アンドロイドな小太郎。
一話サンプル。
数日前、深夜の通販で恋を注文しました。
お買い得だったもので、つい。
「さすがにおっきいなぁ」
大きな段ボールを前に呟いた私、名前はしがない会社員。
毎日満員電車に揺られて時たま痴漢にあいながら会社に行って、上司はセクハラするしお局様は怖い…その上、お給料は安いのに休みは少ない残業ばかりの少々ブラック気味な会社に勤めています。
正直、転職したいけど素直に辞めさせてくれるわけもないので、せめて家でくらいは…と心のオアシスを求めて買った商品がこちら!
「『BASARAロイド』かぁ」
ポンポンと段ボールを叩いてちょっと後悔したのがこのサイズ。私が両手を回しても届かない。
折り畳まれて入っているとはいえいくらなんでもおっきいよ。
「まぁ組み立てなきゃいけないよりマシだけど…」
最近流行りの安い家具屋さんで家具を買った時は1からの組み立てに苦労したからね。
その点、この商品は組み立て不要で箱から出したら即使用出来るらしい。まぁ、物が物だけに。
では部屋の掃除も終わったしさっそく、
「お〜い、出ておいで!お家についたよ」
段ボールに貼られたガムテープをビリビリ破って彼の眠る聖域へと踏み込む。
その過剰なまでの梱包は私をまるで眠り姫の眠る蕀の森へ踏み込むような気分にさせる。
「うそ…これがアンドロイド…?」
「……………」
やっとはずし終えたガムテープと段ボールの蓋下にあった保護紙、そしてクッションの間から最初に覗いたのは赤黒い髪の毛、まるで本当の人間の髪のような質感のそれは人工毛には見えないし本物の人毛にしては綺麗すぎる。
そして恐る恐るどかしたクッションの向こうには、眠るように閉じられた瞳に長い睫毛。
続いて他のクッションもどけるとシャープな輪郭がストイックな雰囲気を醸し出す通販で見た見本ままの美青年が現れた。
BASARAロイド、癒しを求める人のために発売されたアンドロイド。
今、話題の通販商品だ。性別も年齢もタイプも様々な種類がある。
ちなみに私が買ったのは『小太郎』
他のアンドロイドと違って喋ることは出来ない。その代わりに学習能力は高め、家事やボディーガードなどの任務(?)は伝説級にこなしてくれるらしい。
ちなみに『小太郎-染-』というカラーリング違いのバージョンもあった。
で、その小太郎と感動の対面を果たしたわけなんだけど…
「凄い…!」
「…………」
「わっ!!う、動いた?!」
段ボールの中で眠ったままだったはずの彼が私の声で微かに動いた気がした。
…気がしたんじゃない。
うっすらと開かれた瞳は長い前髪で見えづらいけど、グレーの鋭い視線が私を見上げてきた。
その瞳にさっそく射ぬかれた私は声も出ない。
「…………」
固まったままの私をよそに自分で周りのクッションや保護紙を外していく彼は、とても人間じゃないとは思えなかった。
関節の滑らかな動きも作られたものには見えない。
露になっている皮膚だって触れたら暖かそうでなにもかもがリアルすぎる。
「…………」
体はいまだ段ボールに入ったまま、私の方へ両腕を伸ばす彼の仕草は甘えているようで。
「あ……」
「……………」
思わずその手に手を伸ばして、触れた手のひらは冷たいけれど。強く私を引き寄せる力は少し強引だ。
「きゃっ!」
そして無言のまま、きつくきつく彼に抱き締められたのには、なけなしのお給料と貯めていたボーナスを注ぎ込んで一括購入した恋はとてもよい買い物だったと確信した瞬間だった。
1ミリも変わらぬ愛を貴女へ捧げます
「ちょ、ちょっとまって!とりあえず段ボールから出よう?」
「…………」