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『西瓜糖の日々』

リチャード・ブローティガン 作
藤本和子 訳


種をまいた曜日によって果肉の色が変化する、そんな西瓜をご存じだろうか。


月曜日 赤い西瓜
火曜日 黄金色の西瓜
水曜日 灰色の西瓜


たとえば、こんな具合だ。毎日違った色で輝く太陽にあわせて、違った色の実をつける。西瓜はもちろん食べてもかまわないけれど、「そこ」ではただの食べ物ではない。収穫された西瓜の果汁は、工場で純粋な砂糖になるまで煮詰められ西瓜糖に姿を変える。西瓜糖の世界では服も小屋もガラスも、この西瓜糖でできていた。

言葉もまた、西瓜糖だ。この本で彼はあなたに、西瓜糖の言葉を使って西瓜糖の世界のことを語ってくれる。アイデス〈iDEATH〉という名のコミューン的な場所のこと気のいい友人たちのこと、夜の散歩のことランタンのこと。彫像のこと忘れられた世界のこと、今はもういない虎たちのこと。彼らの気に入っている、西瓜糖で築かれてきたいろいろなことを少しずつ。


うまくゆけばいいと思う。


あなたがいるところは遠すぎるうえに、自分にあるものは西瓜糖だきりだからと、そう話す彼には決まった名前がない。あなたの心に浮かぶこと、それがいつでも彼の名前なのだ。あなたの中にいる彼が見た西瓜糖の世界に、あなたは何を見るだろう。

アメリカの詩人でもあったリチャード・ブローティガンが紡ぎだしたこの小説は、小説であるはずなのにまるで一冊の詩集を読んでいるような気持ちにさせてくれる。ちりばめられた言葉たちは口数少なく、それでいてたくさんのことを語りかけてくる。浮き草のように危うく漂いながら我々の中へと流れ込んでくるのだ。読み進める中でそれぞれが思い浮かべる西瓜糖の世界に、同じものはないはずだ。そこに感じる脆さや美しさはきっと、彼の名前があなたの心に浮かぶそれぞれのことであるように、あなた自身の中でこそ触れることができるものなのだ。


河出文庫(\760)
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