むかしむかしあるところに、伝説の忍がいました。
その伝説の忍は五代目風魔小太郎、掟により時には残忍な事もしますが根は優しくとても動物が好きな忍でした。
これはそんな風魔小太郎に助けられて人間となり、更に隠れ家を突き止めて押し掛け女房化した鶴とその鶴に振り回される風魔小太郎のお話。
「小太郎さん、小太郎さん、恩返しさせて下さい〜!」
「…………」
「小太郎さんてば無視しないで下さい!恩返し〜!」
「…………」
今日も何故かうちに居る鶴は俺の後ろに着いて離れない。
返事を返さない俺にひたすら恩返しをさせろと袖を引きながら言ってくるのが五月蝿いので振り向いて睨み付ければ怯む事なく腕に抱きついてきた。
「やっとこっち向いてくれた!ね、小太郎さん、恩返し何がいいですか?そろそろ何がいいか決まりましたか?」
「……………」
決まるも何も、お前が出て行ってくれるのが一番の恩返しだと何度も言ったというのにその度にこの鶴は泣きながら家を飛び出してしばらくすると佐助やかすがに連れられてここに戻ってくる。
もういい加減
『おたくの嫁さんを保護したよ。喧嘩は程々にね』
『またお前の嫁が泣きながら春日山で迷子になっていたので連れて来た』
等と茶化されるのは沢山だ。
また同じ事を繰り返すのは目に見えているので先月から無視を決め込んでいれば鶴は毎日期待した目で俺を見つめ恩返しの方法を聞いてくる。
「鶴の恩返しといえばやっぱり機織りなんですけどね〜」
「…………」
一番最初に機織りをすると部屋に閉じこもって『実は折り方がわからないんです…なんかあっちで1人きりって淋しいし』とすぐに出てきたのをもう忘れたのか。
大体、うちには機織り機がない。折り方も知らない道具もないのにあの時はよくもまぁ自信有り気に言い出したものだ。
「機織りはダメですよ?淋しいから、他に何かして欲しい事ないですか?」
「…………」
炊事をすれば小火を起こし、洗濯をすれば余計に汚す、簡単な遣いに出せば途中迷子になり街中を泣きながら徘徊するお前に何が出来る。
恩返しどころか恩を仇で返してばかりのこの鶴を助けたのは数ヶ月前の事。
助けた数日後、何故か人間の姿で現れた鶴は恩返しをさせろと有無もを言わせず家に上がり込んでそれ以来住み着いてしまった。
追い出したり任務で各地へ行くついでにどこかへ置き去りにして帰れば俺の名前を出して各地で泣きじゃくり、時にはその土地を納める武将の元へまで泣きついていく。
おかげで俺は女を閉め出す酷い男だと噂され、主にまで説教され松永には男女の付き合いがなんたるか説かれる始末。
俺が一体何をしたというんだ。
「もしあれでしたら私の事お嫁さんにしちゃうとかどうですか?もう半年も一緒に暮らしてるし〜」
「…………」
鶴を嫁に、嫁すら必要ないというのに何故こんな何も出来ない鶴を嫁に、まずこいつは鶴だ。
しかも人間に化ける妖しだ。
「よぉし!じゃあさっそくまつさんに花嫁修行お願いしてきます!」
「…………」
そう言って鼻歌を歌いながら荷造りを始めた鶴に止める気さえおきず俺は頭を抱えて座り込んだ。
このご恩は一生かけて返します
(待てよ、こいつに花嫁修行をつけるとなると何年がかりだ。下手をすれば一生かかる。その間俺は解放されるのか、それは良い。)
「お料理にお洗濯、お掃除と…待ってて下さいね小太郎さん!女を磨いて帰ってきますから!」
「ああ、いってこい(そして帰ってくるな)」
「はぁい!ついでに赤ちゃんのお世話も習ってきます!」
「……、(こいつは誰の赤ん坊を産み育てるつもりだ、俺はない。断じて無い、)」