つづき。
2015-8-30 14:14
【BF】ウルフェナイト・2【ロウテツ】R-15
「……」
テツヤは、ただ電話と向き合っていた。朝に、天空ルームを訪れるのは初めてだ。しかも、アスモダイなしに。なにが、テツヤをそうさせているのかはわからない。それでも、今日はここにいなければならない。
タスクに預けた自分の服は、結局帰ってこなかった。タスクに掛け合おうとしたものの、辛そうに顔を歪めた彼にそんなこと言うのは野暮だろう、とやめたのだ。タスクはいま、この天空ルームの一室で眠っているらしい。起きて、様子が普通なら聞こう。様子が普通でなければ、あの服と帽子のことは忘れようと思った。
太陽が見えない今日の空は寂しいものだ。曇りや雨は、気分が落ちる。それに、テツヤは朝が苦手だ。余計にいろいろ嫌になる。
「はあ、」
誰もいないと、寂しさが増す。俯き加減に、画面に目を落とす。こんな時間から連絡を取れるはずがない。使い物にならないスマートフォンをポケットにしまい込むと、テツヤは椅子の上で体育座りをした。
「なんで俺、ここに来たんだろう。」
それは、単に今ある現状だけではない。自分が、バディポリスとしてこの場にいる意味だ。
ダークヒーローを使う三度笠の男、死ヶ峰骸とのファイトに無様に負けてから1日たった。バディポリスになってから、負けなかったテツヤにとってその敗北は痛い。もし、これがヤミゲドウとの戦いだったら、自分の大切なバディや、大事な人のいるこの地球さえ危機に瀕することに繋がる。もともと、不真面目な自分がこんなことをしてていいのか、わからない。
「牙王の助けになりたいだけじゃダメかな、俺だけじゃ……ダメなのかYO。」
それから、憔悴しきった牙王の様子。頼れる斬夜はいない。テツヤは不安だった、曇り空も相まって自分の正しい感情がどんどん消えていく。
ただ、楽しいダンスを踊りたかった。楽しい日々を送りたかった。みんなと、楽しく、自由に。
テツヤは、ますますふさぎ込む。なにが正解か、不透明だ。
静まり返った部屋で、突然電話の音がなった。テツヤは、ハッと顔を上げ辺りを見回す。自分の電話の音ではない、バディポリス連絡用だ。そうか、この電話のために自分はここにやってきた。テツヤは、急いで応答する。
「……荒神、先輩。」
「黒岳テツヤ、か。」
お互い驚いた顔をしている。わけもない、クリミナルファイターのはずの荒神ロウガが、バディポリスに電話をしているのだ。そして、テツヤに会いたいと願ってたロウガは、まさかその人が目の前に出てくると思わず驚いている。
「ここ、バディポリスだYO。先輩。」
「ちょうどいい、お前に用があった。」
「え?」
ロウガは、もう心の内を明かすつもりだ。超名古屋から、超東驚まで、バディスキルを使えば問題ない。闇の内で考えた。この胸のざわつきもなにもかも、会ってしまえばどうにかなる。テツヤは、そんなロウガがまさか自分に用があると思わず首をかしげる。
「そんな、でも先輩どこに。」
「いいから、外に出ろ。画面越しも、声だけも、もう散々だ。」
その姿を、感触を。この手に。ロウガの、まるでファイト中のような瞳に、目を見開いた。
「わかった、いいYO。」
テツヤにはなにもわからない。ただ、不明すぎるこの気持ちと現状に、なにか答えが欲しかった。荒神ロウガは、テツヤにとって尊敬できる人間の一人だ。もしかしたら、悩みの解決を助けてくれるかもしれない。
心踊り、テツヤはベランダの方に向かう。雲の隙間からのぞく太陽、その光を受け、そこに、ロウガが立っていた。心なしか、嬉しげにテツヤは駆け寄った。自分に好意を持って接するテツヤの存在に、ロウガはじ、とテツヤを見つめる。二人は互いに顔を見合わせ、そして照れながら顔をそらした。
