「ねぇ、看守さん」


見廻りをしていた不破は、暗い獄内を見回し声の主を探す。


「こっちこっち」

「…またお前か、鉢屋」


名前覚えててくれたんだ、と笑う囚人――鉢屋は、ゆっくりと立ち上がる。


「看守さん。俺のお願い、聞いてくれる?」

「何度も言っているだろう!お前を出す訳には…」

「ははっ…違う違う。今日は違うお願い」


いつも飽きもせずここから出せと言ってくる奴が、今日は違うお願いだと言う。おかしい。鉄格子に近付いてくる鉢屋を睨むが、奴にそんなことをしても無意味に等しい。

がしゃん、と鉄格子と手錠の当たる音が静かな獄内に響き渡る。鉄格子に手をかける鉢屋の手が、指が、やけに色っぽく見えた。


「ねぇ、看守さん。俺と楽しい事しない?」


手錠はそのままでいいからさ、と流し目で見てくる鉢屋に、不覚にも高鳴る胸。先刻色っぽいと感じてしまった己を恨んだ。


「ふ、ふざけるな!もう寝ろ!!」


大きく足音を響かせて牢から出ていく不破の後ろ姿を見送り、鉢屋は一人溜め息をついた。


「まだだったか。しかし…」




いけないとは分かっていても
本能には逆らえまい




「もうそろそろ、かな」