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梅の木とリオル

 白い息を後ろになびかせながらリオルが走る。それを追いかけて、舌を出したままポチエナが走ってゆく。
 不意にポチエナが速度を緩めた。それに気付いてリオルが立ち止まると、ポチエナはぅわうとリオルに向かって吠え、進行方向を変えた。その背中を今度はリオルが追いかける。
 曲がり角に消えた2匹を追ってウインディが駆ける。大きな体躯で2匹を見守るようにゆったりと追い掛けるウインディの背中、ふかふかのたてがみに埋もれていた人間が顔をのぞかせた。

 住宅街の曲がりくねった道を入り込んだところ、葉の落ちた垣根から濃い桃色の花が覗いていた。それを見上げてポチエナが鼻をひくつかせ、リオルもふんふんと匂いを嗅ぐ。
 追い付いてきたウインディの背から人間が降りて、綺麗ね、梅の花だわ、よく見つけたね。とポチエナを誉めた。嬉しさにポチエナの尻尾がぶんぶんと振られる。

 しゃがんだ人間に撫でられたポチエナは、きゃん! と吠えると人間の膝に前足をかけ、首を伸ばして人間の顔をべろべろと舐める。人間が嬉しそうな笑い声を上げた。
 それを人間の後ろから見ていたリオルは、不意に屈むと地面を蹴りつけ、高くジャンプをした。ウインディが吠える。驚いた人間が振り向いてもそこにリオルの姿はない。
 身軽なリオルの伸ばした手が梅の枝に届いて、ぱきりと音がした。
 たしん、と地面を踏みしめる軽い音に人間が顔を正面に向ける。ポチエナも振り返る。ウインディが困ったように首を傾げる。6対の目に手折られた梅の枝が映った。

「ちょ、ちょ、折っちゃったのっ?」
 声を裏返らせた人間にリオルは首を傾げた。ウインディは半目でため息をつく。ポチエナは興味深々に匂いを嗅ぎに行った。





 人間はリオルに、人の家の木を折っちゃだめ、って言うか木は折っちゃだめなのよ、と諭した。
 そしてポチエナとウインディをモンスターボールに戻すと、耳を伏せしゅんとしたリオルと共に梅の木を育てていた家の人に頭を下げに行った。

 早起きして庭の手入れをしていたお爺さんは、梅の枝を手に頭を下げた1人と1匹をしばし見つめた後、朗らかに笑って大きな骨ばった手でリオルをわしわしと撫でた。あんな高さまで跳べるなんて、ちっこいのに偉いなぁ、とにこにこ笑うお爺さんに、リオルは耳をピンと立てて尾を緩やかに振った。
 人間は申し訳なさそうに眉尻を下げながら、許して下さって有り難うございます、と頭を下げた。

臆病なゲンガー

 アパートの玄関ホールから出た人間とゲンガーに冷たい風が吹き付ける。っくしゅ、と人間が小さくくしゃみをした。隣を歩いていたゲンガーが見上げて、腰のボールを指差した。
「寒い?」
 首を傾げた人間にゲンガーが横に首を振る。
「戻りたいの?」
 と言う問いには、少し考えてからゲンガーは横に首を振った。
 人間がゲンガーのひんやりとした手を取る。ゲンガーはきゅうっと困った顔をして横に首を振る。
「手、繋ぐの嫌?」
 ゲンガーが横に首を振る。
「じゃあこのままお出かけしよう」
 一層困った顔で首を横に振るゲンガーに、人間は苦笑して手を離した。ゲンガーは人間を見上げて、それから情けない顔で、自分の手を見ながらきゅっと握り締めた。
「夏になって暑くなったら手を繋いでもいい?」
 そっと顔を上げたゲンガーが見たのは、にこにこと笑う人間。
「暑苦しいのがキライじゃなかったらでいいけど。どうかな」
 控えめに頷いたゲンガーが顔を上げると、人間は満面の笑みを浮かべていた。
「私、暑いのは苦手だけど、次の夏がすごく楽しみ」
 歩きながら嬉しそうに告げた人間の顔を見て、ゲンガーはぱっと俯いた。その足がふわりとスキップするように浮かんで、人間は一層嬉しそうに笑った。

