昔、誰かが読んでくれたおとぎ話でもあるまいに。


波打際に、一人の少女が打ち上げられている。俯せになって荒い呼吸をしているのがこの位置からでもわかる。

くあくあくあ…

空からかもめの呑気な鳴き声が聞こえる。

俺はその少女に近付きしゃがみこんだ。磯臭い。海の臭いがすごい。少女の呼吸はやはりおかしい。リズムがおかしいんだ。まるで全速力で走り終えた子供のような。

とりあえず俯せの少女を仰向けにする。

親父みたいに真っ白な髪の毛をした少女の頬はほんのり紅くそまった白だ。まだ若い、若い娘さんがどうしてまた。海賊でもあるめぇしいやいや海は広いしなあなんて思った。

「おい」

頬をぺちぺちと叩く。すると眉間にしわを寄せてうっすらと目を開ける。

「おい、大丈夫か?」

ぼーっと焦点の定まらない少女の瞳は真っ青だった。黒のような青。

いつの間にか少女の呼吸は落ち着いていた。

「俺はエース。お前さんは誰だ?」

仰向けの少女を頭上から覗きこむようにして問いたときに視線が始めて交わった。ほんっと真っ青な目してる。

とたんに少女はガバッと起き上がったので危うくお互い頭がぶつかりそうになった。

「あっぶねぇなー」

少女は俺の存在か無視するかのように辺りの景色をキョロキョロと見ている。そして自分の足を必死に触ってさすっていた。俺は少女の行動が何が何だかわからない。しかし少女もまた、不思議な顔をしながらそんな行動をしている。

「なあ、」

「ここは、地上です、か?」

始めてはっせられた声はやけにくぐもっているようで、そして切れ切れだ。

「人間に、なれたのね」

目の前の少女は真っ青な瞳を真ん丸にして自分の足を見ながらそう言った。

「まさかよぉ…」

昔、誰かが読んでくれたおとぎ話でもあるまいに。

まさか、目の前にいる少女は、