「....なんで?」

「はあい?」

「私、男性をお願いした筈なんですけど....?」

「あれぇ?女だと信用できない感じですぅ?」

「い、いえそういう問題じゃなくてですね」

「大丈夫ですよぉ、老若男女問わず経験ありますし、これでも私プロですから!」

「え、そうなの....っていやだからそうじゃなくて」

「それじゃぁまずは口頭でのシステムのご説明から入りますねぇ」

「だっだから話を聞けと」

「えっとぉ、あっやっだーマニュアルお店に置いてきちゃったぁ。えへへー、私ったらドジっ子ちゃん(はあと)」

「いやだっっっから!!!」

「はあい?」

「なんで!!」

「はあい?」

「男のデリヘル頼んだのに!!」

「はあい?」

「女が!!ウチに来てんだって訊いてんだよ!?」

「あー、やっぱりそういうの気になっちゃう感じですぅ?」

「当たり前でしょうが!!なに!?気にならないとでも思ってたの!?何度も何度も訊こうとしてましたよね私!?ていうかさっきから何なのそのしゃべり方!?すっごい腹立つんですけどギャルかアンタは!?」

「えーん、私ギャルじゃないですぅ」

「カッチーン!!」

「キャハハやぁだぁ、お客さんったらギャグセン超フルモンティ☆」

「何!?古いって言いたいのそれ!?余計なお世話よこの脳みそプリン!!ギャルっていうよりむしろプリンよアンタは!!」

「私プリン嫌いなんですよね」

「は、は....?」

「人間の食べ物じゃないですよアレ。この世から欠片も残さず抹消したい」

「え....あ、あの....?」

「えっとぉ、確かにお客さんは男の子で予約してくれてたんですけどぉ」

「アッハイ」

「私が来たのには浅からぬ理由があってぇ」

「は、はい」

「お客さん、『木下五郎座衛門(きのしたごろうざえもん)』って名前に覚えありますぅ?」

「........何でアンタが私の元カレの名前知ってんのよ」

「えっじゃぁゴロちゃんが言ってたことホントだったんだー!すごーい!」

「ゴっ....!?いや人の質問に答える癖つけなさいよアンタは!」

「やあん怒られちゃったー、ペロリーヌ♪」

「....」

「あっお客さんすごい顔してるぅ。せっかく可愛いのに勿体ないですよー、ほら笑顔笑顔♪」

「....」

「あっ今天使が通りましたよぉ」

「....プリンに加えて電波ちゃんまでインストールしてんのアンタ」

「あれれぇ?聞いたことありません?沈黙は天使が通った証だって」

「....フランスのことわざでしょ?
会話が途切れて皆が黙り込んだ時のことを『天使が通った』って言う」

「なぁんだー知ってるんじゃないですかぁ」

「人づてに聞いただけ。でも確かそれって、沈黙は沈黙でも、場がしらけて沈黙が流れている時のことを指すんじゃなかったかしら」

「でも状況的には合ってますよねぇ?お客さんしらけてるでしょ?」

「それが分かってるんなら質問にちゃきちゃき答えなさいよアンタは!!」

「えっとぉ、何でゴロちゃんを私が知ってるかってことですよね?」

「あああもうそうよ!!それよ!!」

「ゴロちゃんー、今ウチのお店で働いてるんですよー」

「....はい?」

「去年の冬くらいだったかなぁ、突然ウチのお店に来たんですけどぉ。
あっ今は立派な稼ぎ頭なんですよー!」

「....え、いやちょっと待って」

「はあい?」

「....働いてるって、誰が?」

「やっだぁお客さん頭と耳動いてますー?」

「カッチーン!!(2回目)」

「だからぁ、ゴロちゃんですよー、ゴ・ロ・ちゃん☆」

「....ロザえもん、が?」

「うーん、そのあだ名も大概ですよねぇ」

「....何で」

「はあい?」

「何で、アンタのとこで働いてるわけ....?
しかもよりにもよってそんな、で、デリヘル....なんかで....」

「あれれ、お客さーん?大丈夫ですぅ?スイッチ入っちゃいましたぁ?」

「何でよ....婚約までしたのに急に振られて、いくら理由を訊いても殆ど何も答えてくれなくて....」

「あぁースイッチ入ってますねぇ」

「終いには誰にも言わずに何処か行っちゃって....れ、連絡も、取れなくなって....」

「おーい」

「それでも、振り切らなきゃってやっと、やっと思い始めたのに....」

「もすもーす、もっすもーす」

「その為にいっちょデリでも頼むかーって思った矢先に何でか電波プリンギャルがウチに来てソイツから元婚約者がデリで働いてるって突然聞かされた私の身にもなりなさいよおおおおお!!!」

