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ハロー

今回は、逃げる余裕もあったのに、逃げようという気持ちが起こらなかった。半分以上自分の意思で、彼女はとうとう諦める。もう、認めざるをえない。
彼が何かを言おうとし、しかし、迷うように口を閉じた。

「…また、謝りますか?」
「すまない。いや、これは『すまない』と言ったことに対しての謝罪だ。すまなかった」

彼が綺麗に撫でつけた髪をぐしゃぐしゃと掻きむしる。

「俺は、ただ、お前のことを好ましく…、いや、一人の女性として想っているんだ」

彼の言葉に、彼女は目を閉じた。それから一度大きく深呼吸する。

「…貴方って、性格だけじゃなく趣味も悪かったんですね」
「そうかもな。口がへらなくて、金に煩くて、身なりに無頓着で、どうしてこんな女を、と自分でも思う」
「それを言ったら、貴方だって、無愛想で不器用で雑でデリカシーがなくて、それから」
「まだあるのか」

彼女が指折り数えるのを、彼が困ったように眉を下げた。そんな彼に、彼女は小さく笑う。

「…つまりは、私も趣味が悪いってことです」
「……っ…」


彼女はそう言って笑いながら、ようやく受け止めたこの恋の、始まりであり終わりでもある時間を胸に刻み込もうと、必死だった。

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