「突然だったから、びっくりだYO。」
「あぁ、いろいろな。」
「でも、荒神先輩がちゃんとおれのこと覚えてて、名前呼んでくれて、本当に嬉しいYO。」
ありがとう、とテツヤが満面の笑みを浮かべる。
「大したことはない。」
「じゃあ。」
「龍炎寺タスクの失せ物だ、お前ので間違いないな。」
ロウガが渡したのは、テツヤの服だ。テツヤは驚いて、ロウガの方を向く。きっと、どうしてこれを、とかタスクと何がとか、そんなことを聞かれるに違いないので、ロウガは、わざとそっぽ向いた。
「……パーカーはないんだ。」
ぎく、とロウガは思わず青い顔でテツヤを見た。どんなに拭っても、シミになるし、匂いも消えない。それに、個人的に返したくない。度々起こるだろう、性的な高まりを抑えるのに、もうテツヤ以外では果たせそうじゃないのだ。
「でも、サンキューだYO、タスク先輩に聞くのは、ちょっと、だったから。」
「そうか。」
「うん、荒神先輩、来てくれてよかった。」
テツヤにここまで感謝されるとは、思いもしなかったロウガは、その全てに感動していた。しっかりしている。見た目とは裏腹に、だ。悪魔とともにいるとは、考えられない。
ここまで純粋な好意があるのなら、もしかして、テツヤならばなにをしても許してくれるのではないか。と、ロウガの方の悪魔が、囁いた。
「こんなに、いろいろしてくれるなんて。ね、荒神先輩、俺に何かできることあるかYO?」
ほらきた。
「荒神先輩、く、苦しいYO……、」
ばたつくテツヤを押さえつけて、ロウガはテツヤを抱きしめ首筋に顔を埋める。
ロウガの要求は、二つ。一つはバディファイトだ。これは、テツヤも大歓迎で、実際にモンスターを呼び出しはしなかったものの、なかなか楽しいファイトになった。久しぶりのそれは、負けたところでなにもない。気負いしなくていい戦いの心地よさに、テツヤは、泣きそうになった。そうだ、これこそが、自分の望んだもの。ロウガにテツヤは、深く感謝した。
そして、二つ目。
「今から、俺が何をしても受け入れてくれないか。」
言動の意味がよくわからない、でもテツヤはもし暴力だったらどうしようと渋った。テツヤの考えが、なんとなくわかったロウガは、慌てて訂正した。
「暴力じゃない、じゃなくて、そうだな……」
口にするのは恥ずかしい。抱きしめさせろ、だなんて言えるはずがない。
言うよりも、行動だ。と抱きしめてから、テツヤはまるでおとなしくした。暴れるかと思って顔を見るに、ぽかんとしている。
「おい、テツ…」
そして、見る間に赤く染め上げられる。何が起こっているか処理するのに、随分と時間がかかるらしい。ぱくぱくと、酸欠のように口を開けたり閉じたりをして、それからふるふると顔をロウガの方にやった。……そうだ、先輩のしたいことをうけいれなきゃ。
テツヤは、抱きしめるロウガの背に手を回す。そして、苦手そうにふにゃりと笑った。
「痛くないなら、大丈夫だYO。」
あまりにも、可愛らしかった。後輩に対する先輩の愛情はこういうものなのだろう。どきりと胸がなる。性的に興奮はしていなかった、ただ胸が高鳴る。
それが恋という感情だとは、二人とも気づかない。
「……荒神、せんぱい。」
「テツヤ、嫌だったら言ってくれ。」
ロウガは、テツヤの首筋に顔を寄せ、鼻を鳴らした。思わぬ行為にテツヤの体が跳ねる。
「嫌だったか。」
「やじゃない、けど、びっくりしたYO。」
緑の瞳が熱を帯びる。そんな様まで愛おしい。
