◆ だから、好きと言って。
「ねえ、魔理沙」
「うん?」
「好きよ」
私は何度目か分からない台詞をいつもと同じ調子で言った。
魔理沙は数回瞬きをして、じっとりとした目で私を見る。
「……またそれか。いい加減聞き飽きたぜ」
はあ、と溜息をついて、魔理沙が呟く。
私は懲りずに再び口を開く。
「魔理沙は?」
「なに」
「魔理沙は、私のこと、どう思ってる?」
「どう思ってる、って」
口を濁す魔理沙。
これも、いつものこと。
あいかわらず、発展がない私たち。
好きだ、と打ち明けたのは私。
それを何となく受け取ってくれたのは魔理沙。
冗談ではないし、遊びでもないことは分かっているのに。
魔理沙はその先の言葉を――私が欲している言葉を言ってはくれない。
それでもいいのだけれど。
やはり、諦めきれない自分がいて。
わがままだとは思っている。
でも、魔理沙からの言葉が欲しい。
だから、今日は、あえて。
ちょっとだけ、意地悪になってみようかな、と。
そう、思ってしまったのだ。
「いい、わ。言いたくないなら、それでも」
「あ……」
しまった、というような表情。
魔理沙は正直すぎる。
すぐに顔に出るんだもの。
だから人に――私に付け入る隙を与えてしまう。
「私だけ、一方的だったわね。ごめんなさい」
「おい、霊夢?」
焦った声音。
もうひと押し、かしら。
「魔理沙は別に私のこと……そんなふうに思っていないのよね」
声のトーンを少し低くして呟いた。
俯いて、魔理沙の気配だけに集中する。
どんな反応を返してくれるだろう。
「……っ、違う! 私は……私は、霊夢のこと――」
ぎしり、と縁側の床板が軋み、湯呑茶碗が転がる。
零れたお茶から、微かに湯気が立つ。
何事かと驚いて顔を上げれば。
勢いよく立ちあがり、私を見下ろす魔理沙がいた。
「ちゃんと、その……好き、だ……と思う」
言ってしまってから、恥ずかしくなったのか語尾がフェードアウトしていく。
「ふふ、魔理沙、顔が真っ赤よ」
思わず頬が緩む。
今の魔理沙の姿が、あまりにも可愛くて。
くすくすと私が笑うと、魔理沙はむっとした顔で睨んでくる。
「……今の、演技だったな?」
「だって魔理沙、いつも何も言ってくれないんだもの」
「腹黒巫女め」
そう言って、拗ねたように後ろを向いてしまう。
「なんとでも」
湯呑を置いて、ゆっくりと立ち上がる。
そして後ろを向いたままの魔理沙をぎゅっと抱きしめた。
「う、わ……っ!? れ、いむ?」
「このままでいさせて」
私の行動に驚いてあたふたする魔理沙の耳元でそう囁く。
すると、諦めたようにおとなしくなる。
無理に振り払おうとしないのは、気を許してくれているからか。
そう思うと、嬉しくてたまらなかった。
「魔理沙、好きよ」
私はもう一度だけ。
歌うように、囁いた。
そんな午後の昼下がり。
「いやあ、青春ですねぇ」
出刃亀もとい文がにやにやしながらその光景を写真に収めていたのはまだふたりには秘密。
はい。甘めです。
結局両想いなふたり。
黒い霊夢と純な魔理沙が好きです。