5年後編続きというか佐久編を余興で書いてみました。追記から。
半端なところで切れてますが、後編は一応エロありでパス付きで上げる予定です。
今回の前半はジャブなんでキスシーンのみです。
次回のパスワードは佐久くんのところの内戦番号だよ!過去のバーティゴうp分から探してね!
あ、ちなみに多分前回の5年後編(誓のほうのやつ)を読んでからじゃないと分からない話になってしまってます。面倒臭くてサーセン
説明も結構省いてますんで・・
久々のリハビリ習作なんで、ふーん程度に読み流してください。たまには何も考えずに文を書かないと頭が錆びる。
5年後編あげるまえにさっさと完成品全編アップロードせぇって話だよなwww
本を完成させて力尽きたのだった!完!ちなみにタイトルは東的神アルバムのタイトルから。聴け!!(深夜のテンション)
あ、暫定でコミティア100受かったっぽいです。暫定サークルリスト載ってましたんで。
あと来月11日には航空機系イベント参加します。
The space between us
忘れたくても忘れられないことと、忘れたくなくても忘れてしまうことではどちらが辛いのだろう。
黒い靄に浸食され、正常を失っていく日々の中で、佐久は記憶に苛まれた。
忘れられない記憶。
小さな家が密集した眼下の街から、黒煙が吹き上げる風景を見た。
淡い緑の田園地帯の中、街はのどかでささやかなのに、家々は端から炎に巻かれていた。
翼にミサイルを抱え異国の空の下を裂いていく戦闘機の影。
力と食料を持った強い者を、諦念と疑問の眼差しで見る餓えた弱いもの。
そしてストレッチャーから垂れた、痙攣する白い指。
忘れてしまう記憶。
住宅街の夕暮れの街並み。誰も傷つき、死んでいない駅のホーム。
心の奥底に残っていた、肌の柔らかさ。繋がった心身のとろとろとした温度。絡まった指。
目の前で血が流れるほど、空が炭の色の煙に染まるほど、佐久の正常を支える記憶はぼやけていく。
兵士が引き金を引く度に、薬莢は絡みついた灰色の硝煙と共に排出される。
街を抜けるたびに、日干しレンガの影の向こうに動かない身体を見付ける。
それらはひとつずつ確実に、佐久を錆びさせていった。自分の身体が塵になって風化していくような錯覚を見た。
忘れたくても、忘れられない。
戦場を去った今でも、夢に見ていた。凡そ180日の、すべての日を。
匍匐飛行で近付いていく戦闘地域。装甲車の列を、屯する戦車を飛び越えていく機体。
航空機の進出の前に行われた野砲の射撃で、山からは火の手が上がっていた。レーダーや対空火器を潰した砲弾は、同時にその周囲にあった民家をも破壊し尽くしていた。
予告なく落ちてくる砲弾からは、逃れることはできなかっただろう。そこにいた人々は何が起きたのかを理解する間もなく死んだはずだ。
砲弾が落ちる前の一秒と、落ちた後の一秒では世界が切り替わってしまったようだった。
ヘリコプターで飛び越えたレンガのガレキの下には、原型も留めない死体があるはずだった。なぜなら、数時間前まではレーダー施設は正常に運用されていたのだから。
そして、他でもない佐久たちの進出のためにその砲撃は行われたのだった。
それが戦場だった。
しかし死は敵にだけ降り注ぐものではない。
「ヘリコプターの損害率は高い」という分かりきったことを、実際に目にした。
そんなことは、パイロットなら誰でも知っている。しかし、データとしての損耗が顔と名前のある人命で実現したとき、ひとは激しい動揺を覚えるのを知った。
5機の編隊で飛んでいった機体が、数時間後には2機欠けて帰ってくることもあった。
補充の人員が入っては、また彼も帰ってこない。