誰もいない天空ルームを独り占めするかのように、椅子の上で、たっぷりロウガはテツヤを抱きしめた。匂いは、まさしく昨晩に達したソレだったが、感触が加わることで、また違った感じになる。小学生らしく柔らかい四肢、ダンスで鍛えているのかしっかり硬い腹筋や背中。それでも、どこか気持ちの良い体は、いくら堪能しても物足りなさがある。首筋から香る甘いバナナの香りと、汗ばんだ髪の香りは、まるでどの香水よりも良い。たまに、頬を寄せれば、柔らかい頬が、抵抗することなくロウガを受け入れる。
「せんぱい、くるし。」
「あぁ、わるい。」
腕の力を緩め、テツヤを開放すれば、げほげほと呼吸を整える。
「でも、なんで俺のこと抱きしめたり。」
「悪いか。」
「悪くないけど、先輩こんなに俺のこと好きなのかなあって。」
テツヤが、まだ万全でない赤らんだ顔で上目遣いにそんなことをいったので、ロウガは涼しい顔で、好きだ、と思わず言ってしまった。
「好きだ、好きじゃなければこんなことはしない。」
赤らんでいた顔をますます赤くして、テツヤはロウガを見つめた。
「すき、って。え、ええ。」
「今のように、抱きしめたいし、よかったらキスもしたい。」
「ちょ、ちょっと待って、先輩俺、男ってわかってる?」
「そんなことはわかっている。それに、男だからって好きになっていけないことはないだろう。」
「う、でも。俺。」
「俺は、お前とどうにかなろうってわけじゃない。今日は悪かった、いろいろあってお前に、会いたくなってしまった。」
ロウガは、テツヤの頭を撫でた。テツヤは、混乱の中、ロウガの青い瞳を見つめる。真剣な眼差しだった。
……テツヤは、ロウガのことを、尊敬していた。それに、テツヤには恋に似た感情を持つ少女がいる、だから、この気持ちは、尊敬なのだ。
「先輩がいいなら、キス、いいYO。」
今度は、テツヤがロウガに近づいた。絆されている、わけじゃない。尊敬しているからこそ、ロウガの思いを叶えたかった。ロウガが、自分の名を呼んでくれたのだから。
「お前は、いいのか。」
「俺は、俺ができることならって言ったもん。だから、先輩の気持ち、優先する。」
ね、センパイ、キスして。
場数を踏んだような言葉に、小慣れた言い方、でも恥ずかしそうな瞳は、確かにテツヤが初心な証拠だろう。そして、ロウガもまた、初心だ。テツヤの髪を手でときながら、薄く柔らかな唇に自らのを被せる。甘い。
「ん、……」
舌は入れなかった。怖気付いたわけじゃない、テツヤを大切に思うからこそ、そう一歩を踏む出せなかった。
「悪かった、な。」
バツが悪そうな顔のロウガを、咎める言葉は出なかった。ただ、こつこつとテツヤの胸から、水が湧き出る。好きの水、感情の水、そしてそれは涙になる。
悲しいわけじゃなかった、嫌だったわけでも、苦しいのでも、痛いのでもない。よろこびともまたちがう涙は、限りない罪悪感だ。ロウガの、純粋に自分を好きな気持ちを、自分の居場所に利用してしまった。寂しさを埋めるため、ロウガを弄んだ。そんな、ロウガへの罪悪感の涙だ。」
「ごめん、なさい……でも、でもおれ、おれ……寂しかったんだYO。」
「黒岳テツヤ、」
「どうしていいか、わからなかったんだYO。誰にも頼れなかった、さびしくて、どこに行けばいいかもわかんなくって、だから。」
ロウガは、思わずテツヤを抱きしめていた。テツヤが顔を胸板に寄せて、泣く。
「荒髪センパイの好き、を……こんなふうに、つかっちゃ、だめだYO。」
「俺も、俺も、お前の尊敬を利用して抱きしめたりした、きっかけは俺だ、わるい……」
テツヤが顔を上げた。ロウガとの距離は、近いなんてものじゃない。濡れそぼった瞳も、赤らんだ顔も、嗚咽交じりの喋りも、あの時のロウガの妄想の中のテツヤだ。それでも、ロウガは真剣な眼差しでテツヤを見下ろす。……先輩、ごめんなさい。瞑った目からは、真珠のように涙が溢れる。こんな思いをさせたくはなかったのに。こんな思いをさせるつもりはなかったのに。こいつには、笑っていて欲しかったのに。
