裏切り


21日、愛が覚悟を決めたのと同時に、ゆーから付き合ってみようやって提案された。
愛とゆーはバイト先で知り合ってから数年、何度も何度も付き合ってるん?て聞かれるぐらいよくつるんでた相手。
お互い、結婚相手の理想像は合致する。それでもお互い眼中になかったし、あり得そうで一番あり得ない相手だった。

最初はゆーもいつもの冗談のつもりで、ノリで終わらそうとしたんだと思う。もちろん、愛だってそうだった。
ただ今回の修羅場は全てゆー中心で起こっていて、愛が同調して面白がって、今まで否定してた共通の友達に驚かれる場面を想像して笑って、そんなノリがすぐに抜けなくなった。

それからはずっと、本気か冗談か分からない状態でゆーから口説かれてた。
そして愛は面白がって、それでもまだ結果は出ていないから、とかわしてた。


8月22日。
そんなノリのまま、ゆーと深夜の電話。
口説かれて交わして、冗談に笑って。平くんの近況がゆーの口から出て。

「電話しててんけどさ、平くんがな

俺ときっちゃんを出会わせてこうなること
分かってやったんちゃうか?

て、言われてんやん。確かに平くんときっちゃんの趣味とか合うし、盛り上がるのは分かってたことや。そうなれば面白いなとは、思ったよ」

笑って流したけど、愛の思考は止まりそうだった。今回のこと、意図してなくてもゆーの思考の中では修羅場はもう出来上がってた。その事実を受け止められなくて、ゆーを責めることも今更出来なくて、電話を切ってもそのことばかり頭の中をぐるぐる回った。

20、21日の夜は、さすがに全部忘れるから戻ってきて欲しいって一人で泣いた。枯れ果てるまで泣いた。
でも、もうこの時には涙も出なかった。よりを戻して欲しいとも思わなかった。それでも、引き合わせなければ今でも愛は幸せなままでいられた。ゆーを責めるのは筋違いだって分かってるのに、そうしなきゃおかしくなりそうだった。


23日。
ゆーに対する疑心が消えないまま、早く別れたいって呟いた愛に、付き合って周りの反応を早く見たいゆーは、早速行動に移してくれた。
この時点で、愛は平くんと別れたらゆーとも連絡を取ることを止めようと決意した。ゆーとノリで付き合ったとしても、またゆーの周りの男を好きになったとしても、愛の幸せはゆーに壊される気がしてならなかった。

バイト上がりの夕方、久しぶりに平くんからのLINE。夜、電話したいって内容に、今じゃダメなの?って急いた。
もうこの時点で早く別れたくて、早く解放して欲しくて、平くんのことも受け入れられなかった。

「待たせてごめん。‥やっぱり、きっちゃんのことが好きや」

あまり覚えてはいないけれど、少なからずこの時点で結構な罵詈雑言を発した気がする。
話したくも会いたくもなかったけれど、平くん名義のフォトスタンドやウィルコムがあったから返さなきゃいけないし、やっぱり一発殴らなきゃなって思って、翌日会う約束をして終了。

ゆーにはその結果だけ報告して、連絡を取るのを止めた。


やっと、眠れる日が来るんだと思って、少しだけ嬉しくなった。