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なりたいA

室内はがらんとしていた。

寒々しいほどにからっぽで。
広くて寒いひとりの部屋。

身体が冷えて、とても疲れて、私はずるずるとその場に座り込んだ。


・・・・・もう、立ち上がれる気がしない。

なりたい

「・・・・・なんでよ」
低く渇いた声が出た。
貴方はどこか茫洋と立ち尽くし、押し黙ったままでいる。
「・・・・こんなのでいいの」
私はたぶん、何か言葉が欲しかった。
この有耶無耶な気持ちを納得させる、答えがあるなら伝えてほしい。

貴方はわずかに顔を上げると、やがて決心したかのように歩き始めた。
私の方へではなく、真っ直ぐにドアへと向かおうとする。

「ふざけないでよっ」
私はその腕を強く掴まえ、強引にこちらに向き直らせた。
「なんで?なんでそんな簡単に納得なんかできるのよ!?」

貴方は脚を止め、静かに私に視線を向けた。
私の目を真っ直ぐに捉える。
「・・・・これが、一番いい方法だ」

薄茶色の美しい瞳。
それが今は昏く苦しげに揺らめいて。

「ウソよ・・・・。・・・・何で・・・?」

良い方法って何なの。
他に方法はないのだろうか。こんな風に諦めてしまえるのは何故なの。
貴方にとって、私はその程度の相手だったということ?
貴方だからと思って。必死に受け入れて。少しだけ感動なんかもしていたのに。
だけど貴方にとっては違ったの。

もう飽きて、或いは失望して、私のこと、もういらなくなったとか。


・・・・・。

私は腕から手を離し、そっと一歩後ずさった。
強くて、優しくて、あたたかい腕。
いつの間にかこの腕に安心するようになっていた。
だけどもう。私の場所じゃない。
ずっと続いてゆくものだなんて、どうして思っていたんだろう。  

私が離れると、貴方ははっと顔を上げ、わずかに口を開きかけた。
だけど私は、そのままその場を走って逃げた。
ドアから廊下へ出てそれから外まで、ただ一心に走って逃げた。
急に怖くなっていた。 
ことばは怖い。
決定的な科白など、聞きたくない。
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