言葉を交わしたパイロットたちが、櫛の歯が欠けるように消えていく。夕方、ベッドの上に遺されたカバンから伸びる長い影を覚えていた。
無常な確率のゲーム。誰が次に帰らないのかは、誰にもわからない。
「ヘリコプターの損害率は高い」。そんなことは佐久だって、知っている。
けれど、帰ってこない同僚を前にそんな理屈で納得できるはずがなかった。
しかし、自分の命がその分母に含まれていることを佐久は知っている。
炎が装甲車を舐める戦場の上空で、コックピットに飛び込んできた鉄の弾頭は風防を破壊した。
一気に流れ込んできた軽油の燃える臭い、黒い靄、そして夜風。命の燃える温度。
機関銃の弾はガラスを砕き、その破片は佐久の頬を抉った。裂ける皮膚を闇のなかで感じた。
溢れ出る血が迷彩服に滴り、焼けるような感覚が頬一面に広がった。
もう少しずれていたら頸動脈を裂いていただろう。視界にただただ広がるのは、はっきりと覚醒しているのになぜか夢現の夜。傷は頬に残り、その夜を、今でも夢に見る。
だから。
「今日が最後かもしれないと思ったら、堪らなくなった」
佐久は、幾度も悪化を繰り返す国際情勢を報ずるニュースを消し、目の前でギネスに口を付ける誓の目を見た。
まともに会話をするのは1年ぶりくらいだろうか。戦争から帰ってきてから約2年。付き合いはもう5年にもなる。
最初はいがみ合い、共に戦に向かい、そして別離した。その途中で好き合って、それゆえに離れなければならなかった。
その誓が、佐久の平均的な独身用アパートの殺風景な部屋にいるのは違和感があった。
戦争の後、横田に転属してからは当然部屋にいれたこともなかったからだ。というより、彼女を意識して避けていた。
今でも、その面影に肺に石が入ったようになる。彼女の左足の完全は、佐久が奪ったのだから。
透明なガラステーブルのボード越しに見えるその膝には、今日もサポーターが巻かれている。
ストッキングを履いた脚のフォルムは、それによって損なわれていた。
正座を崩していた誓の太腿を包むブラウンのタイト・スカート。ツンと上を向いたバストの陰影が、ベージュのブラウスに落ちる。
食事もせずにギネスをラッパで飲む誓の目は、グラスの中の月のように揺れる。
顎のあたりで短く整えられた柔らかい黒髪に指を通し、誓は机に肘をついていた。
昔は長かった髪はもうない。頬のラインが痩せて、ガラスの破片のように鋭かった眼光は深く和らいでいる。
黙って佐久の話を聞く誓は、無表情のままだ。白い顔。うっすらと光沢が乗った生肉のピンク色の唇は、変わらないボリュームだった。
影を落とす睫毛と、濃いめの眉。それは意志の強さというより意地の強さを反映されているように思えた。
何者もを触れさせない鋭さはそれでもなりを潜め、今では森のように沈黙している。
誓は変わってしまった。わずかに残る記憶の中の誓ではない。そして、佐久自身もまた、変わってしまった。
左足の不自由も、それが原因で自分を責め、自分から遠ざかっていった佐久のことも、誓は何も恨んでいないと誓は言った。
緊急状態に陥った佐久機のため危険な状態で任務を継続し、結果エイワックスのアビオニクスの故障のために感電した誓は、むしろそのことを誉れとしていた。
使命のために命を捧げること、そしてたったひとつのいのちを救うことを諦めた瞬間、自らの本当の人生もまた終わるのだと言った。
それは誓自身が選んだことで、誰のためでもなかった。
それでも、佐久は自分が許せず、そして誓が怖かった。
過ぎていく時間の中で、このままでは取り返しがつかないと知りながら、何もできなかった。
主任教官と、科目教官という立場で再開してもなお、近接することはできなかった。
