像できる。テツヤもそこに行きたいだろうから、はやくこの儀式が終わればいいとばかり頭をよぎる。
水浸しのテツヤは、すこし寒そうに水から上がる。そして、もう何もかも知っているかのように笑った。先ほどの話を聞いていたからでないと、ロウガは自分にそう言い聞かせた。テツヤはそんなに苦しい世界を知らなくっていい。甲斐甲斐しく布でテツヤの肩を覆い、小さな布で髪をぬぐった。
「寒かったな。」
「ううん、大丈夫だYO。」
「城下、見に行くだろう。用意しよう。」
嬉しげにロウガが上を見上げると、テツヤはロウガの服を掴んだ。
「いい、今日はいいかな。疲れちゃったYO、ロウガだけでもいってYO。部屋からでも、花火見れるから。」
「そうかテツヤ、ならあとでおみやげ持って来させるからな。」
「ありがとうだYO、アスモダイ!ロウガも行く?」
「いいや、俺はお前と共にいる。」
「……うん、わかった、」
地上へと上がる階段の途中で、そんな会話をしながら、祭殿についてようやくテツヤは足を伸ばす。テツヤには祭り事の意味もわかってしまってるのだろう。本当に疲れた風でもあったが。でも、テツヤは疲労していた。あまりにも、最近は忙しかったのだ。
外はもう闇に染まってた。デンジャーワールドは、その名の通り夜は危険なのだ。テツヤはそれを重々承知していたから、夜半出歩くことはない。
自室の寝台で、テツヤが寝転がると窓から大輪の花が見れた。花火だ、とつぶやく。まさしく花火だ、色とりどりの光が霧散する。人間が齎した火薬を爆発させて魅せるその芸術は、異世界にも伝わっていた。そして、テツヤにも。消えているはずの地球での記憶も、こうして時折顔を出す。その記憶に確証はないけれど、テツヤもなんとなくわかっていた。
「テツヤ、人払はしておいた。あと、これ土産だ。」
ロウガの手にあったのは、屋台で出されている食べ物だ。チープなそれを、テツヤは好んだ。たこ焼きだ。テツヤが弾んでそれを受け取ると、ロウガも心なしか嬉しそうだ。
また、激しい音を立て花火が上がる。真っ黒な幕に、キラキラのモールをブチまけたように、花火が空を彩る。綺麗だ、テツヤのつぶやきは、花火の音にかき消された。
気に入りのたこ焼きを口に運ぶ。やはり、懐かしい味がするらしくテツヤはいつも、とても嬉しそうにそれを頬張る。あの、二角魔王のことだ。きっと、地球まで出向いて買ってきたに違いない、ロウガはアスモダイのことを思い起こし、笑った。
「俺にも、一つくれるか、テツヤ。」
「うん、いいYO。はい。」
口に放り込まれたたこ焼きは時間の経過に伴い冷えてはいたものの、やはり味は確かなものだ。何度口にしてもこればかりはやめられないな、とロウガはたこ焼きを噛み締めながら思った。小さいから、すぐに食べ終わってしまうのが、惜しいくらいだ。
空は未だに花火が覆い尽くしていたのだが、暫くすると暗雲がその花火をも覆うように現れた。祭殿は山の中にあるためこういう天気は珍しくはないのだが、せっかくの祭日にこんな風に雲がかかるのは、あまりにもやるせない。テツヤが不安そうに空を見上げると、どこからか花火よりも鮮明に音が飛び込んできた。
「雷……、」
「テツヤ、顔出すな。」
ロウガに無理やり入れ込まれると、近くに落ちたのだろう凄まじい音が光とともに落ちてきた。
それよりも、その稲光から現れた少年に二人は目を奪われる。まるで、彼がその雷を連れてきたかのような振る舞いだ。そうして、ゆっくり祭殿に近づいてきた。ロウガは、急いで与えられた力の槍を解放する。死狂いだ。赤い身の槍は、ロウガの手に収まっている。
「何者だ、ここにいったい何の用だ。」
「お前は呼んですらいねえ。」