「わぁぁ肺活量すごぉーい」

「ロザえもんは!?ロザえもんは今店にいるの!?」

「ちょ、お客さんおちつつつ」

「いるんでしょ!?ねぇ!?答えなさいよ!!」

「ままままっててててししししっしたたたかかかむむむっむ」

「答えろー!!!」

「セイヤッッッ!!!」

「あいっだああああ!!!」

「もー、ちょっとは落ち着いてくださいよぉ。何の為に私が来たと思ってるんですかぁ」

「....アンタ女の癖にえげつないパワー系ね」

「そういうプレイが好きなお客さんもいますから☆」

「....取り乱して悪かったわよ。
もう落ち着いたから。....ちゃんと説明してくれる?」

「はいはーい☆
....と、その前に、いくつか訊いておきたいことがあるんですけどぉ」

「はぁ?....はぁ、ハイハイ何よ?」

「まず、お客さんはゴロちゃんが別れを切り出した理由って覚えてます?」

「え?まぁそりゃぁ....殆ど答えてくれなかったけど」

「ゴロちゃんは、何て言ってましたか?」

「....『ごめん、今のままじゃセツ子ちゃんを幸せに出来ない。
いつか、君を幸せに出来る日が来たその時は....必ず君を迎えに行くから』」

「....うわぁ、一言一句覚えてるんですかぁ」

「アンタが何て言ったか訊いてきたんでしょうが。....それ以上はなーんにも答えてくれなかったし、話を聞いてもくれなかったけどね」

「ふむむぅ。
....もう一つ質問です。お客さんは、今でも五郎座衛門さんが好きなんですか?」

「....何でただのデリにそこまで答えなきゃなんないのよ」

「とーっても大事なことなんですぅ。だからネッ☆お・ね・が・い☆」

「....正直、よくわかんないわよ。
アイツのこと思い出すと未だに腹立つし、せめて一発は殴らなきゃ気が済まない気もする。
....でも、アイツが私からそんなに離れたかったなら、そっとしておいて振り返らないでいた方がいい気もする。
『幸せにする』だの『迎えに行く』だの、何処かで期待してる自分が居るのも確かだけど、それを100%信じて待ってられる程夢見る歳でもないわ」

「....そうですかぁ」

「大体さ、『幸せにする』っておかしな言葉だと思わない?
“幸せ”って、どちらか一方が与えるものでも受け取るものでもないでしょ。
好きな人と一緒に居られれば、それが私にとっては何よりの幸せだったし。人の幸せを、勝手に自分の物差しで語らないで欲しいもんよね。
....それに、例え一緒に居て不幸になったとしても良いやって思える気持ちが、何より大事じゃないのかしらね」

「....でもゴロちゃんがそう言ったのにも、何か理由があった筈ですよね?
お客さん、何かゴロちゃんに不満とかあったんじゃないんですか?」

「んん、そりゃまぁ長い付き合いだったし、全く無かったとは言えないけど....」

「....ゴロちゃん、辛かったんですって」

「....何が?」

「お客さんの期待に応えられてないんじゃないかって。
お客さんのことが大好きだから、自分なりにお客さんに追いつこうと頑張って頑張って。
でも、どんどんお客さんは一人で先に行ってしまうような気がして、遠くに行ってしまうように感じて辛かったみたいです」

「....何なの、それ。意味わかんないんだけど」

「一緒に居たいのに、アナタの隣に居るのが本当に自分で良いのか。
自分と一緒に居て、本当にアナタは幸せなのか。どんどん自信が無くなってしまって。
そんな自分は、いつかアナタに飽きられて、見限られてしまうんじゃないか。
....そう思ったゴロちゃんが苦悩の末に思い至ったのが」

「....デリヘル?」

「えぇ」

「....そこまで追い詰めてたっていうの?私が?」

「勝手に悩んで自分で自分を追い詰めていた感もありますけどねぇ」

「....そんなの、相談してくれれば良かったのに」

「出来なかったんでしょうねぇ、当時のゴロちゃんには」

「....私、無意識のうちにロザえもんに求めすぎてたのかな....。それが嫌になって、ロザえもんは」

「....」

「....そう、デリヘル、ね....そう....」

「....お客さん、あのですねー」

「....」

「ゴロちゃん、すっごいんですよー。
初めてお店に来た時は技も知識も経験も無いしでお前チェリーかよってカンジだったんですけどぉ。
色々な人と経験を重ねて、色々なことを吸収していって。グングン他の子たちを追い抜いて、今ではナンバーワンにまで上り詰めたんですよ」