お雑煮とトゲピーとメタモン

 キッチンに鍋が3つ並んでいた。1つはガス台に乗せられてガラス蓋を曇らせながらくつくつと温められ、もう一つは火から降ろされて鍋敷きの上でほかほかと暖かそうな湯気を上げている。
 2つの鍋の中身は、黒に近い焦げ茶のスープに小さく切りそろえられた野菜と肉と、それから花の形をした人参。
 最後の1つの鍋は2つしかないコンロのもう片方、揚げ物用の油で7分くらいまで満たされた鍋に、白く小さな球体を人間が一つ落とした。それは一度沈んですぐに浮き上がり、ぱちぱちと音を立てる。

 もちと書かれた袋からざらざらと小さな球体を油の中へ入れた人間は、頭の上から身を乗り出してじぃっと料理が出来ていくのを眺めていたトゲピーを撫でた。
「お餅が揚がったら、お雑煮食べられるからね」
 人間の頭に上手くしがみついているトゲピーは、撫でる手に頭をすり寄せて嬉しそうにぴぃと鳴いた。

「できたよー」
 人間の声に、部屋で寛いでいたリーフィアが期待に目を輝かせ、おぼんを持った人間の足元に付いて回る。
 人間に変身したメタモンがテーブルの隣に背の低いミニテーブルを用意する。縁にスポンジの付けられたそれは、汁物を零しても床に零れないよう配慮されたものだ。
 ホットカーペットで寛いでいたブースターがミニテーブルの前に座る。同じく寛いでいたサンダースが短く鳴くいてリーフィアの尾を引っ張る。ミニテーブルを囲んだ3匹の前にお椀が置かれた。
 リーフィアとサンダースの前には微かに湯気が登るものが、ブースターの前にはほこほことたくさんの湯気が登るお椀だ。

 見比べて首を傾げるトゲピーをメタモンが抱っこしてテーブル前に座る。その前に置かれたお椀は微かに湯気がたつ、どんぶりのように大きなものが1つ。最後の1つ、やはりどんぶりのように大きなお椀は湯気がほかほかと立ち上っていた。

 席に付いた人間の膝にフカマルが座る。皆が座ったところで人間は頂きますと言った。
 それぞれ鳴いて食べ始める。メタモンが人間そっくりの手で小さめのスプーンをトゲピーの口元に運ぶ。
トゲピーはメタモンに食べさせてもらいながらフカマルのお椀をじぃっと見つめていて、不意にテーブルに乗っかると覗きに行ってしまった。

「どうしたの?」
 問いかけながら、人間は具とスープを乗せたレンゲをフカマルの口元に運ぶ。ほかほかのそれを口にしたフカマルはすぐに飲み込んで、丸呑みしないの、よく噛みなさい。と人間に注意された。
 ふかーと生返事をしてフカマルはあーんと次をねだる。トゲピーもあーんと人間にねだった。

 フカマルに一口食べさせた人間は、こっちは熱いしレンゲ大きいから食べにくいよ。と言いながらも少なめにレンゲにすくってふぅふぅと冷ました。それをトゲピーの口元に持って行く。
 案の定レンゲは口に入りきらない。ちょこんと先だけ口にくわえて、トゲピーは一生懸命お雑煮をすすった。

「美味しい?」
 尋ねてきた人間にトゲピーは首を傾げる。自分のお椀とフカマルのお椀の違いがわからなかったのだ。
 人間が笑う。
「中身は一緒、熱さが違うだけよ」

 苦笑したメタモンがトゲピーを抱き上げ席に戻る。が、しばらくしてまたトゲピーは人間の前に言って口を開けた。メタモンが戸惑う。
「いつまでたっても甘えん坊ね」
 苦笑気味に笑った人間は、さっきと同じようにレンゲに少しすくい上げるとトゲピーに食べさせる。困り顔のメタモンに悪いけどそれは食べちゃって、と告げた。
 メタモンはお椀を持って人間の隣に移動し、人間がトゲピーとフカマルに食べさせる隙を伺って人間にスプーンを差し出した。きょとんと呆気にとられた人間だったが、すぐに笑顔になってお雑煮に口をつける。
有り難う、美味しいよ。その言葉にメタモンは嬉しそうににっこり笑った。