少年が腕を振り上げると、まるでなにかに押されたようにロウガの体がしなる。しかし、長年の守人としての力がなんとかそれを持ちこたえた。それでも、突然現れた言い知れぬ脅威に、ロウガは驚き目を見開く。少年もまた、見上げた根性だとロウガを見下ろした。
「百鬼、相手をしろ。」
カードを取り出した少年は、それを掲げる。すると、どこからか同じデンジャーワールドのモンスターが現れた。様子が違うことにいち早く気がついたテツヤは、ロウガの裾をつかんだ。
「あいつ、なんか……いつもと違うYO。」
ザザメラ、普段はあまり見ないがこんなにも敵意を現すモンスターではなかった。ロウガも普段とは違うのに気がついたようだ。
「俺なら、平気だ。闘気四方陣!……一度ならこれでなんとかなる。」
「ロウガ……、」
ロウガは槍を構えた。今にも襲ってくる気配のザザメラをむしろ興奮させたようだ。間髪入れずに襲いかかる。ロウガとザザメラが向かい合うのと同時に、少年がテツヤたちのいる祭殿の窓の方に降りてきた。
「っち、魔法か。」
手を下そうとした少年は、テツヤに使われた魔法に手を弾かれた。怪訝な顔つきで、テツヤを見下ろす。テツヤは毅然として、その少年を見つめた。
「お前が、黒岳のやつだな。」
「だったら、なんなんだYO。」
「神の器というやつか、俺様はイカヅチ、お前らが言うところの淵神のイカヅチだ。」
「ふちがみ、一体なんのことだYO。」
「なんだ、知らされていないのか。ならこれだけ教えておいてやる、俺様はもうすでにこの身にヤミゲドウを飼っている。」
「やみ、げどう……」
「何も知らねえんだな、今度の器様はよ。知らないうちに石にされちまうんだな、まあ俺様はヤミゲドウをやすやす封印させるつもりはねえ。」
テツヤには、イカヅチが何を言ってるかは不明だ。けれど、この男は自分が器と呼ばれる所以も、どうなるかも知っているようだ。イカヅチは、テツヤの頭を小突きいやらしく笑った。
「角王に騙され続けて生きるんだな、器様。」
「怒裏留バンカー!」
一面に轟くような声と、音。テツヤは、顔を上げロウガの方を見た。ロウガの死狂いが、ザザメラの体を貫いている。こちらの勝負がついたのを見て、イカヅチはテツヤのそばを離れた。すかさずロウガがテツヤのそばに降り立ってきた。
「テツヤ!大丈夫か、」
「うん、でもあいつ……」
テツヤがもう一度空を見上げると、もうそこに雷は無くただしとしとと雨が降っていた。
「ロウガ、あのモンスターたおせたんだね、さすがだYO。」
「あれくらい、なんでもない。それより、本当に大丈夫か。」
ロウガが心配そうに覗くので、テツヤはすこし照れて顔を伏せた。もう花火は上がらないだろう、浄化はてんやわんやだ。突然の雷雨なのだからしょうがない。
そして、イカヅチの発言はまたテツヤに謎を植えつけた。
…何も知らねえんだな。
…石にされる。
…ヤミゲドウの封印。
でもきっと、ロウガも知らないことだ。ロウガが嘘をつくのを苦手なのをテツヤは知っているのだ。ロウガに頭を撫でられたテツヤは、ただ素直にそれを受け入れた。
もう、雨の音も耳に入らない。
「……神の器の正体は。」
テツヤはひどく冷たい声をだした。気の合う知識神は、大層答えにくそうだったものの、真剣な眼差しにやられて、思わず口に出していた。
あまりにも純粋だった緑の瞳は悲しげに歪む。
「そっか。」
自分がここに呼ばれた意味を伝えられたテツヤは、自分が纏っていた神具がなんだか馬鹿らしく思えた。
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プロフィール
性 別 | 女性 |
誕生日 | 11月24日 |
地 域 | 神奈川県 |
職 業 | 大学生 |
血液型 | A型 |