アッシュのケー番をゲットした。
その日は浮かれて、何度も電話帳のアッシュの画面を開いては眺めてた。
おいおい…。これがギンジ様のやることかよ。
こんなこと初めてだ。
眠れない。
誰かの事を考えて眠れなくなる日が来るなんて。
っていうか。
声が聞きたい…。
どうかしてるよ、俺。
何だよ、この思考回路は。
電話掛けるのなんて仕事だし、朝飯前だと思ってたのに。
風呂入ってベッドに入って2時間経った。
ずっと、アッシュの番号を開いたまま。
通話ボタンを、何度も押そうとして躊躇って。
恋って…こういうことだったんだ。
正直、今までの自分では考えられないこの妙な感情に、少し焦りを感じた。
目を閉じて、瞼に浮かぶのはアッシュの笑った顔。
幸せそうに話す顔を、ずっと頭に描いてた。
そして俺もまた、幸せな気持ちでいつのまにか眠りに就いていた。
3日後。
自分の気持ちを整理して、アッシュに電話を掛けることにした。
コール音が耳元で鳴り響く。
やべえ…。
電話でこんなに緊張するの、初めてだ。
『…もしもし?』
10回くらいのコール音の後、アッシュの声が受話器越しに聞こえて、電話が繋がったと認識した。
「…〜〜〜よう!アッシュ君。今、何やってんの?」
電話したのはいいが何を喋っていいか分からずに、適当な事を言ってみた。
『ギンジさん。この間はありがとうございました!今、部活帰りです。』
「え?もう8時だぜ?夏場とはいえ、随分遅くまでやるんだな〜。流石一流高校は違うな!!」
そりゃ、甲子園目指してる学校ともなれば練習量も半端じゃないだろう。
こんなに、何かに打ち込めるなんて。
正直、羨ましかった。
「家帰るの?」
『はい。夕食、待たせてるし…。』
「そっか。じゃあ、飯食い終わったら俺と遊ばねぇ?」
『え?』
…しまった!!
いつもの軽いノリで言ったのが間違いだった。
真面目なアッシュが夜遅く遊びに行くなんてありえねーし!!何てあほな誘い方してんだ俺!!
ちゅーか、どんだけ余裕ないんだ俺…。
ああ、軽い奴だって嫌われたかも…。
『…すみません、そんな夜遅くに出られないんで…。』
予想通りの回答。
ああ〜〜〜!!俺のばか!!バカ!!
「そうだよな、ゴメン!聞き流してよ。」
『いえ。じゃあ、…今度時間がある時にぜひお願いします。』
…え。
…え?えええええぇぇぇぇ!!!???
な、何!!??
これって…お誘い成功ってやつ!!??
答えはもちろん。
「そうだな!!じゃ、いつ時間あるん?俺はいつでも大丈夫だから!」
ホスト毎日の様に入ってるから嘘っぱちだけど、そんなんアッシュのためならサボる。上等。
『…じゃあ、次の土曜日とか。どうですか?』
ど、土曜日…。
稼ぎ時じゃねーか…。
でも、そんなの関係ない。アッシュのためなら、俺はどんな犠牲でも払うつもりだ。
「オッケー!!じゃあ、空けとくよ。どこでも連れてってやる。どこがいい?」
「え?あ…あの、…ど、どこでもいいですよ。」
あれ?もしかしてアッシュ、照れてる?
そんなこんなで初デートに誘った。
これから、長い勝負が始まるんだ。まずは、はじめの第一歩。
こんなに誰かとのデートが待ち遠しいのも、心がはしゃぐのも初めてで。
俺は、益々、アッシュにも、見知らぬ俺自身にも、心が躍っていた。