「さようなら」
目の前で安らかに眠る君へと向けた言葉なのか、それとも自分に向けてなのか。
僕は君が、愛おしい。
出会ったとき、なんて素敵な子なんだと思った。今まで多くの人間と会ってきたけど、君以上の子なんていたのだろうか。
肌は白く、流れるような黒髪の艶やかさ。そのコントラストが美しさを際立てている。
ほっそりとした指が僕の頬に触れたとき、その指の体温に癒された。ああ、なんて温かかいのだろう。
温かさ。
そして君の首元からとった血液は、やっぱり温かかった。
なんて素敵なのだろうと僕は感動し、迷わず血をとった。
だって僕には体温なんてないのだから。僕に流れる血はいつだって氷点下のような冷たさだし、僕にとって血って体を動かしてくれてるものってだけだから、そんなこと気にもしなかった。
でも、君の血は温かかい。
君の血が僕の糧となって僕の血も温かかくなればいいと思った。いっそ僕を溶かしてしまって。
君は笑っていた。君の肌はどんどん白くなって、ますます美しくなった。
僕の頬に触れる指は、ますます細くなって、
体温が無くなっていった。
僕は相変わらず君の温かかい血をもらっていた。でも僕は相変わらず冷たいまま。そして君もどんどん冷たくなっていく。
ああ、これは、人間の死だ。
確かに、白い君は、細い指の君は、美しい。
でも冷たい君は
まるで僕のように冷たくなっていく君。
僕のせいだ。
僕は自分の指先をナイフで少し切った。当たり前のように切り傷ができ、そこから血がどくどくと出てきた。
「飲んでみる?」
君の口元に真っ赤に染まった僕の指を捧げる。
でも君は、笑っただけで受け入れてくれようとはしなかった。僕の、この冷たい血を。
忘れていた。
君は、人間で
僕は、吸血鬼
「さようなら」
目の前で安らかに眠る君へと向けた言葉なのか、それとも自分に向けてなのか。
僕は君が、愛おしい。
だから僕は、今宵、僕の中に流れる冷たい血を、僕の中に住み着く呪われた吸血鬼を、殺そうと思う。