その回顧の中に、新橋の屋台で呑んだ彦根の言葉が蘇る。
ーーお前、それでいいのかよ。また情勢もきな臭くなってる。開戦したら真っ先に行くのはお前だぞ
だから。
今日が最後かもしれない、そう思った。
「勝手だと分かっていても触りたかった。確かめたかった」
忘れてしまった暖かい身体を。柔らかな夜を。
誓は俯き、目を伏せる。心なしかその指は握り締められていた。
「ねぇ、喉が渇いた」
誓がギネスの瓶を差し出す。佐久はそれを受け取り、口に含んだ。
口の中にギネスが流れ込むと、泡がぶつかり濃厚な苦味が広がる。そのなかにわずかに洗剤のような、口紅の味がした。
向かい合った白い顔の顎を引き寄せると、わずかに潤み開いた唇に、唇を重ねた。
目を閉じると、指先に伝わるのは顎関節の段差と、触れた頸動脈の血潮。
口に含んだギネスがポタポタと合間から顎を伝って落ちる。それにも構わず、口移ししてそれを飲ませた。
誓が嚥下する度に、喉の骨が動き、気道が動く。それを指の神経で感じながら、咲いた花を揉むように唇を蹂躙した。
息が詰まる。挿し入れた舌が舌に触れる。重く苦い泡の後味の中で、湿った粘膜に包まれたその肉を突ついた。
応えるように先端をなぞるその舌が、全身を戦慄させる。味わうための器官が、まるで性感帯にだった。
表皮の下を流れる血流が増え、漏れる息が荒くなる。テーブル越しにいつの間にか抱擁し合い、そして繋ぎ止めた身体が触れ合った。
下着の硬い布地の向こうで、圧迫される胸のフワフワした感触までもが胸板に伝わってくる。
首筋から脈をなぞり、そのままブラウスの襟の中に手を触れれば、しっとりとした肌が指に吸い付いてくる。
鎖骨から盛り上がる胸の稜線を追えば、指先が皮膚越しの脂肪にわずかに沈む。最初は表皮一枚を触れるようにそっと撫で、やがて下着に支えられたその内奥に浸透する。
冷たい指が探り当てる、蕾のようなしこり。それをごくわずかに弱く左右に撫でると、息継ぎに離れた唇から短く息が漏れた。
佐久の首筋に巻かれた腕の柔らかさと、指先で感じる体温。触れそうで触れない、離れた唇。
目の前の瞳に満ちた潮が歪んで佐久を映す。吐く息に滲んだ囁きが、耳をくすぐる。
「理由がないと、いてくれないの?」
その言葉が帯びる切実が、佐久の目を伏せさせた。
強く瞬いて、瞳を見返す。筋状の虹彩に、どこまでも黒い瞳孔。青みがかるほど澄んだその黒が、佐久の捉える。
「もう理由なんていらない」
残された時間は、どれほどあるのだろう。こうして肌を重ねることは、あと幾度許されるのだろう。
そう考えると、今まで口実を探ってきた愚かが急に虚しく思えた。
顔を離し、一度身を引く。解けた身体が、急に寒々しくなる。
「誓」
テーブルに伏せ、その名前を呼んだ。滴ったビールが肘を濡らす。
答えはなかった。
唇が震え、歯がカチカチと音を立てる。どうしようもない欠乏感が全身を襲った。
そして、どうすることもできない愚かを詫びた。
「許せ」
邪魔なガラステーブルを除け、カーペットに誓を押し付ける。
空になった瓶が床に落ち、転がった。それも意に介さず、身体を重ねる。
傷つけながら尚も欲さずにはいられない。降り始めた雨の音が、妙にはっきりと聴こえた。
ブラウスの乱れた胸元に溜まる影。組み伏せた身体の体温。その唇と頬が、血色に染まる。
睫毛は涙に濡れ、蛍光灯の当たった産毛は立っていた。
ハーフパンツの下で、腹筋に欲情の熱い塊が触れている。もう一度、何かが壊れていくのを感じた。
目尻から、こめかみを伝って流れた誓の涙を舌で拭う。
苦い塩味が広がる。涙は血液からできている、ということを思い出す。
透明な血潮を飲み下し、佐久は白い闇の中に沈んだ。