「浅倉さんっ、俺、あの、浅倉さんの大ファンなんですっ!」
その場の―と言っても、WWWのメンバーと渚ら4人だけだったが―は、ただ呆気にとられた。今さっきまで、対抗意識、敵対意識を燃やしていた相手のうち一人が、こちらのファンと言い出すなどと、誰も思わない。とにかく、正気を保っていた浅倉と渚と西園寺(表情は全く変わっていなかったが、恐らく)は、ただ呆気にとられた。
「それは…どうも…」
ただの間抜けた返事だった。いやむしろ、これの方が正常であろう。
「なんていうか、その、ベーシストらしからぬプレイって言うんですかね、ギターばりに動くわりに、曲の邪魔を一切してないし、むしろそれがとても新鮮なエッセンスになってるというか、浅倉さんのベースにはとてもみりょ―」
「ストップ、待った、さすがに急すぎる。そして照れる、そこまで誉められるとな。まぁ、それはさておき…」
浅倉はとりあえず暴走する的陣営のベーシストの一方的なマシンガントークを止め、こほんと息払いをして、ただ一言、
「め―」
「ぁ、そうですよね、僕としたことが自己紹介を忘れていた…。僕の名前は中村徹。使ってるベースはFENDERのプレベです!」
その一言が…言えなくて…
「あ〜…もう…俺の名前は浅倉凪、使ってるベースはミュージックマン、スティングレイだっ!」
それだけ言い放つと、右手を中村に差し出した。
「よろしく」
すぐに状況を理解し、中村の顔が明るくなる。
「こっ、こちらこそっ!」
すぐさま出された手を同じ右手で握る。
後ろでWWWのドラマーがよかったなと微笑みながら頷いているのに対して、渚と西園寺はおいてけぼりを食らっている。杉原にいたってはまだ椅子の上で体育座りだ。
「お前のベースもよかったよ、ベーシストって感じがした。支えと言うか、なんと言うか。これがベースかって感じだったよ。」
がっちりと握手をしたまま、中村の目を見て、浅倉はそう伝えた。
「…」
どうやらあの二人は何かしらで通じあってしまったらしい。まったくもって、不思議である。そうとしか言いようがない。
控え室に、なんとも言い難い空気が漂う。
「あのー…」
沈黙を破って、渚が挙手する。
「とりあえず…夕飯でも…御一緒にどうですか?」
続く