* * * * *




 小さい球体の餅はポケモン兼人間用の商品という設定です。小さいお子さんやご高齢の方が普通の餅を食べにくいように、ポケモンによっちゃ喉に詰まったりしちゃうので、あられとして揚げてからお雑煮に入れております。

リモコンとメタモン

 真夏日の続く夏のある日。人間は朝から季節はずれの大掃除をしていた。
 その顔は焦りに染まってて必死そのものだ。
 同じ表情をしたポケモンたちと共にあらかた部屋をひっくり返した人間は、
「見つからない……どこいっちゃったのエアコンのリモコンちゃん……」
 と呟いて、蒸し暑い空気の中床に伏し、ポケモンたちもへにゃりと座り込む。
 ソファで寛いでいたブースターだけが呆れたように片目を細めた。





 首を振る扇風機の前で人間とポケモンが扇状に並んでいる。ブースターはぎらぎらと照る日差しの下で心地良さそうに昼寝しているが、あまりの熱さにリーフィアはぐったりと仰向けになってシャワーズに寄りかかっていた。
 腹ばいに寝そべったシャワーズは迷惑そうに目を細めているが、弱っているリーフィアをどかそうとはしない。エーフィは一番暑さがマシな日陰で腹を見せてぐったりしている。

 体育座りをした人間の肩を軽く叩くものがあった。鏡に移したように人間とそっくりな容姿のそっくり人間が、氷水のグラスを手渡す。
「ありがとー」
 嬉しそうにグラスを受け取るとそっくり人間がどろりと溶けて、紫色のむにむにとしたメタモンに戻った。グラスを一口煽ってから人間はメタモンを引き寄せる。

「冷やっこくてきもちいー」
 とメタモンに顔を埋める。メタモンは嫌がる様子もなくされるがままにむにむにされている。
 しばらくむにむにしていた人間が、ん? と顔を上げた。そしてメタモンの背中の一部をむに、むにむに、と触診するように揉む。

「リモコン、あったかも」
 その言葉にエーフィが体を起こす。リーフィアとシャワーズは視線だけ人間に向けた。
「なんかこのあたりに長方形の固いものがあるんですが」
 と言う人間を振り返りながら、メタモンはむにりと伸ばした手らしきもので背中側をさわる。背中と手らしきものが溶け合ってしばし、再び分離したメタモンの手には長方形の白いリモコンが握られていた。

「あった! リモコンあった!」
 叫びながら人間がエアコンをつけ、窓を閉める。うだるような暑さにまだ変化はないが、今から涼しくなることを知ってリーフィアとシャワーズが体を起こした。寝転けていたブースターがしょぼしょぼと目を開ける。
 人間に抱き上げられながら申し訳なさそうに鳴いたメタモンに、歩く時は物を巻き込まないよう気を付けてね、と笑い、涼しくなるまでメタモンをむにむにし続けた。

毛繕いとブースター

 ホットカーペットの上に長座布団を敷いて、人間がその上に腹ばいに寝そべる。自堕落な格好でポケモン雑誌をチェックしている人間の背中にブースターが乗っかり、腰の辺りで丸まった。
 ホットカーペットの上でリオルに毛繕いしてもらっていたロコンが、てててと可愛らしい足音を立ててブースターの顔を覗く。
 顔だけ上げたブースターがロコンの顔を舐める。目を細めたロコンがきゅーう、きゅーうと甘えた鳴き声を上げながら人間の背中に乗ると、ブースターはロコンの毛繕いをし始めた。順番待ちするかのようにリオルも背中に乗っかる。
「ぬくいけどさすがに重い……」
 人間の呟きにリオルは首を傾げ、ロコンは気付かず、ブースターは無視して丁寧に毛繕いを続けた。