「....それ聞いてると物凄く複雑な気持ちになるんだけど」

「身体付きも、始めは豆モヤシみたいだったのに。
毎日身体を鍛えて、整形にも思い切って手を出してみて」

「え、せ、整形までしてるのアイツ?」

「そうですよ。お蔭でこんなに立派なおっぱいもゲットできました」

「....ん?」

「んー?」

「....おっぱい?」

「触ってみます?ニセモノでもそこそこいけますよぉ?」

「....ろ、ざ、えも、ん....?」

「....えへへ、はい」

「....おんな、だよね?」

「はい」

「....何で女になってんの!?ねぇ!?ちょ、おんな、って、はぁぁぁぁ!?!?!?」

「ああん☆ビックリさせちゃってごめんなさいね☆」

「ビックリっていうか!?え、ドッキリ!?ドッキリだよね!?」

「あはは、そういう芸人魂のアツいところ、全く変わってないなぁ」

「狙って反応してるんじゃないんだよ!?素でめちゃくちゃビックリしてんのよ!!え、ちょっと何で!?アンタあの、あれ、せせせ性同一性障害?だったっけ!?」

「えーっと、そういう訳ではないんですけど....。
あのですね、私今のお店の門を叩いてから、老若男女、本当に沢山の人達と色んなプレ、経験をしてきました」

「今更その言い直す気遣い出しても全く意味ないわよ!!」

「まぁまぁ聞いて。
私ね、セツ子ちゃんを満足させられてるのかずっと不安だったの」

「....それってまさか....ぷ、プレイ面、で....?」

「....うん、そう。
セツ子ちゃんは何事にも貪欲に進んでいけるギラギラ肉食ガールでしょ?
私は逆に引っ込み思案で、何に手を出すにもついつい臆病になっちゃう流行りの草食ボーイ。
セツ子ちゃんの貪欲さがプレイ面にまで食指が及んでいった時、....私、すごく不安になっちゃったの。
『このままでいいの?』。『今の私のままじゃ、セツ子ちゃんはきっと満足できなくなっちゃう』。って。
率直に言うとマトモな神経のままでは命の危険と精神が磨り減っていくのを感じたの」

「それで....修行、しに?」

「うん。ただ修行を重ねていくうちにね、その....『女になって受けに回るのも良いかもなぁ』って。きゃっ☆」

「....手が触れただけで顔赤くなる位ウブだった頃のアンタは何処に....」

「えぇーでもすっごく楽しいよー今の身体!女になってから指名もグンッと増えたし!
....本当はもっと修行を積んでからセツ子ちゃんを迎えに来る予定だったんだけど....。
このままどっぷり漬かっていたら本来の目的忘れて俗世に戻れなくなりそうな気がしたから、さっきお店辞めてきたの」

「一々話の流れが急だなぁ!?さっき辞めてきたの!?」

「うん。お店にセツ子ちゃんからの予約が入ったのが切っ掛けになったんだけどね」

「あ....そそれは、その....私も寂しかったというか....色々溜まってたというか....」

「ううん、いいのよ。悲しい思いさせたのは私なんだから。
....本当は、今日アナタに会いに来るのも怖かった。だって別れを切り出した時の私の台詞聞かせてもらって改めて思ったけど、マジクソなんだもの過去の私。
きっと、凄く凄く恨んでるだろうなって思ってた」

「....でも、会いに来てくれたんだね」

「....ずっと、好きだったから。
自分を変えたくてアブノーマルな世界に飛び込んだのも、大好きなアナタと色々なプレイを一緒に楽しめるようになりたかったから。自分に自信を持ちたかったから。
一緒に、幸せを感じたかったから」

「....ロザえもん」

「改めて言うわね。
セツ子ちゃん、待たせてごめんね。
....こんな、男か女かもよく分からない私だけど....、迎えに来たの。
こんな私でも、受け入れてくれる?」

「....バカね。男だとか女だとか関係無いわよ。
私は、ロザえもん、アンタが好きなんだから」

「....セツ子、ちゃん....」

「....ロザえもん、小ロザえもんはそのままなのね」

「....えぇ、だって男の身体も捨てがたいじゃない?
それに、私も小ロザえもんも、セツ子ちゃんのことが大好きなんですもの。もうさっきからギンギンよ」

「....この短時間で色々あり過ぎて、極めつけの無理くりハッピーエンドに脳みそ擦り切れてヤケクソになってる私が居るけど....。いいよ、来て....」

「....私の大嫌いなプリンに私を喩えた罪、朝までその身体で償ってもらうわよ!!」

「来てぇぇぇぇ!!!私のプリンにカラメルソースを掛けて欲しいのぉぉぉぉぉぉ!!!」

「人違いだけど!!」

「人違いじゃなかった!!」

「「これより有料チャンネルとなりますので続きを御覧になる場合は料金のお支払いをお願い致します!!!」」



おわれ