ロウガは、テツヤの額に口付けた。それから、また、悪いな、といってテツヤを抱きすくめる。男の涙は、見せたくないし見たくもない。テツヤの泣き声がまた始まったタイミングで、ロウガも悔やんだように歯を食い縛る。
「お前の、お前の居場所になってやる。俺は、そばにいてやる。」
「……うん。」
「誰にも話せないことならば、俺がいる。」
テツヤを抱きしめながら、ロウガはテツヤの耳元で紡ぐ。
もう、テツヤの世界は今は不透明じゃない。ロウガという色が入り、ゆっくりと世界がまた構築されていった。瞳を開けば、ロウガの背には青空が広がっている。そうだ、今日は土曜日。テツヤはぐいぐいと袖で顔をぬぐった。
「テツヤ、」
「先輩、サンキューだYO。」
楽しげな口調で、テツヤはロウガの頬にキスをした。ロウガは、ぽかんとしたのち、らしくもなく顔を赤らめテツヤの方を見た。
「っ、テツヤ!」
「今のは、その……大好きな先輩に対してのだから、勘違いだめだYO?」
くすくす、笑うテツヤに、ロウガはこれから振り回されるのだろう。頭が痛い。好きという気持ちを弄ぶのが悪いことだと知ってるくせに、こういうことはできてしまうのだ。こんな思いならば、この少年をどうにか自分のものに、自分の方に振り向かせてやりたいと思うのが正常な考えだろう。
テツヤを抱きしめる手を強めた。
「く、くるしいってぇ。」
「俺はお前の居場所、ってことは、お前も俺の居場所なんだ。」
「じゃ、ジャイ○ン……、くび、首噛まないでYO、せんぱい」
ロウガの腕をいくら攻撃したところで、効果は無しだ。それよか、同学年の誰にもないし、アスモダイともまた違う筋肉のつきように、どき、と胸がなった。
「気晴らしでもするか。」
「う、っわ。」
テツヤを抱きしめたまま、立ち上がったロウガは扉に手をかける。
テツヤがいくら小さいとしても、一応小学六年生の自分をたった二歳しか違わないロウガが抱き上げるのは、さすがに思うところがある。ロウガが、同年代はおろそかその上の代よりも、背が高く筋肉量も多かったとしても、だ。不安で、ロウガの方に体を寄せた。
「ダークバディスキル、オン。」
ダークコアデッキケースがそう告げると、ロウガの体が浮く。青空のもとに、二人は放り出された。バディスキルで空を飛べるものの、こういう風に空を飛んだことのないテツヤにとって、今の状況は非常にまずい。ひし、とロウガを掴んで離さない。
「吊り橋効果、」
「せ、先輩なんか言った?てかもう、怖いから戻してYO。」
「いいや、お前には俺を好きになってもらいたいからな。」
「もういい加減にしてYO〜!」
バディファイトクラブが開催されるのは夜、超名古屋に帰るのは、夕方、今は昼だ。テツヤとの久しぶりの邂逅で、許されている時間はもう4時間しかない。
テツヤには悪いと思いつつ、この時間を無駄にはできない。ロウガは、テツヤを連れて、さてどこに遊びに行こうかと、人の多い商店街を見下ろした。
「あ、先輩俺今日補習だったYO、相棒学園に下ろして…」
「小学生の勉強なら、俺が教えてやろう。」
「本当、助かるYO!先輩大好き!!」
計画通り。
テツヤの頭の軽さ具合に感謝して、ロウガとテツヤは、テツヤの家の方角に向かうこととなった。
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プロフィール
性 別 | 女性 |
誕生日 | 11月24日 |
地 域 | 神奈川県 |
職 業 | 大学生 |
血液型 | A型 |